スパダリ様は、抱き潰されたい

きど

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はじまりは、あの日

42.会いたい side.K

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「田浦君、終わりにしよう」

自分から終わりを告げているのに胸が痛いくらいに締め付けられた。この胸の痛みの理由は分かっている。俺の言葉に動揺する田浦君にさらに言葉を重ねる。

-もうこの関係を終わらせたいんだよね

-良平とヨリを戻すことにしたんだ

本当は終わらせたくない。側に居て欲しい。俺が好きなのは、良平じゃなくて君なんだ。
好きだよ。大好きなんだ。
言葉に出せない本当の思いを心が叫ぶ。

彼を傷つける言葉を吐き出す俺に、彼は食い下がってくる。やめて。折角の決心が鈍ってしまう。

「川奈さんが俺を好きになることはないって言うなら諦めて身を引くよ。でも、まだ少しでも可能性があるなら、川奈さんを手放したくない」

なんて残酷なことを言うんだろう。こんなに好きなのに。俺だって君を手放したくない。でも、俺じゃ君を幸せにはできないじゃないか。

「田浦くんの本来の恋愛対象は女性だよね?」

怖いんだ。今は俺を好きだと言ってくれても、いつか君の目が覚めてしまうかもと考えると。ずっと変わらない気持ちなんてないから。いつか君が俺の元を去っていくなら、今ここで終わらせてしまおう。それがきっとお互いのためになるはずだから。
何か言おうとした田浦君の唇を自分の唇で塞ぐ。これ以上、話していたら、きっと君を好きだと言ってしまう。だから

「ねぇ、最後に抱いて。体から始まった俺達らしい終わり方でさよならしよう」

君の熱を忘れない様に俺の体に刻みつけて。
君に愛された思い出を最後に頂戴。

* * *
鼻の奥がツンとする感覚で目が覚めた。うっすら目を開くと、溜まっていた涙が溢れ落ちる。もう何度も夢であの日のことを繰り返し見ているのに、まだ涙が出るなんて俺は相当執念深いみたいだ。夢の余韻でぼおっとしていると、畠の顔が視界に入ってくる。

「川奈、大丈夫か?」

ベッドで横になっている俺の顔を心配そうに覗き込む。その顔を見て疑問が駆け巡る。
何故俺はベッドで寝ているんだ?
仕事をしていたはずでは?

「お前過労で倒れたんだよ。2-3日療養のため入院になるから。荷物取ってくるから部屋の鍵借りるぞ」

俺が事態を飲み込めていないのを察した畠が手短に顛末を教えてくれる。そして俺の仕事用のバックを手渡してくる。俺は体を起こしそれを受け取る。そして中から鍵を取り出し畠に渡す。

「迷惑かけてごめん」

「そう思うなら、しっかり体調管理しろよ。もう俺らもうおっさんなんだから。20代の頃みたいに無理はきかないからな」

「そうだな。本当に悪かった」

「……。川奈のプライベートに口出しするつもりはない。でもさ、失恋してボロボロになってるお前は友達としてほっとけないから、ひとつだけ言わせて。川奈と田浦君の間に何があったのかは知らないけど寝言で泣いて名前呼ぶくらい恋しいなら素直に会いに行けばいいんじゃないか?」

畠に指摘され、羞恥心が湧き上がる。まさか名前を呼んでたなんて。

「……。いまさら会いになんて行けないよ」

「喧嘩別れでもしたのか?」

「喧嘩にすらならなかったよ」

「じゃあ、会って未練を断ち切ればいいじゃん」

畠がまたも簡単に言う。田浦君にさよならを告げた後、彼からの連絡はパタリと無くなった。自分で終わらせておきながら、そのことがすごくショックだった。もしかしたら、前回の時みたいに諦めずに俺を追ってくれることを心のどこかで期待していたのかもしれない。

「いくら彼でも2度も酷いことを言った俺には会ってくれないと思う」

彼の気持ちを散々拒否したんだ。どの面さげて会えばいいんだ。

「会ってくれなかったら、それが相手の答えなんだから、もうそれで諦めがつくだろ?そしたら、トコトン愚痴を聞いてやるから、ささっと腹決めて玉砕してこい」

「それでも」

「あー!まどろっこしい!相手の気持ちをお前が推測したところで、その通りかは行動してみなきゃ分からないだろ?それに、さっきから、でもでもだって、ばっかりだけど川奈は田浦君にもう二度と会いたくないのか?顔を見たくないほど嫌なら俺だって、もう会いにいけなんて言わないから!」

ウジウジ悩む俺に畠がキレた。怒っている割に正論をぶつけてくる。
俺の素直な気持ちは、そんなの。

会いたい。嫌いになんてなるはずがない。
それでも…

「会いたいに決まってるだろ!でも、それじゃダメなんだよ。俺が一緒にいると彼がこれから得られるはずの未来を奪ってしまう。そんなの許されないだろ⁈」

「それは誰が許さないんだ?川奈が自分を許せないのか?思うんだけど、誰と一緒に人生を歩むかは田浦君本人が決めることだろ?それを川奈が彼のために勝手に自分で結論出すのは違うんじゃないか?」

畠の言葉が頑な俺の心を打つ。

「そうだね。今の彼が俺と一緒にいることを望んでくれても未来の彼もそう思うかは分からない」

「それは、彼に限った話じゃないだろ。それこそ友達と疎遠になることや永遠を誓った夫婦ですら離婚することがある。人間関係で未来が保証されてるものなんて何一つないだろ。どの関係性だって今を大切にして積み重ねていくから未来も続いている。それなのに、不確定な未来に怯えて今をないがしろにするなんて元も子もないだろ。違うか?」

畠の言うことは最もだ。今がなきゃ、そもそも未来なんてないのに。俺は変な所にこだわって、俺を想い続けてくれた彼を手放した。頑なだった心が絆されればら懸命に蓋をして忘れようとしていた想いが溢れ出す。そして涙がとめどなく流れる。

「会いたい…」

抱きしめて欲しい

また好きだと言って欲しい

彼に好きだと言いたい

「じゃあ、今はゆっくり休んで早く元気にならなきゃな」

曲げた膝に顔を埋め嗚咽を押し殺す俺の頭を畠が乱暴に撫でた。畠の不器用な優しさが恋愛を拗らせて荒んだ俺にはありがたかった。

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