アルカディアンズ ~とある世界の転移戦記譚~

タピオカパン

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猫の国の動乱

指導者

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<<ミャウシア軍艦隊旗艦>>

「これ以上の被害は許容できない!」

艦内の議場で各艦隊の提督や将軍が集まる中、最高階級のニャマルカム大将は連合軍との和睦を全面的に主張した。

「既に一連の戦闘で数十隻の艦艇と百機以上の航空機と1万人以上の戦死者と膨大な物資を浪費してしまっている。だが連合はどうか?戦力はまったくの健在だ。戦いはまだ中盤にすら至っていない。もし勝てたとしても味方の半数を失うことになるかもしれない。我々には戦力も物資の補充もないんだ。更に時間を浪費すれば上陸作戦を阻止されかねない。今すぐにでも和睦すべきだ。」

「将軍、仮に和睦を提案したとして彼らはどのような要求を突きつけますかね?」

大将の提案に質問し返す将軍が出る。

「そもそもここまで拗れてこちらの要求を飲むのですか?」

「徹底的にやるべきだ!」

出席者達の意見は従来通り和睦に懐疑的だった。
命の重さが軽いミャウシア軍ではこの程度の損害を軽く見るものが多く、好戦的な主張を収める雰囲気に達していなかった。
大将は悩む。
事態を適切に判断できているのは自分の取り巻きだけなので主戦論を封じなければ破滅的なことになるのは分かっている。
だがここで対立しすぎて自分が失脚すれば内部分裂して軍が一気に空中分解しかねなかった。
そしてここで議場にはいってきた士官が悪い知らせを伝える。

「報告です。敵艦隊に大規模な動きありとのことです」

「何だと!?どこへ向かっている?」

「海峡を通過し大洋へ全軍を展開させるつもりのようです」

「先の戦闘で自身を付けたな。返り討ちにしてくれる」

将軍たちが騒ぎ立つのを大将は冷めた目で見る。
もう自分には事態を制御することはできないと悟った。


<<ポンポタニア内の連合軍合同作戦司令部>>

「待ってください。もう少し時間をください。ミャウシア海軍との和睦は可能なはずです。彼らの意図はわかったのですからここは休戦協定を結ぶべきなのです。味方に付けられるのならこの上ないことです」

「やかましい!我々は断固として奴らを叩き潰す。流れはこちらにあるのだ。艦隊決戦で勝てば奴らは国に帰還できないのだから軍備を維持できない賊軍に成り果てるしかない。それでいいではないか!」

「仮に勝てたとしても味方の半数以上は失うでしょう。だがミャウシア軍の海上戦力の半数以上は未だ本国です。それがまた襲ってくれば今度は持ちませんよ!」

「もういい、話は以上だ!」

NATO軍の将軍達とポンポタニア軍最高司令官とその取り巻きの将軍たちが言い争う。
それにグレースランド軍やザイクス軍の将軍も混じる。

「貴官らだけではあの大群は相手できないはず。そうなれば各個撃破もいいところだ」

冷静に指摘するがポンポタニア軍の将軍たちが待ってましたとばかりに言い返す。

「無論だ。故に貴軍らも艦隊を出してほしい。首都沖に展開させている艦隊を全て投入すれば勝機は十分あるだろう」

「!?」

グレースランド軍とザイクス軍の将軍や高官が驚く。

「貴様ら、初めからそのつもりだったな!」

「悪いが我々は何と言われようと打って出る。総崩れとなりたくなければそちらも艦隊を出せ」

泥縄式に戦闘が拡大しかねない状況となった。

「...本国に問い合わせる。時間をいただきます」

「結構です」

「我々も司令部に指示を仰ぐため離席させてもらう」

「NATO軍もどうぞご自由に。あと、貴官らはずいぶん優秀な戦力を持っていながらミャウシア軍への攻撃を手控えてるそうですな。その気になれば奴らを壊滅させることも容易いと聞きますが」

「...それで?」

「奴らに情けなど不要だ。貴軍も外海に展開しているアメリカ合衆国という大国の艦隊で総攻撃をかけて一匹残らず全滅させて欲しい」

「...失礼する」

こうして司令部から出向している各軍の武官の一部が退出する。

「完全に暴走しているな」

「あの司令官は国王のドラ息子らしい。絶対王政の国なんだ。司令官がああではテコでも動かんだろう」

「それよりなんでこちらの配置状況知っているんだあの司令官は」

NATO軍の高官達が困り果てる。
そこへ女性が近寄ってくた。

「あなたは...」

「エリザ・スカルディア・クローデンです。時間を少しいただけないでしょうか?」

それはグレースランド王国の王位継承権を持つ女王エリザだった。
グレースランドの王族は軍務経験を積むことを礼儀的に義務化しておりエリザ自身も今回の海戦では出向している軍高官の代表として軍務に付いていた。
もちろんほぼ飾りのような立ち位置ではあったが、思うところがあり接触してきたのだ。


<<交渉役を乗せた駆逐艦>>

夜戦の翌日の天候は崩れ雨のカーテンがちらほら見え始めていた。
ミャウシア軍の艦砲射撃以降足止めをくらい存在意義が薄れてしまっていた交渉役を乗せた駆逐艦の艦橋にフニャンの姿があった。
いつもの眠そうな眼差しで天気の悪い海峡の狭い水平線を双眼鏡を片手に見つめる。
足元には木箱があり小柄なミャウシア人のフニャンはこれがないと景色をまともに見れないのでしまりが悪かった。

そんな中、アルツハイマー少佐がフニャンに声をかける。

「どうやら彼らは一大決戦に打って出るようだ。グレースランド軍も艦隊を外海に展開させる決定を下した。これでは共倒れもいいところなのにな」

「戦争は人から冷静さと大局観を奪います。だからこそより明確なゴールを示さなければならない。そのためにはまさかと思えるような手も使うのが一番効果的なのかもしれません」

「...君は今回の件を画策した張本人だ。またなにかあるのかね?」

「なくはないですが...」

「聞かせてくれ」

「...もしこれから戦闘だという時に味方の一部と敵の一部が勝手に停戦して合流したらどうなりますか?」

「馬鹿げているが、戦闘どころではなくなるな。」

「そう、少なくとも兵力の引き離しを行わないことには手の付けようがありません。ですがもしそうなればなし崩し的に停戦することも不可能ではない」

「つまり和睦したいもの同士で勝手に停戦するということか?」

「そうです。戦いたい者を説得するよりはずっと簡単です」

「だがそれにはいくつも問題がある」

「そうですね。まず検討してみましょう」

「...君はずいぶん大胆だな」

「蜂起を提案したときもそう言われました」

「だろうな。あてはあるのか?」

「そうですね。最初に思ったのがミャウシア海軍の動きはかなり場当たり的なことです。たぶん軍内で意見が割れているのでしょう。恐らく連合艦隊の長はニャマルカム大将かと思いますがあの人は穏健な方です。軍の攻撃に一貫性がないのは大将が作戦を主導できてないからなのではないでしょうか。なら当てにするならこちらかと」

「その人はどこに?」

「間違いなく連合艦隊旗艦にいるはずです」

「ではそちら宛に通信して手打ちしてもらうということだな」

「いえ、通信すれば傍受されます。当然戦いたい者たちにも。そうなれば阻止されるでしょう」

「ではどうするんだ?まさか直接出向くとは言わないでくれよ」

「残念ながらそのまさかです。しかも潜水艦では時間がかかりすぎる上にすぐに艦を用意できないでしょう。ですがこの駆逐艦は速力40ノット近くも出せる高速艦だそうなので誂え向きです」

「敵の勢力圏内に堂々と侵入するのか?無茶な」

「そうでもないようです。恐らくポンポタニア軍は当分雨と濃霧が止まないことを知っていて打って出ると言ったのでしょう。完全に視界が切れています」

少佐は艦橋から外を見る。
天候はますます悪化している様子でやむ気配がなかった。

「私はこの艦で先に先行して待ち構えるミャウシア軍の旗艦艦隊の懐に飛び込む事を提案します」

「だめだ、だめだ!それに旗艦どこにいるか分かっているのか?」

「NATO軍はこのような天気でもミャウシア海軍の艦隊の位置を把握しているのでは?恐らく配置から割り出せるはずです」

図星だった。

「ま、待ってくれ...。とても許可できない。この話はなかったことにさせてくれ」

「私からもお願いします!」

少佐の言葉に続くようにグレースランド語で女性が話しかけてきた。
軍服に勲章を付けた高貴な雰囲気の女性で、側近の通訳と護衛と思われる兵士が何人もいた。
そして艦橋にいた海兵達がその女性を見るや全員直立で敬礼する。

「申し遅れました。私はグレースランド王室、王女のエリザ・スカルディア・クローデンです。あなたがフニャンさんですね。」

これを見た少佐が慌てて翻訳する。
そしてフニャンも敬礼して敬意を持って返答する。

「はい、私はミャウシア陸軍中佐、フニャン・ニャ・チェイナリンであります。王女陛下御自らおいでになられるとは存じておりませんでしたので応接する用意がなく申し訳ありません」

「いえ、私は無理を言ってここへ来たのです。私こそ無礼を陳謝させてください」

「そうですか、ではお互い様ですね」

「ええ」

少し間が開き、お互いの表情が和らぐと王女が手を差し伸べる。
それを見てフニャンも手を差し伸べ、握手となった。

「では本題に移りましょうか」

王女はやる気に満ちた表情でフニャンにそう言った。
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