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はじまりは、あの日
40.自業自得 side.K
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「川奈、顔色悪いぞ。あんまり根を詰めすぎるなよ」
「ああ。分かってる」
市長室に書類を持ってきた畠が心配そうに声をかけてくる。返事をして書類を受け取ろうとするが、畠はなぜか書類を離さない。
「何してるんだ?」
「この状態の川奈に既視感を覚えるんだけど、もしかして田浦君と別れた?」
畠の行動が怪訝で眉根を顰めたはずなのに予想外の発言に、驚きがそのまま表情に出る。
「なんで田浦君が出てくるんだ。それに彼も俺も男だぞ」
「先進的な市長の川奈が何言ってるんだか。
付き合ってたんだろ?
だってさ川奈が田浦君と約束してた日に、無理矢理押しかけて泥酔した俺も悪かったと思ってるけど、俺がいるのにイチャイチャしちゃうくらいなんだから」
「なっ!起きてたのか⁈」
同期に情事を聞かれたことの羞恥が湧き上がると同時に、もう聞くことのないと思っていた彼の名を聞いて切なさで胸が締め付けられる。
「どちらかと言うと音で起こされたって感じ。でさ、今の川奈は前に失恋した時と同じ様子になってるの自覚ある?あんなに仲睦まじそうにしてたのに何があったの?」
畠は濁しているが、俺の声で起こされたのだろう。
うまく眠れず食欲も湧かない体は体力の限界を迎えていたが、気力でなんとか保っていたのに。田浦君にさよならを告げてから今日まで必死に取り繕っていたことなんて畠には見抜かれていた様だ。
「…俺と彼は初めから何もなかった。彼はうちに来てたハウスキーパー、ただそれだけだよ」
始まってすらいなかった。そう思わないと彼を恋しがる気持ちに蓋が出来なくなりそうで。元々何もない、ただのハウスキーパーと依頼者に戻っただけ。
「…そうなんだ。ま、辛くなったらいつでも話聞くから遠慮すんなよ」
「…」
俺の雰囲気を察した畠はそれ以上踏み込んでくることなく、俺の頭を無造作に撫で折角セットした髪をグシャグシャに崩される。
「あら、川奈市長!お髪が乱れてますよ!こんな身だしなみが崩れた状態では職員に示しがつきません!今日はおかえりになられた方がよろしいかと」
ふざけ半分の口調で言うと、俺の背後に周り椅子を90度回転されて机から体を離される。
「これくらいすぐに直せる」
「川奈、今うちの職場は踏ん張り時だと俺も思う。だからこそ、お前に倒れられたら困るから休める時は休め」
反論をしたのだが、悟す様に言われ背中を押され椅子から立ち上がる羽目になる。立ち上がると少し耳鳴りがするのは気のせいのはず。
「ありがと」
「彼女と喧嘩した時とか、いつも俺がお世話になりっぱなしだったから、こういう時くらいはな。さぁ、疲労で顔が真っ青になってる人は早く帰る」
畠はそう言うと俺にカバンを持たせ、背中をグイグイ押す。畠の何気ない気遣いが荒んだ心に染みる。そのまま一歩を踏み出そうとすると、膝から力が抜け体を支えられなくなる。耳鳴りは強くなり、視界は暗転して自分が倒れたことすら分からなかった。
でも頭の中では、田浦君にさよならを告げた日のことばかり走馬灯の様に駆け巡っていた。
「ああ。分かってる」
市長室に書類を持ってきた畠が心配そうに声をかけてくる。返事をして書類を受け取ろうとするが、畠はなぜか書類を離さない。
「何してるんだ?」
「この状態の川奈に既視感を覚えるんだけど、もしかして田浦君と別れた?」
畠の行動が怪訝で眉根を顰めたはずなのに予想外の発言に、驚きがそのまま表情に出る。
「なんで田浦君が出てくるんだ。それに彼も俺も男だぞ」
「先進的な市長の川奈が何言ってるんだか。
付き合ってたんだろ?
だってさ川奈が田浦君と約束してた日に、無理矢理押しかけて泥酔した俺も悪かったと思ってるけど、俺がいるのにイチャイチャしちゃうくらいなんだから」
「なっ!起きてたのか⁈」
同期に情事を聞かれたことの羞恥が湧き上がると同時に、もう聞くことのないと思っていた彼の名を聞いて切なさで胸が締め付けられる。
「どちらかと言うと音で起こされたって感じ。でさ、今の川奈は前に失恋した時と同じ様子になってるの自覚ある?あんなに仲睦まじそうにしてたのに何があったの?」
畠は濁しているが、俺の声で起こされたのだろう。
うまく眠れず食欲も湧かない体は体力の限界を迎えていたが、気力でなんとか保っていたのに。田浦君にさよならを告げてから今日まで必死に取り繕っていたことなんて畠には見抜かれていた様だ。
「…俺と彼は初めから何もなかった。彼はうちに来てたハウスキーパー、ただそれだけだよ」
始まってすらいなかった。そう思わないと彼を恋しがる気持ちに蓋が出来なくなりそうで。元々何もない、ただのハウスキーパーと依頼者に戻っただけ。
「…そうなんだ。ま、辛くなったらいつでも話聞くから遠慮すんなよ」
「…」
俺の雰囲気を察した畠はそれ以上踏み込んでくることなく、俺の頭を無造作に撫で折角セットした髪をグシャグシャに崩される。
「あら、川奈市長!お髪が乱れてますよ!こんな身だしなみが崩れた状態では職員に示しがつきません!今日はおかえりになられた方がよろしいかと」
ふざけ半分の口調で言うと、俺の背後に周り椅子を90度回転されて机から体を離される。
「これくらいすぐに直せる」
「川奈、今うちの職場は踏ん張り時だと俺も思う。だからこそ、お前に倒れられたら困るから休める時は休め」
反論をしたのだが、悟す様に言われ背中を押され椅子から立ち上がる羽目になる。立ち上がると少し耳鳴りがするのは気のせいのはず。
「ありがと」
「彼女と喧嘩した時とか、いつも俺がお世話になりっぱなしだったから、こういう時くらいはな。さぁ、疲労で顔が真っ青になってる人は早く帰る」
畠はそう言うと俺にカバンを持たせ、背中をグイグイ押す。畠の何気ない気遣いが荒んだ心に染みる。そのまま一歩を踏み出そうとすると、膝から力が抜け体を支えられなくなる。耳鳴りは強くなり、視界は暗転して自分が倒れたことすら分からなかった。
でも頭の中では、田浦君にさよならを告げた日のことばかり走馬灯の様に駆け巡っていた。
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