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しおりを挟む「クロ!クロ!こっちにおいで」
ねこじゃらしを振り、キジトラ猫を追いかける颯と葉名を、離れたベンチに座った旺也が見守っていた。
公園に住む地域猫があの絵本のクロにそっくりだと気付いた颯は、彼を勝手にクロと命名し三十分以上ああやって追いかけている。クロの方は素知らぬ顔でマイペースに散歩を続けている。
「ぜんぜんこっちにこないねぇ」
「クロちゃん、遊ぶ気分じゃないのかも」
「どうやったらあそんでくれる?」
「うーん、何回も会ったら仲良くなれるかもしれないね」
「そっかぁ」
葉名の言葉を聞いて漸く区切りのついたらしい颯は、クロにばいばいと手を振り旺也の元へ戻る。クロの尻尾がふわりと揺れた。
「おうちゃん、かえろ」
「ああ」
「かえったら、おたのしみだもんねぇ!」
堪え切れない、といった様子で颯は両手で口を押さえ笑い声を漏らした。
「今日は颯ちゃん頑張ったもんね」
「うん!」
颯は誇らしげに胸を張った。
子育て支援センターに通い続けていた颯だったが保育園に行くことはやはりどうしても嫌がった。そんな時に子育て支援センターの職員より同じ法人の幼稚園へ入園するのはどうかと提案があった。また颯の友人達も同じ幼稚園を考えていることを聞き、颯は渋々頷いたのだった。
今日はその幼稚園見学の日。今日が段々と近付いてくると不満と緊張が高まっていた様子の颯だったが、葉名から「幼稚園見学終わったらお楽しみの日にしようね」と言われ顔を輝かせた。
「颯ちゃんのしたいことしようね」
「えーっと、えーっと……こうえんいくでしょ。あとおかしつくってみたい」
「お菓子?」
「たっくんがね、ママとおかしつくったって。そうもできる?」
「大丈夫、颯ちゃんもできるよ。何作るか後で考えてみようか」
「やった!あとね、はなちゃんのオムライスたべたい。それから……はなちゃん、おとまりしてほしい」
「へ?」
「やっぱり、こんなにいっぱいはだめ?」
必死で考えた颯が強請ったのはどれもささやかな願いに思えた。お菓子作りだってオムライスだって、何でもない日にでもできることなのに。葉名は旺也へアイコンタクトを送り、お泊りの許しを得る。苦笑して頷く彼を確認してから、「よし、この日はお泊りしよ!」と伝えると颯は喜びのあまり高く飛び上がった。
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