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第一章じーちゃんから貰った鍵

綺麗なお姉さんと可愛い女の子

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進路の事で親と揉めていたことも、綴れ荘に行ってみよっかな?と思った要因の一つなのは否めないが、今日がじーちゃんの命日だと言う事も俺の心に合ったのも事実だ。

自分から墓参りに行こうという気にはどうしても慣れなかったが、それでもこの日は忘れた事がなかった。
優しかったばーちゃんが亡くなってから、後を追うようにじーちゃんが死んだ。

好き勝手していて、家庭なんて省みる事がなかったじーちゃん。
だから、絶対家族やばーちゃんの事なんてどうでも良いんだって思っていたと父さんが言っていた。
でも、ばーちゃんが死ぬ間際じーちゃんに伝えた言葉が今でも耳に残っている。

『約束を守ってくれて有り難う。…寂しがり屋な貴方を残して行ってごめんなさい』

ばーちゃんはじーちゃんの涙をもう覚束無い手で最後の力を振り絞り、拭いながら伝える。

『……今度はそんなに待たせないから、先に行って待っててくれ』
その手を自分の手で包むと見栄とか、大人としての外聞とか、そんなのどうでも良いように、じーちゃんは大泣きした。
でも、そのじーちゃんの姿は今まで見てみた中で一番格好いい。
まるで二人の儀式の様だ。

ばーちゃんの人柄を反映する様に、最後は穏やかな、暖かい日だった……。
死に際がこんなにも綺麗だなんて、子供心に心が震えたのを覚えている。

ばーちゃんが亡くなって少ししてから、じーちゃんが何かを見ている様で、その実何も見てはいないような、そんな虚ろな目で呟く様に言っていた。

『どんなに遅くなっても、待っているから必ず帰ってきてね。そして生きている間は何度でも私が貴方を見送るから、最後だけは貴方が私を見送ってね』

何も望まない、ばーちゃんが唯一願った事だったそうだ。
俺は知らなかったが、ばーちゃんは長いこと病気を患っていた。
そんな姿、ばーちゃんは絶対に見せなかったからだ。

ガキだった俺は、物事の表面しか見えていなかった。

自転車を漕ぎながら、俺の頭のなかはじーちゃんとの思い出がTVCMの様に流れていた。
見ようと思って見ている訳じゃないが、何故か心の記憶には残ってる、そんな映像。

◇◇◇

自宅からそこまで離れていない、俺の近所に比べて小高い場所に有る綴れ荘のアパートの一角。
アパートの前に自転車をとめると、俺は自転車にロックをかけ、じーちゃんの表札がかかった部屋の前まで来た。

筈だった。
おかしい、表札はじーちゃんの名前だった筈なのにいつの間にか、俺の名前に替わっていた。

「じーちゃん、いつの間に………」

常識がある俺は、まだ早い時間帯に考慮して小声で呟いた。
声に出てしまったのはご愛嬌。
ズボンのポケットから赤茶で銅の鍵を取り出し鍵を開けると、鍵を抜き取り年期の入ったドアノブを回して、ドアを開ける。
ドアはガチャっと音をたてながら開いた。

油をささないとな、そんな何気ない事を考えていた俺の頭は、まるで鈍器で殴られた様な衝撃を受けた。
部屋の中は四畳半ではなく、光が差し込むだだっ広い祭壇の様な場所。
ここは日本じゃないのか!?と疑いたくなる様な、イメージとしては西洋のお城か教会か?…俺の乏しい言葉では表現が難しいが、そんな場所だった。

「おいおい、何だよこれ?…」

流石に驚いた俺は、先程とはうってかわって、大声を出してしまった。

「えっ!?」

すると、俺のじゃない声が聞こえてくるではないか。

階段下では祈るように膝をつき、手を合わせていた少女が目を見開いて俺を見ている。

気付かなかった俺も存外間抜けだが、これは仕方がない事だと思う。
何故なら俺が立っている場所は、小高い祭壇の一番上で、常に前だけを見詰めている俺は下なんて見るわけもなかったからだ。

突然、訳もわからず突っ立っていた俺の手のひらが光だした。
正確には俺の掌出はなく、握っていた鍵が金色に光だし、小さな竜に変化すると俺の手首を包む様に丸くなり、頭が尻尾を噛んでいる様な状態になると、鍵は竜から今度はブレスレットに変化した。
イメージとしての図式は、こうだ!!

鍵→鉛筆位の子竜→金のブレスレット。

途端、俺が入ってきたドアが独りでにキー、バタン音を起てて閉まってしまった。

「え?!…扉が無い!?」

閉まる前までは確かにそこにあったドアが、見当たらなくなっていた。

「どうなっているんだよ!?」

正直俺はパニックになりそうになっていた。俺は現代を活きる高校生だ。こんな訳の解らない状況が日常茶飯事なスリリングな生き方何て勿論していない。
俺の心の中では、とてつもなく色々な考えが慌ただしく働いていた。
でも、沢山考えた割には答えは[未知の状態につき不明]だった。
 無理もない、可愛いそうな俺の頭。
判断するには情報が少なすぎた。
一つ解るのは、綴れ荘のドアは固定式の◎◎◎◎ドアだと言うことだけ。
それもどうやら、行きたい場所が選べる方式ではないという事で……。

そんな俺を黙って見つめていた目の前の美少女は、はらはらと大粒の涙を流すと、祭壇の階段を勢い良くかけ上がると俺めがけてタックルしてきた。

「やっと戻って来て下さった!!…お逢いしたかった!!龍人様!!」

誰だよ!?龍人って、俺は誠だっつーの!!

俺は美少女のタックルを腹で受け止めるそのと勢いで背中が床に着いてしまった。
それでも美少女は俺から離れない。
どうやらこれは、暴力ではなく、勘違いされて懐かれているらしい。

それにしても、龍人、龍人、龍人、龍人?…どっかで聞いた名前なんだよな。
俺は脳ミソの精密コンピューターをハイパワーで動かして、思い出していた。

「龍人…………ああ、じーちゃんの名前が確かそんな名前だったような」

何で高校生にもなって祖父の名前を覚えてないかというと、俺の中ではじーちゃんはじーちゃんだからだ。
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