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はじまりは、あの日
41.過去と現在と未来 side.K
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「真斗の部屋懐かしいな。家具とかあんまり変わってないんだね。そこだと足痛くならない?」
「大丈夫。で、話って何?」
ソファに腰掛ける良平がしみじみ呟く。俺はフローリングにクッションを置いてそこに座り、そっけなく声をかける。
「つれないなぁ。昔は俺のこと大好きだったのに」
「過去の事はいいから早くして」
良平は俺の初めての彼氏で、好きで堪らなくて一緒に居られるだけで幸せだったあの頃は、こうして話すときは必ず良平と密着して座っていた。でも、それは過去の話。あんなに会いたかったはずなのに、今は目の前にいても何も感じない。
「あのさ真斗俺たちやり直さない?」
「今更何言ってんだよ。良平は結婚したじゃん」
「一度は結婚したよ。でも、ダメになって今は独身なの。なんでこうなったか分かる?」
良平が左手の甲を俺に見せる。薬指に指輪は嵌っていなかったが、他の指より根本が少し細くなっていて、つい最近まで指輪をしていたことがうかがえた。
「さあ、なんで?」
「元嫁はうちの会社の常務の娘で、縁談の話が来たときに出世のことを考えて断れなかったんだ。でもさ、自分の心を偽らなきゃならない関係は長く続かなかった。元嫁が外に男作って、理由を聞いたら私を愛してくれないからって言われてさ。俺の結婚生活は破綻した訳。まぁ、常務も自分の娘の有責って事で、さらに目をかけてくれる様になったから、全部が全部最悪の結果じゃないことが救いだったかな。ここまで聞いたら察しのいい真斗は分かるでしょ?」
「…いまさら俺のことを忘れられなかったとか言わないよね?」
「そうだよ。真斗が忘れられなかった。連絡先も変えず学生の時から住んでるマンションにまだ住んでたのは真斗も同じ気持ちだったからと思ったのは俺の自惚れなのかな?」
確かに良平の言う通り、ここに居続ければいつか俺の元に戻ってきてくれると期待していた。初めて本気で好きになって体を許した相手に捨てられたダメージは想像以上で、俺はずっと次の恋愛をできずにいた。恋愛を拗らせた俺を彼は、田浦君は好きだと言い、俺の気持ちの整理がつくまで待ってくれた。彼に気持ちが傾くにつれ、良平から振られたことは過去のものになり、いつしか田浦君のことばかり考える様になっていた。
「確かに良平を待ってた時期もあったよ。でも今は違うから。俺には大切な人がいる」
「大切な人?あぁ、この間の知り合い君?」
俺の返答に良平の眉間には皺がよる。そして良平はわざと知り合いの部分を強調して言う。
「そうだけど」
「大切な人なら、彼は何で真斗のことを知り合いなんて言ったんだ?」
俺自身が引っかかっていたことをチクリと刺され言葉に詰まる。知り合いと言った理由は、俺がまだ好きだと言えずに彼を振り回しているからだろう。でもその理由は良平には言いたくない。
「それに彼の恋愛対象は真斗と同じなのか?」
「違うけど、俺に好意を寄せてくれてる」
良平は昔から相手の痛い部分を的確に突いてくる所があったが今も変わらないみたいだ。
「それって現時点での話しでしょ?彼の真斗への気持ちが薄れてやっぱ女性の方がいいって思う日が必ず来るよ。男と付き合うということの現実に直面した時に彼が真斗を選んでくれると思う?」
「それは」
「ほら、即答できないって事は真斗もその可能性は拭えないと思っているんだろ?それにさ、彼と真斗は釣り合っている様には見えないからさ、どのみち上手くいかないと思うよ」
良平が言う最悪な未来は俺だって何度も頭をよぎった。でもそのたびに見ないフリをして、そんなことあり得ないって言い聞かせてた。彼が女の子に見える上司の息子さんと歩いていた姿は違和感のない普通のカップルだった。俺は彼から普通を奪っていいのだろうかと悩み、そして俺は彼に普通と言われる幸せを与えられないことに絶望した。
「良平にそんなこと言われる筋合いはない」
せめてもの強がりの言葉をぶつける。
「あるよ。俺は真斗を誰よりも愛してるから真斗に傷ついて欲しくない。真斗をもう二度と放したくないから、俺と結婚しよ?T市は同性のパートナーシップを導入してるよな?」
そういうと良平は俺を抱きしめる。
あの日、俺の心を切り裂いた言葉が、今は俺に向けられている。
「なあ真斗、いつか失うことに怯えながら恋愛するくらいなら、俺と永遠を誓って。もう泣かせたりしないから」
良平が抱きしめる腕に力をこめる。
良平の言っている事は最もだと理解はしている。でも彼を思う気持ちが違うと駄々を捏ね、理性と気持ちが乖離していく。
「ごめん。考えさせて」
良平の体を押し返しはしたが、弱い俺は曖昧な返事しかできなかった。
「大丈夫。で、話って何?」
ソファに腰掛ける良平がしみじみ呟く。俺はフローリングにクッションを置いてそこに座り、そっけなく声をかける。
「つれないなぁ。昔は俺のこと大好きだったのに」
「過去の事はいいから早くして」
良平は俺の初めての彼氏で、好きで堪らなくて一緒に居られるだけで幸せだったあの頃は、こうして話すときは必ず良平と密着して座っていた。でも、それは過去の話。あんなに会いたかったはずなのに、今は目の前にいても何も感じない。
「あのさ真斗俺たちやり直さない?」
「今更何言ってんだよ。良平は結婚したじゃん」
「一度は結婚したよ。でも、ダメになって今は独身なの。なんでこうなったか分かる?」
良平が左手の甲を俺に見せる。薬指に指輪は嵌っていなかったが、他の指より根本が少し細くなっていて、つい最近まで指輪をしていたことがうかがえた。
「さあ、なんで?」
「元嫁はうちの会社の常務の娘で、縁談の話が来たときに出世のことを考えて断れなかったんだ。でもさ、自分の心を偽らなきゃならない関係は長く続かなかった。元嫁が外に男作って、理由を聞いたら私を愛してくれないからって言われてさ。俺の結婚生活は破綻した訳。まぁ、常務も自分の娘の有責って事で、さらに目をかけてくれる様になったから、全部が全部最悪の結果じゃないことが救いだったかな。ここまで聞いたら察しのいい真斗は分かるでしょ?」
「…いまさら俺のことを忘れられなかったとか言わないよね?」
「そうだよ。真斗が忘れられなかった。連絡先も変えず学生の時から住んでるマンションにまだ住んでたのは真斗も同じ気持ちだったからと思ったのは俺の自惚れなのかな?」
確かに良平の言う通り、ここに居続ければいつか俺の元に戻ってきてくれると期待していた。初めて本気で好きになって体を許した相手に捨てられたダメージは想像以上で、俺はずっと次の恋愛をできずにいた。恋愛を拗らせた俺を彼は、田浦君は好きだと言い、俺の気持ちの整理がつくまで待ってくれた。彼に気持ちが傾くにつれ、良平から振られたことは過去のものになり、いつしか田浦君のことばかり考える様になっていた。
「確かに良平を待ってた時期もあったよ。でも今は違うから。俺には大切な人がいる」
「大切な人?あぁ、この間の知り合い君?」
俺の返答に良平の眉間には皺がよる。そして良平はわざと知り合いの部分を強調して言う。
「そうだけど」
「大切な人なら、彼は何で真斗のことを知り合いなんて言ったんだ?」
俺自身が引っかかっていたことをチクリと刺され言葉に詰まる。知り合いと言った理由は、俺がまだ好きだと言えずに彼を振り回しているからだろう。でもその理由は良平には言いたくない。
「それに彼の恋愛対象は真斗と同じなのか?」
「違うけど、俺に好意を寄せてくれてる」
良平は昔から相手の痛い部分を的確に突いてくる所があったが今も変わらないみたいだ。
「それって現時点での話しでしょ?彼の真斗への気持ちが薄れてやっぱ女性の方がいいって思う日が必ず来るよ。男と付き合うということの現実に直面した時に彼が真斗を選んでくれると思う?」
「それは」
「ほら、即答できないって事は真斗もその可能性は拭えないと思っているんだろ?それにさ、彼と真斗は釣り合っている様には見えないからさ、どのみち上手くいかないと思うよ」
良平が言う最悪な未来は俺だって何度も頭をよぎった。でもそのたびに見ないフリをして、そんなことあり得ないって言い聞かせてた。彼が女の子に見える上司の息子さんと歩いていた姿は違和感のない普通のカップルだった。俺は彼から普通を奪っていいのだろうかと悩み、そして俺は彼に普通と言われる幸せを与えられないことに絶望した。
「良平にそんなこと言われる筋合いはない」
せめてもの強がりの言葉をぶつける。
「あるよ。俺は真斗を誰よりも愛してるから真斗に傷ついて欲しくない。真斗をもう二度と放したくないから、俺と結婚しよ?T市は同性のパートナーシップを導入してるよな?」
そういうと良平は俺を抱きしめる。
あの日、俺の心を切り裂いた言葉が、今は俺に向けられている。
「なあ真斗、いつか失うことに怯えながら恋愛するくらいなら、俺と永遠を誓って。もう泣かせたりしないから」
良平が抱きしめる腕に力をこめる。
良平の言っている事は最もだと理解はしている。でも彼を思う気持ちが違うと駄々を捏ね、理性と気持ちが乖離していく。
「ごめん。考えさせて」
良平の体を押し返しはしたが、弱い俺は曖昧な返事しかできなかった。
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