スパダリ様は、抱き潰されたい

きど

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はじまりは、あの日

37.元彼

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上質なスーツを纏う茶髪のツーブロックが似合う甘いマスクのイケメンが、長身を生かし川奈さんをすっぽり抱き込んでいる。
状況の理解が追いつかず数秒間思考が停止するが、川奈さんが謎の男に抱きしめられていることにハッとする。

「川奈さんから離れてください!」

「いたっ」

川奈さんを抱きしめる男から川奈さんを奪い取ろうとするも、余計に抱きしめる力を込められ川奈さんが辛そうに声をあげる。

「君、真斗とどういう関係?」

「良平、離して!」

謎の男、もとい良平さんは俺を鋭い視線で射抜き川奈さんとの関係を聞いてくる。

対して俺は、りょうへいと名を聞いて、心が凍りつくのを感じる。川奈さんの心に居座り続けている男、この人と再会したら川奈さんは俺たちの関係にどんな決断をするのかを考えるとずっと不安だった。川奈さんの気持ちが徐々に俺の方を向いてくれてる実感はあっても、俺たちは未だに曖昧な関係のまま。そんな不安を自分で直視しない様に、川奈さんに悟られない様に取り繕ってい関係を築いていたのに、なんで俺たちの前に現れ邪魔をするんだ。

「俺は川奈さんの…知り合いです。それより川奈さんが苦しそうなので離してあげてください。」

「え?」

「あぁ、そうなんだ。こんな時間に一緒にいるからもしかしてって勘繰ってしまったよ」

俺達の曖昧な関係は、まだ恋人ではないし、だからといって友達でもない。仕事のクライアントだが、それを言うとややこしくなりそうなので大雑把に答えると、川奈さんが困惑の声を上げる。良平さんが腕の中の川奈さんを一瞥した後、先程までとは打って変わって人懐っこい顔をする。

「そうなんですね。もしかして良平さんと川奈さんは今日会う約束してたんですか?」

「事前に今日、日本に着くとは連絡してたけど、約束はしてなかったんだ。日本に着いたら一番に会いたかったから空港から急いで来たんだ」

「連絡返してないのに、突然来るとかあり得ないだろ!いい加減、離せ!」

周りをよく見ると良平さんの背後にはキャリーケースがあるから、本当に空港から来たのだろう。
でも敢えて分かりきった質問をし今日来た意図を確認しようとしたら、その答えに心がピリつく。それに川奈さんが良平さんに非難の声を上げるのも、普段より砕けた口調で二人の距離感が近いことがイヤでも分かり、更に苛立ちが増す。

「ごめん。ごめん、どうしても真斗に会いたかったんだ。あとさ、この時間だともう終電ないから、泊めてくれない?」

「はぁ?何言ってるんだよ!泊める訳ないだろ!」

良平さんのまさかの発言に、川奈さんが食ってかかり、話は平行線になる。

「元彼のよしみで泊めてよ」

「俺達が別れた原因を忘れたのか?あんな別れ方したんだから泊める訳ないじゃん」

良平さんは川奈さんに追い募ると、川奈さんは昔を思い出したのか力なく呟く。良平さんは元彼と発言した後、俺の様子を横目で一瞥したので、俺と川奈さんの関係がただの知り合いではないと疑っているのだろう。

「忘れてないよ、傷つけてごめん。それについて弁明させて欲しいから、今日会いに来たんだ」

「…今日は」

良平さんが俯いた川奈さんの頭を撫で、優しく囁けば、川奈さんが顔を上げて良平さんを見上げる。
完全に二人の世界で俺は蚊帳の外。すれ違い別れたかつての恋人達が互いに想いが蘇り、再び心を通わせるのだとしたら、俺はさしずめ噛ませ犬といったところか。そう自然と思ってしまった自分が心底嫌になった。



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