幸運の招き猫は逆に幸運を得る

ねこいかいち

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 そこは、真っ暗な空間だった。
 足場も見えず、変な浮遊感もある。そこで、これは夢の中だと気付いた。

(あっちに行くか……)

 何も見えない空間で、リューイは一人歩きだす。何となく、あてもなく歩き続ける。
 そこに、一つの明かりが見えてきた。そこを目指すしかなさそうだと、リューイは光に向かって歩き続けた。

 明かりのある空間に出ると、そこは幼少期を過ごした家だった。家族との思い出が詰まった、大切な家。今はどうなっているのか、さっぱりわからない家……。

 家の中を徐に歩く。誰もいないのか、人の気配さえない。いや、人が住んでいる気配すらない。
 二階にあがると、自分の部屋の前に着いた。中に入ってはいけない。何故かそう感じた。だが、手が勝手にドアノブに手を掛ける。嫌だ、入りたくない。そう思っても、手はリューイの意思に反してドアノブを回した。



 目の前には、血の海が広がっていた。その先に視線を向けると、床に、両親の死体と、その先にルヴァインが倒れていた。





「っ!?」
 勢いよくソファから飛び起きる。はあ、はあ、と荒い息を上げながら、リューイは辺りを見渡す。何時もの部屋だ。首を動かした際に、チョーカーの先に着いた石が揺れ、小さな音を立てた。カーテンから差し込む日差しの入り方からして、まだ昼にもなっていないようだ。
「……夢」
 リューイは額に滲んだ汗を袖で拭いながら、独り言ちる。あれは間違いなく、夢だった。だが、やけにリアルで生々しかった。夢であるとわかっていても、あの妙に生々しい光景が脳裏に焼き付いて離れない。今まで両親を失ったあの日を夢に見ることは何度もあったが、あんな夢は初めてだった。
 もし、両親同様にルヴァインを失ったら……それをリューイに知らしめるかのような夢に、リューイは自分の体を抱き締めた。恐怖でしかなかった。

「……ルヴァイン」
 今すぐ、ルヴァインの姿が見たい。会いたい。彼の姿を見て、自分を安心させたい。
 一度そんなことを考えると、居てもたってもいられないくなってしまった。


 リューイはそっと立ち上がると、窓から飛び降り地面に音もなく着地し、門に向かって走り出した。
「おや、リューイさん。どうしました?」
 門番のアランが、リューイににこやかに挨拶する。リューイは「門を開けてくれ」と頼むと、彼は理由を窺ってきた。逸る思いを堪えながら、彼もそれが仕事なんだと自分に言い聞かせる。
「ルヴァインに会いにいく」
「わかりました」
 素直に答えると、彼は重そうな門に手を掛けた。忙しなく脈打つ自身の鼓動が大きく聞こえる。
 俺は、こんなにも弱くなってしまったのか?
 そう思ったが、今はルヴァインの姿を見て安心したい。それだけが体を動かした。

 アランが門を開き、少し隙間が出来たのを確認するとその隙間に入り込み抜け出した。そのまま敷地から出ると、街に向かって一目散に走り出していった。
「リューイさん、どうしたんだろうか?」
 そんなアランの言葉が、小さく聞こえた。







 裸足で街に出たリューイは、一番に匂いを辿ろうとした。
「……くそっ」
 だが、街には人がたくさんいる。この多くの匂いの中からルヴァインの匂いを辿るのは無理に等しい。いっそ、人に訊ねた方が早いかもしれない。
 そう思って周りを見渡していると、誰かにぶつかった。
「っと」
「あ、悪い……」
 ぶつかった男性に謝る。この人に聞いてみるかと思い、「なあ」と声を掛ける。すると俯いたままの男性は、ゆっくりと顔を上げ、急にリューイの腕を掴んできた。
「っ!」
「……よお、久しぶりだな」
 その言いぶりに、リューイは体を強張らせる。
 この街で見つかってもう一月以上経つというのに、まだ賊が潜んでいたのか。
「くそ、離せ!」
 腕を掴む手を振り解こうと、暴れ出すリューイ。まだ近くに仲間が居たのか、こちらに何人か近付いてくる。
「大人しくしろっ!」
 その言葉を聞いた直後、腹に強い痛みを感じた。体の力が抜けていき、前に倒れ込む。霞んでいく意識の中、にやつく男の顔が微かに見えた。
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