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◆第2章 おまけの神子とにゃんこ(?)とワイルドエロ傭兵
苦手な男②-1
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今回、接待側の中心にいるのはフェリックス王太子殿下だが、普段の夜会よりは人は少ないとはいえ、数十人を一人だけで対応できるわけもない。少し離れた場所では、同じく接待側として呼ばれた人間が煌びやかな衣装で歓待を行っている。
(……え……?)
その瞬間、俺は目の前の光景が信じられなくて思わず目を擦っていた。
煌びやかな集団の中に、ここにいる筈のない姿を見つけたからだ。
頭一つ分抜きんでた――、たとえではなく実際に頭一つ出ている、綺麗な格好をしているバカでかい男。端整な笑みと優雅な仕草で楽し気に会話をするその様子に、俺はぽかんと口を開けるしかなかった。
「これ、僕の相棒でジーク。あ、冒険者として活動する時のだよ?」
シュナに初めてその男を――ジークを紹介された時、俺は別に嫌な感情は抱かなかった。
(でかい……)
二メートル近い人間は見慣れていた俺だが、明確に二メートルを超えている相手を間近で見たのは初めてだった。
騎士の中にも大きい人はいるにはいるのだが、王城内に出入りする騎士たちは見目麗しい系が多いから、あまり対面で会う機会はなかった。訓練所に行けばおそらく大柄なタイプたくさんいるんだろうが、別に俺は筋肉が好きな訳でもないし、そこまで興味がなかったんだよね。
ジークは、燃えるような赤毛を無造作に伸ばしていて、ラインハルトやフェリックス王太子殿下みたいなタイプと違ってやや粗野な風貌をしていたが、超をつけて良い程の美形だった。
ちょっとたれ目で彫の深い顔立ちに暗い金色の目は綺麗だし、がっしりとしている体躯は頼りがいがある。
ラインハルトもまぁまぁ筋肉質だと思っていたが、ジークと比べれば細身だろう。
騎士団員と比べても、多分ジークの方が体躯は良さそうだ。
ただ、格好が少し……というか、まぁ、ぶっちゃけかなり使い古されている感じで、言い方悪いけれどちょっと汚く見えるので、きゃーきゃー言われるような感じのタイプではなさそうだ。居合わせた侍従さんたちの顔が少しだけ曇っている。
汚いと言ってもお風呂に入っていないとか、服に汚れがついている訳ではないし、多分外界で冒険者として活動する分には何ら問題ないんだろうけど、ここは王城の敷地内だからね。シュナは、煌びやかな衣装って訳じゃないけれど、そういうくたびれた感じは無かったから気にならなかったんだけど……。
(あー……、侍従さんたちは、これは確かにちょっと気になるかもしれない……)
やはり、TPO的にはちょっと目立つのだ。
曲がりなりにも、ここは王城敷地内だ。常に誰かに見られていると意識する必要があるこの場所では、正装やそれに準ずる格好が暗黙の了解となっている。普段は、ジークみたいな貴族ではないヒトは王城内には入ってこられないのであんまり気にされていないんだろうけど……。
神子の守護者であるジークが、王城内を歩いていて咎められることはないだろうが、ちょっと浮いているのは否めない。
俺ですら、少なくとも人の目がある場所では背伸びしているんだ。でないと、侍従さんたちに叱られてしまうので……結構、侍従さんたちは口うるさいんだよ。
「ジークだ。呼び捨てで良い。一応、俺も神子を守護する者として選ばれている。よろしく」
ちょっと微妙な空気が流れても、ジークは一切表情を変えることはなくそう笑みを浮かべていた。
さすがに気づいていないという事は無いだろうし、自由なヒトなんだろう。
差し出された大きな手を握り返しながら、俺はこのジークという人は色々と勿体ないヒトなんだなと思ったものだ。
多分、髪や肌をちゃんと手入れしてもっときちんとした格好をしていれば、この王城内の人たちからも無茶苦茶モテるんだろうに……。
けれど、俺がジークのことを苦手だなと思ったのは、そんな理由からじゃない。
俺みたいな平凡男がジークみたいなイケメンに外見のことで文句をつけるなんておこがましいし、気になるとはいってもあくまでこの世界の感性と周りの目を考えてという前提の話だ。俺がいた地球の感性でいえば、別に普通だし、相手が貴族じゃなくて平民とか冒険者なら、多分野性的でカッコイイみたいに言われてるんだろうなとは思うし。
むしろ、そのくらい気取っていない方が、俺としては親近感が沸いて安心感さえあった。
だけど……そんな俺の最初の好感度は、今では急降下している。今までも嫌な気持ちになるようなことをされたり、神子のおまけとして雑な対応をされたことはあった。
だが、このジークという男、付き合いを始めて見るとかなり癖のあるタイプの男だった。
「あー……もしかしたら、トオルはジークのこと苦手に思うかも……悪い奴ではないんだけどね~」
最初に紹介してもらった日、シュナは俺に少し言い辛そうに言った。話した感じでは別段嫌な感じもし無かったし、向こうから握手を求めてくれるフレンドリーさには結構好感を抱いていたので不思議だったんだけど……。
このジーク、蓋を開けてみれば中々問題のある男だったのだ――。
「トオルって地味だよな」
そうジークに言われた時、最初に感じたのは完全な戸惑いだった。
「えっ?」
思わず、間抜けな声をあげた俺は、何でそんな話になったのかが分からず首を傾げた。
今までラインハルトに思いを寄せていたり、神子の取り巻きだったり、そういった相手からはまぁまぁ失礼なことを言われていたし、言われなれている言葉ではあったが、そういった相手が言ってくるのとは雰囲気が違いすぎたからだ。
その手の相手は、大なり小なり俺を傷つけようとして嫌がらせをするためにこういうこと言ってくるんだけど、ジークからは別にそういった悪意は感じられない。
むしろ、俺に対する態度は出会いからずっと友好的で、俺が友人を作ろうとしていることを知ると、俺も数に入れていいぞ? とも言ってくれている。受ける印象も、俺に対しては多分友愛的な好意って感じなんだ。
だから、俺はその時の違和感をスルーした。
たまたま変なことを言ってしまった。そういう経験は俺にもあったし、地味なのは事実だし。
(……え……?)
その瞬間、俺は目の前の光景が信じられなくて思わず目を擦っていた。
煌びやかな集団の中に、ここにいる筈のない姿を見つけたからだ。
頭一つ分抜きんでた――、たとえではなく実際に頭一つ出ている、綺麗な格好をしているバカでかい男。端整な笑みと優雅な仕草で楽し気に会話をするその様子に、俺はぽかんと口を開けるしかなかった。
「これ、僕の相棒でジーク。あ、冒険者として活動する時のだよ?」
シュナに初めてその男を――ジークを紹介された時、俺は別に嫌な感情は抱かなかった。
(でかい……)
二メートル近い人間は見慣れていた俺だが、明確に二メートルを超えている相手を間近で見たのは初めてだった。
騎士の中にも大きい人はいるにはいるのだが、王城内に出入りする騎士たちは見目麗しい系が多いから、あまり対面で会う機会はなかった。訓練所に行けばおそらく大柄なタイプたくさんいるんだろうが、別に俺は筋肉が好きな訳でもないし、そこまで興味がなかったんだよね。
ジークは、燃えるような赤毛を無造作に伸ばしていて、ラインハルトやフェリックス王太子殿下みたいなタイプと違ってやや粗野な風貌をしていたが、超をつけて良い程の美形だった。
ちょっとたれ目で彫の深い顔立ちに暗い金色の目は綺麗だし、がっしりとしている体躯は頼りがいがある。
ラインハルトもまぁまぁ筋肉質だと思っていたが、ジークと比べれば細身だろう。
騎士団員と比べても、多分ジークの方が体躯は良さそうだ。
ただ、格好が少し……というか、まぁ、ぶっちゃけかなり使い古されている感じで、言い方悪いけれどちょっと汚く見えるので、きゃーきゃー言われるような感じのタイプではなさそうだ。居合わせた侍従さんたちの顔が少しだけ曇っている。
汚いと言ってもお風呂に入っていないとか、服に汚れがついている訳ではないし、多分外界で冒険者として活動する分には何ら問題ないんだろうけど、ここは王城の敷地内だからね。シュナは、煌びやかな衣装って訳じゃないけれど、そういうくたびれた感じは無かったから気にならなかったんだけど……。
(あー……、侍従さんたちは、これは確かにちょっと気になるかもしれない……)
やはり、TPO的にはちょっと目立つのだ。
曲がりなりにも、ここは王城敷地内だ。常に誰かに見られていると意識する必要があるこの場所では、正装やそれに準ずる格好が暗黙の了解となっている。普段は、ジークみたいな貴族ではないヒトは王城内には入ってこられないのであんまり気にされていないんだろうけど……。
神子の守護者であるジークが、王城内を歩いていて咎められることはないだろうが、ちょっと浮いているのは否めない。
俺ですら、少なくとも人の目がある場所では背伸びしているんだ。でないと、侍従さんたちに叱られてしまうので……結構、侍従さんたちは口うるさいんだよ。
「ジークだ。呼び捨てで良い。一応、俺も神子を守護する者として選ばれている。よろしく」
ちょっと微妙な空気が流れても、ジークは一切表情を変えることはなくそう笑みを浮かべていた。
さすがに気づいていないという事は無いだろうし、自由なヒトなんだろう。
差し出された大きな手を握り返しながら、俺はこのジークという人は色々と勿体ないヒトなんだなと思ったものだ。
多分、髪や肌をちゃんと手入れしてもっときちんとした格好をしていれば、この王城内の人たちからも無茶苦茶モテるんだろうに……。
けれど、俺がジークのことを苦手だなと思ったのは、そんな理由からじゃない。
俺みたいな平凡男がジークみたいなイケメンに外見のことで文句をつけるなんておこがましいし、気になるとはいってもあくまでこの世界の感性と周りの目を考えてという前提の話だ。俺がいた地球の感性でいえば、別に普通だし、相手が貴族じゃなくて平民とか冒険者なら、多分野性的でカッコイイみたいに言われてるんだろうなとは思うし。
むしろ、そのくらい気取っていない方が、俺としては親近感が沸いて安心感さえあった。
だけど……そんな俺の最初の好感度は、今では急降下している。今までも嫌な気持ちになるようなことをされたり、神子のおまけとして雑な対応をされたことはあった。
だが、このジークという男、付き合いを始めて見るとかなり癖のあるタイプの男だった。
「あー……もしかしたら、トオルはジークのこと苦手に思うかも……悪い奴ではないんだけどね~」
最初に紹介してもらった日、シュナは俺に少し言い辛そうに言った。話した感じでは別段嫌な感じもし無かったし、向こうから握手を求めてくれるフレンドリーさには結構好感を抱いていたので不思議だったんだけど……。
このジーク、蓋を開けてみれば中々問題のある男だったのだ――。
「トオルって地味だよな」
そうジークに言われた時、最初に感じたのは完全な戸惑いだった。
「えっ?」
思わず、間抜けな声をあげた俺は、何でそんな話になったのかが分からず首を傾げた。
今までラインハルトに思いを寄せていたり、神子の取り巻きだったり、そういった相手からはまぁまぁ失礼なことを言われていたし、言われなれている言葉ではあったが、そういった相手が言ってくるのとは雰囲気が違いすぎたからだ。
その手の相手は、大なり小なり俺を傷つけようとして嫌がらせをするためにこういうこと言ってくるんだけど、ジークからは別にそういった悪意は感じられない。
むしろ、俺に対する態度は出会いからずっと友好的で、俺が友人を作ろうとしていることを知ると、俺も数に入れていいぞ? とも言ってくれている。受ける印象も、俺に対しては多分友愛的な好意って感じなんだ。
だから、俺はその時の違和感をスルーした。
たまたま変なことを言ってしまった。そういう経験は俺にもあったし、地味なのは事実だし。
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