年下俺様アイドルの、正しい飼い方

天然か、策略か②

　振り返ると彼女は、予想通りキョトンとした顔をして俺を見上げた。
　そしてそれから子供みたいに、先程俺が噛み付いた指先を、なんで噛まれたのか分からないとでも言うようにじっと見つめる千尋さん。
　
　......やっぱり、無自覚かよ！

　人がせっかく、大切にしようとしているというのに。　
　だけど、こんな人だから。
　......男女の駆け引きなんてまるで考えてなどいないであろう千尋さんだからこそ惹かれたのが自分でも分かっているから、非常に困る。

　仏の顔も、三度まで。
　しかし俺ペットがお預けに堪えられる限界回数は、どうやら二度までだったようだ。

「ねぇ、千尋さん。
　俺ね、クッキーじゃなくて他の物が食べたくなっちゃった」

　いつもするように、実年齢よりも幼く見えると言われる笑顔を顔面に貼り付け、無邪気を装いねだるように言った。

　割と直球のお誘いではあるが、これくらい言ってももしかしたら、その意味するところを理解しないかもしれない。

　そんな風に、考えていたというのに。
　彼女は真っ赤になりながらも再び俺の体に抱き付いてきたものだから、それに驚き反応が一瞬遅れてしまった。
　すると彼女は恥ずかしそうにぎゅっと目を閉じて、震える声で答えたのだ。

「クッキーと比べると、美味しくはないかも知れないけれど。
　......お風呂は奏くんが帰る前に、もう済ませてるので」

　まさかこんな事を、この人が言うだなんて。
　彼女は真面目で色事に疎いイメージだったから、少しずつ事を進めるつもりだった。
　さっきのキスだって目を開けたままだったくらい拙つたなくて不馴れな感じだったから、初めてではないにしろ、しばらく恋愛はご無沙汰なんだろうなって思うと嬉しかったし。

　だけどこれが、まごうことなき据え膳であるというのであれば。

「本当に、たち悪過ぎなんだよ。
　......俺を煽った責任、ちゃんととって貰うから」

　彼女の小柄な体をお姫様みたいに抱き、俺の部屋に向かい歩を進めた。