妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち

文字の大きさ
19 / 26

13 幼稚で汚れた心の君に

しおりを挟む
「ま、待ってくれアーデル君!」
「待ちなさい」
 去って行ったアーデルを引き留めるべく動こうとした父を、祖父が止めた。戸惑いを隠せない父は、母に後を追うように頼む。頼まれた母は、すぐさま後を追って行った。
「あら? アーデルさま、帰ってしまったの? 婚約破棄も言いだすし……まあいっか!」
 呑気に言いだすフィーリアに、父は慌てふためく。
「何を言っているんだい、フィーリア! 君は婚約を破棄されたんだぞ!? それに、薬を使ったと言うのは本当なのか…?」
「もう! 今はそんなことどうでもいいじゃない! それに……お姉さまの婚約者さんを貰えるんですもの。別にいいわ♪」
 そんなこと…薬を使ってまでアーデルと関係を持ったことも、どうでもいいと言うの? いや、それ以前にフィーリアの中では、もうイグニスを私から奪えるものだと思っているようだ。あまりの態度に呆れているティファニアのことなどお構いなしに、フィーリアはにこやかな顔で言葉をかける。
「さっ、その方をくださいな! お姉さま!」
「フィーリア……あなた……」
 どこまで、私から奪おうというの? そう思っていると、そっと隣にいるイグニスがティファニアの肩を叩いた。
「イグニス?」
「僕に任せて」
 そう言って、イグニスはフィーリアの前に歩み寄る。フィーリアは嬉しそうに目を細め、手を伸ばした。
「さあ! 私のものになって! お姉さまよりも私の方が良いに決まってるもの!」
 そう言いながら言い寄ろうとしたフィーリアの手を、イグニスは叩き落した。「へ?」と呆気に取られるフィーリアに対し、イグニスは言葉をかける。
「残念だけど、僕はティファニア以外はお断りだよ」
 そう言い放つと、フィーリアの表情が次第に歪みだし、目から大粒の涙が溢れた。
「う、うわあああんっ!」
 大声で泣き出したフィーリアの前まで近づき、イグニスは更に言葉を続ける。
「噓泣きかどうかは知らないけど……幼稚で汚れた心の君に、僕は靡かないよ」
 泣き続けるフィーリアを前に、イグニスははっきりと告げた。そして、ティファニアの側に戻っていく。その際、祖父に目配せして話を切りださせた。
「話が変わるが、私達はティファニアを養子にしようと考えている」
「な!?」
 驚く父を前に、祖父は「本気だよ」と告げた。父は突然のことに、どう反応していいのかわからないでいるようだ。
「君もこの光景を見ただろう。なら、ティファニアの為にどうするべきか、わかるんじゃないのかね?」
 祖父の言葉に、フィーリアが割り込む。
「嫌よ! お姉さまがいなくなったら、私はお姉さまから何も貰えないじゃない!!」
 その言葉を聞き、祖父は大きく溜息を吐く。そして、真っすぐに父を見た。
「娘の為を思っているのならば、今どうするべきかはっきり決めろ!」
 祖父の怒声に、父は何度も頷いた。諦めの付かないフィーリアは、ティファニアに抱き着き騒ぎ出す。
「嫌! 絶対に嫌よ! お姉さまは私になんでもくれるの! だから私とずっと一緒に居るの!!」
「ちょ、離れてっ」
「嫌! 絶対に嫌!!」
 引き剥がそうとしても、絶対に離れようとしないフィーリア。イグニスがなんとか引き剥がしてくれたが、それでも抵抗を続ける。
「嫌ったら嫌! なんで私からお姉さまを奪うのよ! お姉さまもお姉さまよ! 姉なんだから、妹に何でも譲るのは当たり前でしょう!?」
 その言葉を聞き、祖父は再び溜め息を吐く。怒りを押し殺した声で父の名を呼ぶと、父は肩を震わせた。
「娘共々、今すぐ出て行きなさい。養子縁組の件、必ず約束を果たせ」
「わ、わかりました……」
 祖父の言葉に頷き、父はイグニスからフィーリアを預かると、大声で泣きわめきながら駄々をこねるフィーリアを引き摺りそのまま去って行った。

 部屋の中は、嵐が過ぎ去ったような静けさに包まれた。
しおりを挟む
感想 161

あなたにおすすめの小説

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

謹んで、婚約破棄をお受けいたします。

パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に

柚木ゆず
恋愛
 ※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。  伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。  ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。  そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。  そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。 「そう。どうぞご自由に」

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

処理中です...