迷い猫物語

江須 オルト

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バイト探し

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昇り始めた日の光を浴びて目が覚めると隣に人の体温を感じる。
そちらを見るとタマが寄りかかって眠っていた。どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
僕はタマを起こさないようにそっと立ち上がると自分の部屋に戻った。
昨日の幸せな時間のせいでまだ夢を見ている気分だったので冷ためのシャワーを浴びて目を冴えさせる。
今日からは僕が出来ることをしないと。
とりあえず少しではあるが昨日買ってもらった食材で朝食を作る。味噌の香りが鼻をくすぐってお腹が鳴る。
ちょうどご飯が炊き上がったころにインターホンが鳴った。こんな時間に誰だろうか?
「いい匂いがしたから来た」
そう言ってまだ眠そうに目を擦っているタマは勝手に僕の部屋に上がった。
まぁ僕だけで食べるには少し多かったのでタマの分も用意してやった。
2人であぐらをかいて向かい合う。テーブルに並ぶ朝食はいつも通りの出来だ。
「いただきます」
二人は手を合わせて呟き、朝食をとり始めた。
「う、うまっ!うまいぞリクト!」
さっきまで眠そうだったタマは味噌汁を啜ると興奮気味に言った。
「ありがと。口にあってよかったよ」
素っ気なく答えたが実は凄く嬉しい。これまでは誰にも褒められることがなかったから。
タマは物凄い速さでご飯を食べ尽くした。ここまで豪快に食べてもらえるとこっちまで清々しい。
「ごちそうさまでした」
食べ終わった食器を流しに運んで洗い物を済ませると、僕は昨日からやろうと思っていたことをやり始めた。バイト探しだ。
「なにをしてるんだ?」
タマは不思議そうに手元の求人誌をのぞき込む。
「バイト探しだよ。働かないとお金を貰えないからね」
僕は求人誌から目をそらさずに言う。お、このバイト良さそう。
しばらく黙って良さげなバイトを探していると、タマからの視線を感じる。
「どうしたの?」
タマの方をみるとサッと目線を外された。物凄く居心地が悪いんですけど。
「た、タマはバイトしないの?」
気まずくなって話題を振ってみる。
するとタマは黙って部屋を出ていった。
聞いてはいけないことだったのだろうか?
少しモヤモヤしたまま、また求人誌に目を落とした。

その日の夕方、夕飯の下準備をしようとしているとまたインターホンが鳴った。
今度は誰だろうか?
「リクトくんの料理、旨いんだって?」
両手にスーパーの袋を持ったユウジさんだった。
「これ、昨日のじゃ足りないだろうから買ってきた」
と言いながらその袋を渡してくる。中には結構な量の食材が入っていた。
「え、いいんですか!?」
僕は恐縮してしまう。
「夕飯、たべさせてよ」
「え、あ、はい!」
僕はもう一人分準備することにした。

「リクト、バイトするの?」
テーブルの方でくつろいでいたユウジさんが求人誌を見つけて言う。
「あ、はい。お金がないと何もできませんから」
「まじめだねぇ」
と言いながらユウジさんはパラパラと求人誌をめくった。
「ユウジさんはバイトしてるんですか?」
ふと気になったので聞いてみた。
「働くわけないじゃん。女の子のお友達にお金出してもらってんの」
と言いながらユウジさんは舌を出して笑った。ヒモだったのかよ。
なんだかユウジさんへの尊敬が崩れ落ちた瞬間だった。

トンカツを揚げているとまたまたインターホンが鳴った。今日は何かと人が来る日である。
「またいい匂いしたから来た!」
タマだった。
まぁタマは気持ちいいくらいに食べてくれるので作りがいがあるから大歓迎だ。
それに機嫌が悪そうではないので少し安心した。

何だかんだで3人でテーブルを囲む。
「トンカツの衣がサクサクしてる!」
ユウジさんは感動のあまり喉を詰めたようで咳ごんだ。
「それってふつうじゃないですか?」
「いやいや、感動的だわ。しかもめっちゃ旨いのな」
どうやらユウジさんはコンビニ弁当を食べることが多いらしい。そりゃ衣もふやけたのが多いだろう。
タマは相変わらず清々しいくらいに美味しそうにバクバク食べてくれる。
こんな些細なことでも幸せを感じた。

食事も終わり、3人で温かいお茶を啜っているとユウジさんが突然言い出した。
「これから俺達の飯作ってくれない?ちゃんと金は払うからさ」
「え、ご飯作るのはいいですけど、お金を貰うだなんて悪いですよ。」
「だってリクトはバイトしようと思ってんだろ?だったら俺達がお金を払ってリクトがご飯を作る。いい商売じゃない?」
確かにご飯を作るだけでお金が貰えるなら魅力的だ。
「いいんですか?」
「こっちがお願いしたいくらいだよ」
「それなら…わかりました」
かくして僕のバイト探しは終わった。
明日からが楽しみである。
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