あなたの虜

樺純

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44話

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ジュイサイド

ミラの叫び声が聞こえたと思ったら俺の手に生温かいモノが伝った。

自分の手をみると、それはとても綺麗な紅色で俺に倒れかかってきた重みを感じ俺は我に返った。


J「…ミラ? ミラ!?」


俺の腕の中にいるミラは背中を上から下に斬りつけられ大量の血を流していた。

すると、その男はまた俺に向かってナイフを向け、俺は咄嗟にそのナイフを手のひらで掴んだ。

この男…ミラを襲ったあの時の男だ…

そう気づいた俺に焦ったのか、男が逃げようとした瞬間、警備員が後ろから男を捕まえた。


J「ミラ!!ミラ!!」


俺は青白い顔をしたミラを揺さぶり、ミラは虚ろな目をして俺を見つめる。


J「ミラ!!」


嘘だろ…頼むよミラ…


どうすることも出来ない俺はただそう心の中で祈ることしかできなかった。


*「ジュイ…怪我してる…守って…あげれなくて…ごめんね…」


ジュイはそう言って俺の血まみれになった右手をそっと自分の心臓の上に置いた。


J「そんなのいいからもう喋んなよ!」

*「あなた達の…マネジャーに…なれて…本当に…良かった……あなた達は…私の…誇り…です……」

J「分かったから…頼むから…もう……」

*「ジュイ……私の可愛くて愛おしい…末っ子……」

J「ミラ …」

*「愛してるよ……」


ミラはそう呟くと目に涙を溜めながらゆっくりと瞳を閉じた。


J「ミラ!!ミラダメだよ…目…開けろって…ミラ…!!」


俺がミラを抱えて叫んでいると救急車が到着し、ミラと怪我をしている俺に救急隊員が近づいてくる。


「大丈夫ですか!」

J「お…俺は大丈夫なんで…この人をお願いします…」

「でも、怪我されてますよ!?」

J「大丈夫なんで…お願いです…お願いですから…どうか…助けてださい…。」


震える声でそう伝えた。

救急車で搬送される頃には周りはファンやら野次馬やらで溢れかえっていて、病院に着いたミラはそのまま手術室へと運ばれた。

俺は処置室で傷口を縫われそのまま手術室の前でミラを待った。

しばらくした頃、セイジさんとナオさんそしてソラの3人がミラの両親と共に病院へ来た。


N「ねぇさんは…」

J「まだ…手術中です…」


微かに震える手を見つめながら俺は地獄のように長い時間を過ごした。

それからどれぐらいの時間が経ったのだろう…

手術中のランプが消え…

中からお医者様が出てきた。


N「あの…容態は…どうなんですか!?」


ナオさんのその言葉を聞いたお医者様はゆっくり……

首を横に振り言った。


「手は尽くしましが…残念ながら…先ほど息を引き………」

J「何言ってんだよ!?そんなわけないだろ!?ちゃんと治療しろよ!!」

「お気持ちは分かりますが……」

J「俺の気持ちなんて分かってたまるかよ!!ミラが俺を置いて逝くわけねぇだろが!!頼むよ…頼むから…ミラを…」


俺はそのまま膝から崩れ落ち…セイジさんが寄り添ってくれた。

俺を庇ったミラの顔が俺の目に焼き付いて離れない…

なんで…なんであんなにミラを傷つけた俺なんかを庇ったんだよ…。

セイジさんが頭を下げて俺を支え、俺の横で泣き崩れているソラをナオさんが支えた。

もう…頭がぼんやりして俺のいる場所は夢なのか現実なのかさえ分からない。

なのに…目の前で眠るミラは青白い顔をしてまるで人形になってしまったように冷たい。

そっと頬に触れれば…今にも目を開けて「可愛い可愛い私の末っ子~ジュイ!」って微笑んでくれそうで、俺はミラの眠る冷たい部屋から離れられない。


J「…ミラ …ごめん…俺が悪かったよ…俺がもっと大人だったら…ミラのこと…守れたのに…」


どんなにミラに甘えて泣いても…もう、あの頃のようにミラは俺の頭を撫でて抱きしめてはくれない。

そして、俺は冷たくなったミラの唇に自分の唇をそっと重ねると、ミラの眠る部屋を後にした。

事務所に戻るとメンバー達が待っていた。

みんな無言のまま俺を抱きしめて、トウジくんは泣き崩れていた。


I「これ…ねぇさんのバッグなんだけど…」


俺を助ける時に放り出したのであろう、バッグの外側が少し破れていた。

俺はそれを受け取り、何気なく中をみるとそこには信じられない物が入っていた。


J「……嘘だろ……」


散乱したバックの中にあったのは母子手帳とエコー写真だった。

声にならない声が出て…体が震えて止まったはずの涙がまた溢れ出す。

そして…父親の欄には…


「可愛い私の愛する末っ子。」


そう書かれていた。


J「ミラ …ぅう……ごめん…ごめん…」


この日…俺は…

愛する人と同時に…

愛の結晶も失った。

ミラのお葬式には沢山の人が訪れた。

昔から俺たちの事を可愛がってくれたミラのご両親は、ひとり娘のミラを失って衰弱しきっているにも関わらず…俺の事を気遣ってくれた。

「ジュイくん…自分を責めないでくれ…君は…自分の人生をしっかりと歩んでくれ…」

と…

俺は黄色の小さな靴をミラの横に置いた…女の子でも男の子でも天国で履けるようにと。

ミラには綺麗な花を添えて…俺はミラに言った。


J「…ミラ …俺は今までも…これからも…ずっと…愛してるから…」


そして…俺はミラと本当のお別れをした。

ミラがこの世からいなくなってから俺は食事も喉を通らず、ただ目の前の仕事を淡々とこなす毎日だった。

苦しくて…悲しくて…

きっとこの涙は一生枯れる事はないんだと思う。

ミラの愛しいあの声…

落ち着く香り…

優しい温もり…

ミラの全てが恋しくて…

俺は毎日…子供だった自分を…責めた。

そんなある日

俺は不思議な体験をした。

事務所に向かう途中、いつもは開けない窓を開けるとどこかで懐かしい匂いが鼻をかすめた。

この香り……

思わず俺は身を乗り出して窓の外を眺める。

そこには一本の木が立っていて綺麗なピンク色の花を咲かせていた。

J「セイジさん…ちょっと止めて。」

俺はそう言って車を停めると、車からおりその木の下に向かった。

その木は初めてみた木なのにどこか懐かしくて温かい気持ちになっていく。

まるで、散ってゆく花びらが俺をぎゅっと抱きしめてくれているようで…自然と涙が溢れゆっくりと瞳を閉じた。


「………生きて…私のために…生きるの……」


微かに聞こえたその声は間違いなくミラの声で、俺は目を開けその木を見上げた。


J「そうだよな…ミラが必死で守ってくれた命だもんな……」


俺はそう呟くとその木をギュッと抱きしめ、車の中へと戻った。


つづく
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