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しおりを挟む帰宅すると手を洗い、フルーツゼリー作りを始める。図書館で借りた子ども向けのレシピ本の中から、颯が「あれもいいな」「これにしようかな」と悩み抜いて、漸く決めたものだ。前日に行った買い物で颯が選んだパイナップルや蜜柑の缶詰を開ける。
「颯ちゃんはこれにフルーツを入れてね」
「うん!」
葉名が自宅から持ってきた色とりどりの容器に颯は真剣な顔でフルーツを入れていく。そんな彼の様子を見ながら、葉名は缶詰のシロップにゼラチンを混ぜたものを鍋で加熱する。
「できた!」
「わ!上手にできたねぇ」
「おうちゃんもみて、じょうずでしょ?」
「ああ」
容器の中にはパイナップルと蜜柑がバランスよく並んでおり思わず感心させられる。旺也が頷くのを見て、颯は満足そうに笑った。
「よし、ゼリーは少し冷やしてから入れるから今のうちにお風呂入っておいで」
「えぇ、まだおてつだいする」
「お風呂入ったらオムライスの旗づくり、お願いしたいな」
「オムライスのはた!つくる!」
「じゃあ急いでお風呂入っておいで」
「おうちゃん、はやくして!」
まるで旺也のせいで遅くなっているかのような勢いに葉名も旺也も吹き出した。
「全く……ほら行くぞ」
風呂場に向かう二人を見送ると、葉名はオムライスの準備を手早く進めた。
「ふぅ~、おなかいっぱい!」
オムライスもフルーツゼリーも綺麗に平らげた颯は膨らんだお腹をぽんぽんと叩いている。
「颯ちゃんいっぱい食べたもんね」
「うん!」
「旗も上手に描けてたね~」
照れくさそうに微笑む颯へ葉名も穏やかに笑う。
「きょうはえほんいっぱいよも!」
両手いっぱいに抱えた絵本をよろけながら運んでくる。「その前に歯磨きだぞ」と旺也から声が掛かると絵本を下ろし葉名の手を引いて洗面所まで向かう。二人並んで歯を磨き終えた時、颯がぽつりと呟いた。
「はなちゃんがまいにち、いてくれたらいいのに」
「……っ、そうだねぇ」
不意に落とされた言葉に一瞬詰まった葉名だったが、何とか共感の言葉を捻り出した。
「えほん、よみにいこ!」
颯がまた手を引いた。この小さな身体で何とか葉名を困らせないようにしてくれているのだろう。それがとてもいじらしく、そして悲しかった。
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