36 / 51
はじまりは、あの日
36.対峙
しおりを挟む
「川奈さん!」
思ってたよりも早く連絡が来たことに浮かれ、玄関が閉まると同時に川奈さんを抱き寄せる。
「急に会いたいって言ってごめんね。どうしても話しておきたいことがあって」
「ううん。会えて嬉しい。俺も川奈さんに話さなきゃいけないことがあるんだ」
俺の腕の中に納まり控えめに言う川奈さんの目の下には相変わらず隈が出ていて、まだ仕事は落ち着いていないことを察する。仕事の話じゃないとすると何の話か皆目検討はつかないが、俺も川奈さんに異動の話をしなければと思っていたのでいい機会だった。
「先に田浦くんの要件から聞いてもいい?」
「うん。あのね、非常に言いにくいんだけど…」
ソファに腰掛けると川奈さんから促されたので異動の話を切り出すが、どう伝えるか迷い言葉に詰まる。T市から遠い支店になるから会う頻度が少なくなって寂しい。と本音を伝えると女々しいと思われないだろうか。かと言って、離れても平気な振りをして川奈さんも同じ様子だったら凹む気がする。どちらの伝え方にするか決めておけば良かったと後悔していると、目の前の川奈さんの顔が曇っていく。
「…川奈さんどうしたの?」
「言いにくいって事は…この関係を辞めたいとかそういうこと?」
川奈さんが全く違う方向からの爆弾を投下する発言をするので、流石に焦る。
「いやいやいや。違うよ。全然違うから!川奈さんが俺を嫌だって言っても離れないつもりだから。」
川奈さんの両手を握りしめ焦りながら言うと川奈さんがホッとした表情になる。
「…良かった」
「川奈さん可愛いすぎ。あのね新店舗の支店長に抜擢されたんだ。」
「おめでとう。よかったじゃん」
川奈さんを抱きしめて、そのまま二人でソファに倒れ込む。下から見上げる川奈さんが頬を撫でて祝いの言葉をくれる
「でもさ。T市から遠くなるから仕事終わりに会えなくなる。それが少し寂しいって思ってた」
「会う頻度減るのは寂しいけど、ステップアップの機会だから、応援する。それにさ、仕事終わりが難しいなら、今度は俺が田浦君の家まで会いにいくよ」
情けない気持ちを一緒に伝えると、それを受け止め代替案までくれる。
「川奈さんって、こんなに可愛いのに、こういうとき男前だよね。スパダリっていうやつだ」
「スパダリ?」
「スーパーダーリンの略なんだって。何でもできるハイスペック彼氏」
「そんなことないよ。」
「いやいや、スパダリだよ!そういえば、川奈さんの話って?」
「あぁ、それは…」
脱線しかけた話題を戻すと、川奈さんが苦い顔をして言い淀む。珍しいと思いつつ、川奈さんの言葉を待っていると、ピンポーンと部屋のチャイムがなる
「宅配かな?出る?」
「宅配なら後でも大丈夫。今はこっちの話の方が重要…っえ?」
そんな会話をしていると、ピンポン、ピンポン、ピンポンとチャイムが連打される。宅配ならこんな迷惑行為しないだろう。そうなると考えられるのは
「畠さん、また彼女さんと喧嘩したんじゃない?」
「はぁ。あいつ。ごめん、すぐ追い返してくるから」
川奈さんの上からよけ手を引いて起こす。職場の人が来ているなら、どんな要件であれ一度対応したほうがいい。川奈さんは、毒を吐き、相手の予想はついているからかインターフォンは確認せずに玄関に向かう。
「こら!畠!」
川奈さんが少しキツめの口調で畠さんを呼ぶのが聞こえた後、ガタンと大きな音がし、数秒後に
「はなして!」
川奈さんの怒声が響く。畠さん相手にこんなこと言うか?前のときは問答無用で顔面を鷲掴みしてた。だとすると、来訪者は、畠さんじゃなかった…?考えを巡らせ川奈さんの身が危ないという結論に達した瞬間に体が無意識に動いた。
「川奈さん!」
玄関とリビングを仕切るドアを勢いよく開けると
「…真斗。誰、この男?」
川奈さんを抱きしめていた男が、俺にガンをつけ低い声で、川奈さんに問いかけた。
思ってたよりも早く連絡が来たことに浮かれ、玄関が閉まると同時に川奈さんを抱き寄せる。
「急に会いたいって言ってごめんね。どうしても話しておきたいことがあって」
「ううん。会えて嬉しい。俺も川奈さんに話さなきゃいけないことがあるんだ」
俺の腕の中に納まり控えめに言う川奈さんの目の下には相変わらず隈が出ていて、まだ仕事は落ち着いていないことを察する。仕事の話じゃないとすると何の話か皆目検討はつかないが、俺も川奈さんに異動の話をしなければと思っていたのでいい機会だった。
「先に田浦くんの要件から聞いてもいい?」
「うん。あのね、非常に言いにくいんだけど…」
ソファに腰掛けると川奈さんから促されたので異動の話を切り出すが、どう伝えるか迷い言葉に詰まる。T市から遠い支店になるから会う頻度が少なくなって寂しい。と本音を伝えると女々しいと思われないだろうか。かと言って、離れても平気な振りをして川奈さんも同じ様子だったら凹む気がする。どちらの伝え方にするか決めておけば良かったと後悔していると、目の前の川奈さんの顔が曇っていく。
「…川奈さんどうしたの?」
「言いにくいって事は…この関係を辞めたいとかそういうこと?」
川奈さんが全く違う方向からの爆弾を投下する発言をするので、流石に焦る。
「いやいやいや。違うよ。全然違うから!川奈さんが俺を嫌だって言っても離れないつもりだから。」
川奈さんの両手を握りしめ焦りながら言うと川奈さんがホッとした表情になる。
「…良かった」
「川奈さん可愛いすぎ。あのね新店舗の支店長に抜擢されたんだ。」
「おめでとう。よかったじゃん」
川奈さんを抱きしめて、そのまま二人でソファに倒れ込む。下から見上げる川奈さんが頬を撫でて祝いの言葉をくれる
「でもさ。T市から遠くなるから仕事終わりに会えなくなる。それが少し寂しいって思ってた」
「会う頻度減るのは寂しいけど、ステップアップの機会だから、応援する。それにさ、仕事終わりが難しいなら、今度は俺が田浦君の家まで会いにいくよ」
情けない気持ちを一緒に伝えると、それを受け止め代替案までくれる。
「川奈さんって、こんなに可愛いのに、こういうとき男前だよね。スパダリっていうやつだ」
「スパダリ?」
「スーパーダーリンの略なんだって。何でもできるハイスペック彼氏」
「そんなことないよ。」
「いやいや、スパダリだよ!そういえば、川奈さんの話って?」
「あぁ、それは…」
脱線しかけた話題を戻すと、川奈さんが苦い顔をして言い淀む。珍しいと思いつつ、川奈さんの言葉を待っていると、ピンポーンと部屋のチャイムがなる
「宅配かな?出る?」
「宅配なら後でも大丈夫。今はこっちの話の方が重要…っえ?」
そんな会話をしていると、ピンポン、ピンポン、ピンポンとチャイムが連打される。宅配ならこんな迷惑行為しないだろう。そうなると考えられるのは
「畠さん、また彼女さんと喧嘩したんじゃない?」
「はぁ。あいつ。ごめん、すぐ追い返してくるから」
川奈さんの上からよけ手を引いて起こす。職場の人が来ているなら、どんな要件であれ一度対応したほうがいい。川奈さんは、毒を吐き、相手の予想はついているからかインターフォンは確認せずに玄関に向かう。
「こら!畠!」
川奈さんが少しキツめの口調で畠さんを呼ぶのが聞こえた後、ガタンと大きな音がし、数秒後に
「はなして!」
川奈さんの怒声が響く。畠さん相手にこんなこと言うか?前のときは問答無用で顔面を鷲掴みしてた。だとすると、来訪者は、畠さんじゃなかった…?考えを巡らせ川奈さんの身が危ないという結論に達した瞬間に体が無意識に動いた。
「川奈さん!」
玄関とリビングを仕切るドアを勢いよく開けると
「…真斗。誰、この男?」
川奈さんを抱きしめていた男が、俺にガンをつけ低い声で、川奈さんに問いかけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
122
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる