迷い猫物語

僕の居城

僕はユウジさんに近くのデパートへ連れていってもらった。
そこで生活に必要なものを買おうと思ったが手元にお金が無いことに気づいた。
連れてきてもらった手前恥ずかしくて言い出すことも出来ずにいると、
｢貸しだからな？｣
と笑いながら代わりにお金を出してくれた。

真宵荘は貸し借りが大切なのだそうだ。
そこに住むみんなは貸し借りに基づいて行動する。だから、｢この人には貸しがあるからこれをやってあげよう｣という考え方のようだ。
仲良さそうなのに意外とサバサバしていることに驚いた。

かくしてその日の夕方には僕の新居が整った。
たった八畳の1DKだが高校生になって半年ほどしか経っていないガキからすれば立派な居城だった。
部屋の整理も一段落して休憩しているとインターホンが鳴った。
扉を開けるとタマが立っていた。
心なしか少し興奮しているようだ。
｢リクト！下にいくぞ！歓迎会だ！｣
と言うや否や僕の服の裾を引っ張って連れていこうとする。
｢まってまって！まだ靴履いてないから！てか服伸びるから離してよ！｣
躓きそうになりながら靴を引っ掛けて外へ出る。
｢早くしないとおいてくぞー！｣
と階段の手前で立ち止まったタマが手招きして急かしてくる。
結構な速度で金属製の階段を降りているはずなのにタマの足音はほとんどしない事に少し驚いたが、タマが行ってしまうので考えるのを止めて追いかけた。