高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

文字の大きさ
45 / 85
番外編

しばしの間、バナトフェナーラの入城を禁ずる

しおりを挟む
「殿下、これはどういう事ですか?」

呆れた表情のアーシュが一枚の紙を僕に差し出した。アーシュが敬語で話すのは、仕事が絡んでいる時だ。椅子に腰掛ける僕は執務机の前に立つアーシュを睨みつける。

アーシュの持つ紙には、先日僕が城内の使用人達に向け出した勅命が記されている。

"しばしの間バナトフェナーラの入城を禁止する"

「書いてあるとおりだが?」

「書いてある内容は理解しています。私が聞きたいのは、なぜバナト商会の入城を禁止されたかということです。日用品や城の備品を発注できないと使用人達が困惑しています」

「よく読め。バナト商会の入城は禁止していない。バナトフェナーラを入城できないようにしただけだ」

「バナト商会の関係者で入城を許可されているのは、そもそもフェナーラだけです。なので、この勅命をすぐにでも撤回してください」

まるで勅命は僕のワガママで、しかもそれに周りが振り回されていると言いたげなアーシュの口ぶりに腹が立つ。そもそも、この勅命を出す原因を作ったのはアーシュだと自覚すらしていないのか。

「撤回はしない。バナト商会の関係者に新たに入城許可を下ろす。そうすれば使用人達の業務に影響はでないだろ?」

「殿下、なぜそうも頑なにフェナーラの入城を拒否されるのです?」

僕が代替案を出したにも関わらず、それをアーシュはスルーしフェナーラの入城禁止の解除をせまる。
まぁ、フェナーラが入城できなくなったら、アーシュも困るからだろう。今回の勅命は、アーシュとフェナーラを接触させないようにするためのものだし。

「自覚がないってのは、一番タチが悪いな。なぜこうなったのか、自分の胸に問いかけてみるんだな」

僕はアーシュに言い捨て、これ以上話すことはないと手元の書類に目を落とす。

「ヴィル、もしかして一昨日の商談のこと、まだ怒ってるの?」

僕の眉間に力が入る。
怒ってるだと?
一昨日見た情景がフラッシュバックし、落ち着きかけていた感情が再び呼び起こされる。
僕は椅子から立ち上がり、アーシュの胸ぐらを掴んだ。

「当たり前だろ!どうせ僕は経験も少ない床下手だよ!」

あんな場面見たくなかった。
一昨日、城の客間で談笑する二人の間に並べられていたものを見た時、怒りよりもショックの方が大きかった。それが何かなんて僕にだって分かったんだ。それは夜の行為に使用する道具だって。

「僕じゃ満足できないからから、あんなものを買おうとしてたんだろ…っ!誰と使おうとしてたか知らないけどっ!」

感情が昂り、声は震え、涙で視界がぼやける。こんなことで泣くなんてみっともない。泣いた所で何も解決なんてしないと分かっている。分かっているけど、自分ではもう抑えられなかった。

「こんなに傷つけて、ごめん」

アーシュはこちら側まで回り込むと、僕を抱きしめる。僕の背中を撫でる手つきは優しくて、その仕草からアーシュの愛を感じる。
でも…

「謝るくらいなら…もっとバレないように…して欲しかった…」

僕にバレないように使ってくれていたら。他の相手の影なんて気づかずにいられたのに。でも、知ってしまったから、こんなにも動揺して、傷ついた。

「バレないように…は無理かな。だって、俺が営む相手はヴィルだけだから、使うのももちろんヴィルになるし」

「え?」

アーシュの言葉に驚いて見上げると、アーシュと目が合う。

「ああいう道具を買おうとしたことに怒ってるんだと思ってたけど、もしかして俺が浮気してるとでも思った?」

僕を抱きしめる腕の力を強めたアーシュの目は据わっていた。僕の背中には冷たい汗が流れ、やばい。と第六感が告げる。

「俺がどれだけヴィルを愛しているか教えてあげるね」

綺麗な笑顔を僕に向けると、アーシュは僕を肩に担ぎあげ早足でどこかへ向かう。

「ア、アーシュ待って!ちゃんと話そう。…まだ公務が残ってるし!」

「うん。ゆっくり話し合える場所に行くだけだから、安心して。それに公務も今は急ぎのものないでしょ?」

アーシュは僕の制止を次々とかわしていく。その間も歩を止めることなく進み、そしてとうとう目的地に到着する。そこは、予想通りの場所ー僕たちの寝室だった。

ーーー
「アーシュ、話し合いは?」

ベッドに組み敷かれ、この状況もといアーシュの機嫌を何とかしたくて、言い募ってみる。

「もちろんするよ。でも、先に俺がどれだけヴィルを愛してるか分かってもらわなきゃ」

「あれは僕の勘違いだった!アーシュが愛してるのは、僕だけ!分かってるから、大丈夫。これ以上はもう充分」

据わった目でじっと見つめられ怖いことを囁くアーシュ。愛は充分伝わっていることを訴えると、アーシュはなぜか眉間に皺を寄せ、さらに不機嫌になる。

「うん。全然、分かってないみたいだね。今夜は寝かせてやらないからヴィル覚悟してね」

「や、やだぁ!」

そう言って僕の両手をベッドに押さえつけると、アーシュは僕の首筋に噛みつく勢いでキツく吸い付いた。

ーーー

「んっ…ふっ…やっやぁっ」

服を全て剥ぎ取られ、うつ伏せの姿勢の上にのしかかられる。身動きが取れず、アーシュにされるがままになる。執拗に胸をいじられ、時折痛いくらい強くつままれ引っ張られる。そのせいでジンジンと熱を持ち敏感になった、そこは軽く撫でられただけでも快感が走る。

「気持ちいいね、ヴィル。俺が気持ちよくしてあげたい。抱きたいって思うのはヴィルだけなんだよ」

「うんっ…わかったぁっ…あっやぁっ…いやっ」

「本当にわかった?これから先も俺が抱くのはヴィルだけだから」

「うっうんっ…わ、わかったぁ…アーシュっ…顔みたいっ…やっ」

アーシュは僕の体を反転させるとキツく抱きしめる。

「ヴィル、俺のこと好き?愛してる?」

「好き…アーシュが一番好き」

アーシュは僕の言葉に満足したように微笑むと、優しいキスを僕の唇に落とす

「俺もヴィルを一番愛してる。これから先もヴィルだけを」

そう言うとアーシュは僕の後孔を一気に貫く。アーシュが奥に進むたびに圧迫感を感じるが、それ以上に甘い疼きぐ体の奥から湧き上がる。

「ふあっ…やっあっ…はげしっ…ま、まって…」

「ヴィルが可愛すぎるから、もう我慢できない」

アーシュはそのまま腰を動かして僕の奥を穿つ。僕はアーシュから与えられる甘やかな刺激に飲み込まれ、理性は形なく崩れ去っていった。


結局、アーシュの宣言通りに僕は抱き潰され、翌日はベッドで一日過ごすことになった。

アーシュを怒らせちゃダメ絶対。今回の出来事から、僕はそれを胸に刻み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ
BL
オメガバ/α×Ω/見知らぬαの勘違いにより、不安定だった性が完全なΩになってしまった受け。αの攻めから責任を取ると言われたので金銭や仕事、生活等、面倒を見てもらうことになるが、それでもΩになりたくなかった受けは絶望しかない。 攻めを恨むことしか出来ない受けと、段々と受けが気になってしまい振り回される攻めの話。 ハピエン。

縁結びオメガと不遇のアルファ

くま
BL
お見合い相手に必ず運命の相手が現れ破談になる柊弥生、いつしか縁結びオメガと揶揄されるようになり、山のようなお見合いを押しつけられる弥生、そんな折、中学の同級生で今は有名会社のエリート、藤宮暁アルファが泣きついてきた。何でも、この度結婚することになったオメガ女性の元婚約者の女になって欲しいと。無神経な事を言ってきた暁を一昨日来やがれと追い返すも、なんと、次のお見合い相手はそのアルファ男性だった。

【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜

葉月
BL
《あらすじ》  カトラレル家の長男であるレオナルドは双子の弟のミカエルがいる。天真爛漫な弟のミカエルはレオナルドとは真逆の性格だ。  カトラレル家は懇意にしているオリバー家のサイモンとミカエルが結婚する予定だったが、ミカエルが流行病で亡くなってしまい、親の言いつけによりレオナルドはミカエルの身代わりとして、サイモンに嫁ぐ。  愛している人を騙し続ける罪悪感と、弟への想いを抱き続ける主人公が幸せを掴み取る、オメガバースストーリー。 《番外編 無垢な身体が貴方色に染まるとき 〜運命の番は濃厚な愛と蜜で僕の身体を溺れさせる〜》 番になったレオとサイモン。 エマの里帰り出産に合わせて、他の使用人達全員にまとまった休暇を与えた。 数日、邸宅にはレオとサイモンとの2人っきり。 ずっとくっついていたい2人は……。 エチで甘々な数日間。 ー登場人物紹介ー ーレオナルド・カトラレル(受け オメガ)18歳ー  長男で一卵性双生児の弟、ミカエルがいる。  カトラレル家の次期城主。  性格:内気で周りを気にしすぎるあまり、自分の気持ちを言えないないだが、頑張り屋で努力家。人の気持ちを考え行動できる。行動や言葉遣いは穏やか。ミカエルのことが好きだが、ミカエルがみんなに可愛がられていることが羨ましい。  外見:白肌に腰まである茶色の髪、エメラルドグリーンの瞳。中世的な外見に少し幼さを残しつつも。行為の時、幼さの中にも妖艶さがある。  体質:健康体   ーサイモン・オリバー(攻め アルファ)25歳ー  オリバー家の長男で次期城主。レオナルドとミカエルの7歳年上。  レオナルドとミカエルとサイモンの父親が仲がよく、レオナルドとミカエルが幼い頃からの付き合い。  性格:優しく穏やか。ほとんど怒らないが、怒ると怖い。好きな人には尽くし甘やかし甘える。時々不器用。  外見:黒髪に黒い瞳。健康的な肌に鍛えられた肉体。高身長。  乗馬、剣術が得意。貴族令嬢からの人気がすごい。 BL大賞参加作品です。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

処理中です...