迷い猫物語

江須 オルト

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新しい日常

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小鳥の囀りで目が覚める。
ベットから降りると洗面所に向かい、顔を洗う。
カーテンを開くと眩しい朝の陽射しが僕の脳を刺激し、目が冴える。
「…うぅん」
ゴソゴソとベットの掛け布団が動く。
ベットの掛け布団を剥ぐとそこにはタマが気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「おい、なんでここにいんだよ!?」
タマは眠たげに目をこすりながら身を起こす。
「暖かくて気持ちよかったから」
寝ぼけ眼で僕を見ながら笑みを浮かべる。
その顔を見ると怒る気も失せてきた。
「今度からは自分の部屋で寝ろよ」
そう言い残して朝食の用意に取り掛かった。
昨日の晩のうちから液に浸しておいた食パンを熱してバターをとかしたフライパンで焼く。すると甘いバニラの香りが引き立った。
その匂いを嗅いでお腹が空いたのだろうタマが後ろからじっと見てくる。
まるで獲物を見つけた野良猫のような視線だった。
「…はい。どーぞ」
タマの前にフレンチトーストをのせた皿を置くとタマは今にも飛びつきそうな目で挨拶をそこそこに済ませるとフレンチトーストにかぶりついた。
「うまぁぁ」
タマの幸せそうな顔を見ているとこっちまで幸せな気分になる。
さっき食べだしたはずなのにもう空になった皿を名残惜しそうに見つめるタマに「まだあるけど?」と言うと「いいの!?」と食いついてきた。
僕の分はなくなるけどタマの幸せそうな顔を見れればそれでいいやと思った。

タマが二枚目も平らげて満足そうにしていると、インターホンが鳴った。
扉を開けるとタクヤさんだった。
「飯、食いに来たぜ」
と言うと三百円を僕に手渡した。

僕のバイト(と言えるのか?)はみんなの分のご飯を作る代わりにみんなからは一食につき三百円を貰うというものだった。
一食につき三百円というと安く感じるかも知れないが、真宵荘には住人が五人いる。僕を除いても四人だ。という事は一食で千二百円、一日で三千六百円となり、一ヶ月にすれば十万円を越える。
ほんとにこんなに貰っていいのだろうかと申し訳なくなる。

「リクトの作る飯ってマジで旨いのな!」
タクヤさんは興奮気味にフレンチトーストにかぶりつく。
「そうだろう?」
なぜかタマが胸を張る。タクヤさんがタマの頭を撫でてやるとタマは「あうー」と唸りながら満足げだった。
そうこうしているとまたインターホンが鳴った。
今度はユウジさんだった。
「よろしくねー」
と言いながら僕に六百円を渡す。なぜかタマの分までユウジさんが払ってくれているのだ。
ユウジさんにもフレンチトーストは好評だった。

「リナ遅いなぁ」
4人でテーブルを囲みながらコーヒーを啜っているとユウジさんが呟いた。
「俺が起こしてくるわ」
「よろしくー」
タクヤさんが立ち上がると三人で見送った。

しばらくしてタクヤさんが戻ってくると
「リナが飯、朝はいいってよ。こんなに旨いのにもったいねぇよな」
「まぁ朝食べない人も少なくないし仕方ないよ」
タクヤさんの報告にユウジさんがフォローを入れてくれる。
本当に優しい人たちだ。僕は幸せ者だとつくづく思った。
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