迷い猫物語

江須 オルト

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僕の居場所

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僕は真宵荘のフリースペースになっているらしい一階の真ん中の部屋に通された。
この部屋には確かに誰かの部屋という感じではなく、真ん中に向かい合うように置かれたソファーが2つとその真ん中に置かれた木製のテーブルくらいしか目に付くようなものはとくになかった。
少しチャラそうな青年に促されてソファーに腰掛けているのだが、猫耳みたいなくせっ毛の特徴的な女の子が鼻をヒクヒクさせながら僕の匂いを嗅いでくるので大変居心地が悪い。
「うむ。大丈夫な匂いだ」
と女の子は少し偉そうに言った。
「悪く思わないでくれ。タマは初めて会う人の匂いを嗅ぐのが趣味なんだ」
「趣味ではないぞ!いい奴か悪い奴かチェックしているのだ!」
キッチンから甘いいい香りのする紅茶を持ってきた青年にタマと呼ばれた女の子は少し怒りながら言い返した。
「はいはい。あ、俺はユウジな。こっちの猫耳はタマ」
青年は向かい側のソファーに座ると自己紹介をしてくれた。
「あ、えと、僕はリクトです」
「よろしくなリクト!」
タマはそう言いながら紅茶を啜った。
「あちちっ!ユウジ!紅茶熱すぎるぞ!」
涙目になってタマはユウジさんを睨みつけた。
「お前が猫舌なだけだろうが」
と言いながらユウジさんは平然と紅茶を啜る。
「二人とも仲いいんですね。兄妹かなにかですか?」
「そんなんじゃないよ。ここに住んでるみんなこんなんだよ」
とユウジさんは笑いながら答えた。
「ここってあと何人くらい住んでるんですか?」
ふと疑問に思ったことを尋ねた。
「今は俺とこいつとリクトくんを合わせて5人だね」
とユウジさんは指を折りながら数える。
ちょっと待て、僕も数に入ってなかったか?
「だってここにたどり着いたって事はどこにも居場所がないんだろ?だったら一緒に住めばいいじゃん」
ユウジさんはネコジャラシでタマを弄びながら平然と言った。
「私も賛成だぞ!」
さっき怒っていたはずのタマは忘れたかのようにネコジャラシの先を追いかけていた。
「で、でも迷惑じゃ…」
「大丈夫だよ。ここのみんなはそうやって集まってきたんだから」
本当にいいのだろうか?これまで居場所なんてなかった僕がこれほど簡単に居場所を手に入れてもいいのだろうか?
「難しく考えんなって。な、タマ?」
「そうだぞ!それとも私と一緒じゃ嫌か?」
タマが上目遣いで見つめてきた。正直これはずるいと思う。
「…わかりました。今後ともよろしくお願いします」
「おう!よろしくな!」
「よろしくなのだ!」

という突然の流れから僕はこの真宵荘に住むことになった。
「あ、これ鍵な。二階の左側の部屋」
ユウジさんが鍵を渡してくれた。
「隣こいつだから気使わなくていいよ」
と言いながらタマの頭を軽く小突く。
「あ、はい。ありがとうございます」
「晩はみんなで歓迎会だな!」
とタマは大はしゃぎで部屋を出ていった。
タマが出ていった扉を見つめてユウジさんが口を開く。
「タマのことよろしくな」
意味がわからず、僕はただ曖昧に頷いた。
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