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見習冒険者編【見習の番人】参上!!

5話

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 今日はいつもより少し早めに起きて食事をとり食休みを取っていた。

 毎日大量に出てくる食事を食べて運動したら吐く。
 デヴィッドの思いやりと優しさが詰まってるけど気持ちだけにして欲しい。

 可愛がれば可愛がるほど1品の量が増えるのは嬉しいやら悲しいやら。

 逆に嫌われると大変である。
 この間、他街から来た冒険者が給仕の女性に絡み
 嫌がってるのにヘラヘラと笑っていてこの辺に海が無いことを知りながら『魚を出せ』と喚いていたら

 デヴィッドが笑顔で出て来て皿に乾燥させた小魚1匹出して『特別メニュー』だと言って出した。

 それにキレた冒険者が相手を知らずに抜剣してそれをデヴィッドに拳1つでボコボコにされていた。

 口を開けて驚いていると周りの冒険者達に教えてもらったがあれがデヴィッドの常套句らしい。
『特別メニュー』とは拳含みで特別らしい。

 値段もバカ高い(罰金含み)その小魚を口に入れて

「これが普通の魚に見えるのかよ。こんなにいい味をスープに着けてくれるのにな!ガッハッハッ!」

 と笑いながら調理場に戻って行くのだ。

 この次の日から乾物屋の小魚がバカ売れしたらしい。

 野営であれをお湯で野菜と煮ると美味しいらしいよ。

 そんなことを思い出しながら盾術の訓練場に入って行くと
 珍しくそこには見知らぬ同年代の男の子達が居た。

 俺が入ってすぐに教官……? が入って来た。

「あらヤダ~キャワタンなマイエンジェル達がいっぱいねぇ。ひぃふぅみぃ……ウンウン。6人とは鍛えがいがあるわ~ 」

 すみません。帰っても良いですか?
 筋骨隆々のオッサン、ひぃ何か睨まれた。

 筋骨隆々のおネエ様が体をクネクネするのは見るのが辛いです。

 それに俺と同年代の子達が入って来た理由も何となく理解した。
 今はそろそろ秋口に差し掛かる所で麦や玉蜀黍の収穫が完全に終わる時期だ。

 働き手が要らなくなり、最後の仕事を終えて家から出された子達だ。
 基本的に農家に男は2人目以降は要らないらしい。

 だから3男から下はある程度まで成長すると猟師、木こり以外だと冒険者になるしか無い。

 あくまでも村や町規模ならの話で街に来たなら大工やら鍛冶やらに弟子入りする人も居るので
 何千人とこの街に来た子達の中でもひと握りだろう。

 教官は俺達の体を触っては偶に『グフッ』と言って鼻を布で抑えてる。
 各人に見合う盾を渡してる様だった。

 俺は……小盾だった。
 これはカイトシールドの様な大きな盾とは違い相手の攻撃に耐える為の盾では無く

 逸らす、タイミングをズラしたりする為の盾らしい。

「最後の子はスピードが速いタイプの子だからね!
 回避を中心に相手に印象を与える盾師になりましょう。
 う~ん分かりやすく言うとハエや小虫って目の前や視界に居ると鬱陶しいでしょ?

 そのくせ払っても払っても居なくならないじゃない? それを目指しましょ!オー!」

 最初に行ったのは意外なことに盾を持ったまま走るということだった。
 確かにこれが出来なきゃ潰走した場合逃げれないもんね。

 この時、事件が起きた。

「おい!おっさん! こんな訓練してなんの役に立つってんだ! 皆を守る為の盾じゃないのかよ!」

 1番体格の良い男の子が木で出来た大盾を地面に叩きつけたのだ。

 皆、気持ちは同じだった。あれはヤバいと。
 見なかったことにして走ることを俺は継続すると他の人達も慌てて着いてきた。

「ゴルァァァ!誰がおっしゃんじゃぁぁ!
てめぇ誰かを守りてぇなら盾をぞんざいに扱うとはいい度胸じゃねぇか。
 今から攻撃を加えるから逃げてみろ。周りにパーティメンバーが居ると思ってやらねぇと殺すぞゴラァ!」

 腹に響く低い大声で教官が怒鳴り散らす。
 男の子は顔を真っ青にしていたが容赦なく攻撃を加えられていく。

 泣きながら……って、ちょっと!!

「待てやゴラァ! てめぇが逃げたらパーティメンバーは全滅だぞボケェー」

 ちゃうちゃう俺、大きな盾を持った子じゃないから!

 そう、あの男の子は魔物の擦り付けではなく教官のおネエ様の擦り付けを敢行したのである。

 興奮したおネエ様は所構わず俺達にも攻撃を開始。

 その攻撃内容を俺達は……見てしまった。
 突然のことに対応出来ず疲労でフラフラしていた最後方の子が教官のおネエ様にホールドされ『ぶちゅ~』とキスされる。

 その攻撃にその子はビクンビクンと跳ねると気絶して解放され地面に寝かされた。

 その光景を見た瞬間全員パニックである。

「嫌だっ!絶対におっさんが初めてとかいやだぁぁ!」

 そう叫んで逃げようと扉に向かった子の『おっさん』に反応して1人逃げた子に向かう教官。

 皆顔を青くして逃げ始める。

 ここは訓練場。木剣や木槍は幾らでもある。
 盾術の訓練でまさか武器を持った訓練……いや男子の憧れる『初めての』危機になるとは。

 2人目陥落。『青髭ジョリジョリ~』と魘されている。

 なんと言うことでしょう。精神ダメージまで入れるとは鬼教官です。

 決死の覚悟で文句を言った男の子が木製のカイトシールドで『シールドバニッシュ』をしますが
 全く堪えて無い所か……カイトシールドごと男の子に抱き着きカイトシールドを粉砕……

 何が恐ろしいってカイトシールドは粉砕したのに男の子は動けないだけでもがいています。

 何故かこちらに『助けて』と言っていますが、その光景を見た他の2人も一緒に合掌しました。ぶちゅ~。あぁご愁傷さま。

「ぎゃああああ」

 まぁ悲鳴をあげた所で君は原因を作った張本人だから自業自得だよ。

 しかしおネエ様教官は止まらない『グヘッグヘッ』と言ってジリジリとこちらに向かってきます。

「ひぃぃー『氷球』ひぃぃ、効かない。『雷球』」

「『愛の抱擁ラブ・ハグ』を受けなさぁい!」

 俺はその腕が横から来るのを小盾で下からはね上げ逃げる。

 魔法、木剣を使い敵に攻撃を加え、抱擁が来たらパリィして避ける。

 あっ!しまった。木剣でパリィしたら勢いが着いて向きが変わり左斜め後ろに居た子が犠牲に……

「んぎぃぁぁぁぁ」

「ご馳走様。んちゅ」

 ひぃぃ嫌だぁ。怖いよう。ん? ご馳走様?

「きょ、教官? 正気に戻ってますよね?」

「ギクッ! え? えぇ? ワタシ何してたのかしら~」

 凄く動揺しながら言い訳をする教官。

 事件は6人中4人が犠牲になり医務室に運ばれ2人が盾術1を獲得した辺りでデヴィッドが訓練場に顔を真っ赤にしてやって来た。

「おいっ! タコ坊主! てめぇ毎回毎回若い奴らにトラウマ与えんじゃねぇって言ってるだろボケェ」

 す、凄い! デヴィッドの腕が消えて見える程の拳で殴られた教官は

「タコって誰がタコじゃボケゴラァ?」

 顔を茹でタコの様に真っ赤にして怒り始めた。
 ドゴン、バキッ、ドゴンと音は鳴って響いてるのに教官は一切崩れない。

「お? 坊主見ておけ。盾術を極めると体が頑強になりこの様に有り得ないほどタフになるからな」

 そう言ってデヴィッドは攻撃を加えるも教官は一切堪えてない。

「オイタした子には『死の抱擁デス・ハグ』よ、覚悟しろやぁ」

 腕に何かしらの力が加わり湯気のような物が見える。
 そして抱擁しようとした所でデヴィッドの戦闘が拳だけで無く滑らかな地面を滑る様な動きに変わり蹴りを使い始めた。

「いやぁ~ん。熱い。熱いものが注がれてるわ~」

「てめぇ……油で揚げてやるか? おっかしいな? 俺の蹴りCランクの魔物でも一撃なんだけどなぁ」

 何故ここの教官や職員達には人外の実力者が多いのだろうか……

 そんな時だった。

『盾術を獲得、統合が終わりスキル:ウェポン使いを獲得しました』

 へぇ、ウェポンって確か一般スキルの最高位のスキルの中にあった気がする。

 確か武器のことでその最高位のスキルは『ウェポンマスター』だったからその下位互換かな?

 俺ともう1人の子はデヴィッドと教官のけんかを尻目に隠密行動で訓練場から逃げ出した。

 他の教官達から『勇者』と称えられ恥ずかしくなったとは言えない。

 他の教官達も犠牲者だった様だ。未だにあの『ゴラァ』を聴くと体が震え上がるらしい。


 嫌だ、もう行かない。しかも盾術の教官は3人居るはずなのに運が無かったとしか言えない状況だった。

 そして愛の抱擁を受けた自業自得君は新たな扉を開き毎日おネエ様教官に付き纏い有名になるのであった。

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