奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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いつも通りの日常?

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 翌日。 
 フィオラは目を覚ますと普通に起き上がり、いつも通りに支度をはじめた。 

「ふぁあ~……あれ?今日もレイがいない」 

 寝惚け眼に部屋を見渡した。 
 最近、朝方にレイがいないことが多くなった気がする。 

「レイのくせに……朝帰りなんて」 

 知り合いがいるわけでもないのに、どこに行っているんだろう。とか思うが、今までフィオラは何となく聞けずにいた。 

「まあ、いっか」 

 そんなことより朝食だ。 
 簡単に着られるワンピースを頭から被るようにして着替える。フィオラは、この楽ちんワンピースがお気に入りだった。 
 今日の朝食は何だろう。などと考えながら部屋を出ると、何やら空気がざわめいている。 

「騒がしいな。何だろ」 

 騒がしいのは玄関の方だった。どうやら、誰かが来たらしい。 

 こんな朝から誰だよ。 

 そういえば、今朝はミーシャが来なかったということに今更気付く。
 来客の対応をしているのだろう。使用人が少ないのだから仕方ない。 

『公爵が帰還されたようですよ』 

「ぅわっ!びっくりした。いつからいたんだよ?!」 

『幽霊ではないのですから、そんなに驚かなくても……』 

「もうっ!心臓に悪いじゃんか」 

『ひどい……傷付くじゃないですか』 

 いつの間にか隣にいたレイに、驚いて飛び上がった。レイはレイで、フィオラの驚き方に驚いている。 
 無駄に心拍数を上げてくれたレイを、恨めしげにじっと見上げた。 

 どこに行ってたんだ? 

 そう問いただすくらい何でもないはずだった。
 でも、何故かフィオラはそれが出来ず、誤魔化すように話を変えた。 

「それより、ニコライが帰って来たって?何でだろ……予定ではもっと後じゃなかったかな」 

『まさかとは思いますが。フィオラ……あなた、昨日の事を忘れたのですか?』 

 ……昨日の事? 

 呆れ顔のレイに、一瞬ムッとなったが直ぐにハッとなる。 
 フィオラは、キンバリー嘘つき事件があった事をすっかりと忘れていた。 
 確かにヒューゴは、ニコライに連絡すると言っていた。近日中にニコライが帰って来るだろう。とも。 

「ま、まさかっ。忘れるわけないじゃん!ほらっ……いくらなんでも、早いなって事だよ」 

 フィオラは視線を泳がせた。どう見ても嘘である。 
 レイは、じっとりとフィオラを見たあと、大袈裟な溜め息を吐く。 

『よく……忘れられますね』 

 フィオラとて、今回の事件にショックを受けていないわけではない。だが、一晩寝たら忘れてしまったのだから仕方がない。 
 レイのジト目に居た堪れず、フィオラはずんずんと廊下を歩いた。 

「ほんと、この屋敷って広いよな……」 

 何かしらを誤魔化すように、どうでもいい事を言いながら歩く。 
 実際に屋敷は広かった。長い廊下を歩きフィオラが玄関に到着する頃には、そこには誰の姿もなくなっていた。 
 柄にもなくニコライの出迎えをしようと思っていたフィオラを迎えたのはミーシャだった。 

「お嬢様、お早いですね。今、お迎えに上がろうかと思っていたのですよ」 

 ミーシャは少し驚いていたが、既に朝食の準備は整っているらしく、そのまま食堂へ向かった。 
 てっきりそこにニコライもいるものだと思っていたが、テーブルに準備されていたのは一人分だった。 

「どうかされましたか?」 

 微妙な表情でテーブルを見つめたまま立っているフィオラを不審に思ったのか、ミーシャが心配そうに声を掛けた。 

「公爵が……帰って来たって?」 

「えっ、何で知ってるのですか?」 

「ぅっ、ええと……」 

 ミーシャが目を丸くさせている。 
 レイから聞いただけで、フィオラはニコライと遭遇していない。もごもごと誤魔化しながら席につく。 
 しまったと思ったが、ミーシャは少し驚いただけで、特に気にする様子もなかった。が、何かを察した様に、ぱぁあっと顔を輝かせた。 

「何分、早い時間でしたので、この時間にお嬢様にご報告しようと思っていたのですが……旦那様でしたら、今は地下牢の様子を見に行かれてますよ」 

 ミーシャがスープをサーブしながらウィンクしている。 うきうきした口調と、地下牢というワードがどこか合っていないと感じるのは気の所為だろうか。 

「……そ、そっか」 

 何故ミーシャが浮かれた様子なのか分からないまま、フィオラはパンをちぎって口に運んだ。 

 それにしても、ライも……少し休めば良いのに。 

 地下牢の様子とは、キンバリーに会いに行ったのだろうが、きっと相当早い時間にこちらに向かったに違いないのだ。 

 そもそも、昨日の今日で帰って来られるなんて……割と近場にいたんだな。 

 フィオラは口をもぐもぐさせながらパンをちぎり、何となく隣に立っているレイを見上げて、はっとなった。 

「……あ」 

『ん?』 

「お嬢様?」 

 レイを見たまま、フィオラは思考の波にのまれていた。 
 パンをちぎったフィオラの手が、とぷんとそのままスープにダイブする。 
 明後日の方向を向いたまま動かないフィオラに、ミーシャは異変を感じ眉を顰め、レイはフィオラの目の前で手をひらひらとさせた。しかし、フィオラは反応しない。 

 ニコライがキンバリーの言葉の方を信じてしまったらどうしよう!! 

 首を傾げている二人をよそに、フィオラの顔が、さぁーっと、青くなる。 
 しかし、それは大いに考えられた。何故なら、キンバリーはニコライの部下。きっと付き合いも長いだろう。 それに対し、フィオラは最近出会ったばかりの、よくわからない醜女。 

「ぅ、うぬぬ……しこ、め、だとぉ?」 

『んん?』 

「お、お嬢様?」 

 フィオラはちぎったパンをスープにつけ込んだまま唸っている。フィオラは勝手にした自虐に、勝手に怒っていたが、落ち着かせようと息を吐いた。 

 私、ここから追い出されるんかな? 

 しかし、黙ったままのフィオラのその思いは、当然目の前の二人には伝わっていなかった。 
 その情緒不安定な様子に、「お通じがないのかしら」と、ミーシャが明後日の方向に心配していたなどフィオラは知る由もなかった。








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