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コカトリスの丸焼き

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 家に戻って来た四人を、ガイアスは出迎えてくれた。
「おかえり。収穫は沢山あったようだね 」
 にこやかに告げるガイアスに、サイファは「おう!」とにこやかに肩に担いだコカトリスを見せた。
「これは良い食材だね。フェリも喜ぶよ」
 ガイアスの言葉に、四人は目を瞬かせた。主が喜ぶ? 想像が出来ない……。
「フェリは鶏肉が好きなんだ。淡泊だし、脂っこくないからね」
「んじゃ、今日はコイツで料理頼むぜ! タクマ!」
 ガイアスとサイファの笑顔に、タクマはやれやれと肩を落とすのだった。





 卵を氷室に置いてくると、家の外の庭先でサイファが大きな包丁? のような刃物を持っていた。目の前には帰ってくる前に血抜きしたコカトリスがある。タクマの力では捌けないだろうということで、サイファに捌くのをお願いした。
「よっし! やるか!」
 うきうきと嬉々とした顔で包丁を握るサイファ。一番に蛇の尾と竜のような翼を根元から切り落とす。
「この尻尾と竜の翼みたいなのはどうするんですか?」
「ん? 尻尾は食えるぞ。中の毒袋とトカゲドラゴンの羽はギルドで売れるさ」
「トカゲドラゴン?」
 聞いたこともない言葉に、タクマは首を傾げる。サイファは「ああ、そっか」と言い言葉を続けた。
「お前は異世界から来たんだもんな。知らないか……この世界に、ドラゴンはもう存在しないんだよ」
「え!? そうなんですかっ」
 意外な答えに、タクマは驚きを露わにする。ドラゴンと言えば、RPGの定番だ。そのドラゴンがいないと言うのは意外すぎた。
「アイシャに聞けば理由は分かるんだろうけど……兎に角、こういったドラゴンに似た性質の生物とか部位とかは、ドラゴンと区別するように『トカゲ』って最初に付くようになってるんだよ」
「へえー」
 知らなかった。と言っても、このコカトリスの翼も凄く立派だ。ギルドに売ると言うのはどう云うことだろうか。
「ギルドはモンスターの素材を集めて、独自にモンスターの生態調査をしてるんだ。だからコカトリスの毒袋とかも、持っていけば高値で買い取ってくれる」
「そうなんですね」
「ちなみに、本当の初心者はスライム玉を売って路銀を稼ぐっていう奴もいるぞ」
 知らなかったことが色々と聞けて、凄くためになった。サイファとの冒険も、楽しいかもしれない。
「良し、尻尾の毒袋も取ったことだし、羽むしりするか」
「はい」
 大きな鍋に頭と尻尾を切り落とした胴体を入れ湯がく。その後、鍋から取り出し、サイファと二人で無言で羽をむしる。
「この羽も意外と売れるんだよな。羽飾りにぴったりなんだとよ」
「へえ……」
 異常にある羽をむしり取り、肩掛けタイプのアイテムポーチに羽を入れていく。その後、腹を割き内臓を取り出していく。
「う、グロテスク……」
「これも麻袋に入れてからさっきの卵入れてた鞄に入れといてくれ。ギルドには売れる」
 サイファの言葉に何とか頷き、麻袋に詰めていく。こんなのも生態調査に使うと言うのだから、ギルドは凄いと思えた。
 中を綺麗にし、解体作業が終わった。サイファはやりきったと満足気な顔をしている。
「今日はこれで何を作るんだ?」
「そうですね……ローストチキンはどうですかね」
「なら、ここで焼いちまうか」
 サイファの言葉に頷き、二人は家の中からテーブルと椅子を運び出す。まな板や野菜を準備し、早速、調理に取り掛かった。

 まず、お腹を割いて貰ったコカトリスの肉に香辛料を塗り込む。暫くそのままにし、次に中に入れる野菜を細かく切っていく。一応の為、毒消し草も切って一緒に入れるようにする。人参やインゲン、葉物野菜やガーリックをスライスし、中に詰めていく。ぎゅっと中に詰めたら、切口を糸で縛り、そのまま放置しておく。この世界は意外なことに、俺が住んでいた世界の野菜や果物が多く存在する。名前も一緒だ。どうしてなのだろうか? 後で、ガイアスにでも聞いてみようと思ったタクマだった。
 次にスープの用意だ。オニオンをと芋をスライスし、今日取ってきたばかりの卵を氷室から取り出す。香辛料を散らし、じっくりと煮詰める。その間に、肉を焼こう。サイファに頼み、長い棒を串として通して貰うと、用意して貰っていた火の前にくべじっくりとローストしていく。
 そっちはサイファに任せ、隣でじっくりと煮込んでおいたスープに溶き卵をゆっくりと入れていく。よし、オニオン卵スープの完成だ。


 未だ時間のかかるローストをサイファに任せ、タクマは氷室から街で買っておいたパンを取り出してくる。家に戻り、釜戸でじっくりと焼き色が着くまで焼く。出来上がった頃には、ローストの香ばしい香りが家の中にまで漂い、アイシャやミルファリアが外に出てきた。

「今日は外で食べるの?」
「うん。ローストチキンだから家の中じゃ調理できなくて」
 最近ため口で会話が出来るようになってきたミルファリアと、そんなやり取りをする。アイシャは匂いに釣られて既に外に出ていた。焼き上がった香ばしい匂いを漂わせるパンをバスケットに入れ、外に出る。うん、ローストチキンもだいぶ良さげになってきた。
「ミルファ、ガイアスさん達を呼んできてくれないか?」
「うん、わかった」
 ミルファリアにお願いし、タクマは最後の仕上げに取り掛かる。サイファが火からあげたローストチキンをテーブルの上の大皿に盛り付け、取り分けしやすいように適当な大きさにカットしていく。その工程をしていると、ミルファリアの後にガイアスとフェリがついてきていた。

「じゃ、食べますか!」
 タクマの合図で、皆一斉に肉を取り分けだした。フェリはガイアスが皿に盛りつけたものを前に、じっと見つめていた。タクマとしては皮が香ばしく、中はジューシーに出来上がっているこのローストチキンはいい出来だと思ったのだが、フェリはどう感じてくれるだろうか?
 そっと様子を窺っていると、一口食べ、目を輝かせていた。見たこともなかったその表情に、タクマは目を見開いて驚いた。
「……何だ」
「いや、なんでも……」
 すぐさま何時もの表情に戻ってしまったが、さっき確実に美味しいと目が教えてくれていた。そのことが嬉しくて、タクマは顔を綻ばせた。そんなタクマを無視し、フェリは何度もおかわりをしていた。






「いや~、今日の飯は本当に上手かったな」
「ね~」
 サイファとアイシャ、共にテーブルに肘をかけながら満足気に言葉を発する。確かに、今日のご飯は自分でも自画自賛出来る出来栄えだった。
「またコカトリスの卵を取りに行く際、俺も連れてってください」
「わ、私も!」
 タクマとミルファリアにしても、とてもいい経験になった。今まではポーション作りしかしていなかった分、少し冒険みたいなことが楽しくもあり興奮も出来た。
「わかってるよ。だが、油断は禁物だからな」
「「はいっ」」
 サイファの言葉に、タクマとミルファリアは元気に頷く。食料採取の為と思えば、苦ではない。そう思えた。







 トカゲドラゴンの羽を見ながら、ガイアスはじっとそこに佇んでいた。そこに、フェリが現れる。
「……寂しいか?」
 フェリの言葉に、ガイアスは首を横に振る。
「寂しくはないよ。ただ……何処かに同胞がいるのだろうかと、少し考えてしまっただけさ」
 ガイアスの寂しそうな声色に、フェリはそっと近づき、彼の腰に抱き着いた。
「……我がいる。絶対に、お前の側から離れない。絶対だ」
「ありがとう、フェリ……俺も、君が居れば大丈夫さ」
 向き直り、向かい合うようにフェリを抱き締めるガイアス。フェリは彼の腰に手を回し、強く抱きしめ返した。
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