迷い猫物語

江須 オルト

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真宵荘のお姉さん

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僕はふと気がついた。
ここに住むようになって1週間が過ぎたのにリナさんとほとんど交流がないことに。
まぁお昼ご飯と晩ご飯の時にはご飯を食べに僕の部屋に来てくれるのだが、ほかの3人とは違って食べ終わると直ぐに自室に帰ってしまう。
同じ真宵荘に暮らす者として交流がないのはいかがなものかと思った僕はタマのおやつに焼いたカップケーキをおすそ分けという名目でリナさんの部屋へと向かった。

扉をノックするとリナさんが顔を出した。
リナさんは長めの髪を下ろしていて、黒のキャミソールに黒のホットパンツというなんとも艶かしい出で立ちだったので目のやり場に困った。
「どうしたの?あたしの部屋に来るだなんて珍しいわね」
「あの、これ。おやつにと思って作ったんですけど量が多くて、良かったら食べてください」
リナさんにラッピングしたカップケーキを渡す。
「あら、いいの?じゃあ遠慮なく貰うわ」
部屋に引っ込もうとするリナさんになにか話しかけようとするが何を言えばいいのかわからずに口ごもる。
「ほんと可愛いわね。うち、あがる?」
意地悪く笑ったリナさんがなぜ来たのか悟っていたらしく僕を部屋にあげてくれた。
よく考えたら女性の部屋に入るのは初めてである。意識しだすとなんだかドキドキしてきた。
「何そわそわしてるのよ。私の部屋、そんなに変?」
「え、あ、いや、女性の部屋に入るのは初めてだからつい…すみません」
「謝ることはないのよ。あ、そこに座って」
リナさんは紅茶を入れながら大きなクッションみたいなソファに座るように促した。
すこししてリナさんが僕に紅茶の入ったマグを手渡す。
「で、どうしたのかな?」
リナさんは意地悪そうに笑いながら僕が来た理由を聞いてくる。この人はどこまで見透かしているのだろうと分からなくなる。
「えっと、リナさんとあんまり話したことないなぁと思って」
僕は正直に言った。
「ふーん。リクトくんはお姉さんとお話がしたかったと」
リナさんはもっと意地悪そうな顔をしながら言い直してくる。
その通りだから否定はできないがその言い方はなんだか居心地が悪い。
「可愛いわね。食べちゃいたいくらい」
そう言いながらリナさんは舌なめずりをする。その動作ひとつひとつが艶かしい。
妖艶。リナさんを漢字二文字で表現するならこれが一番しっくりくる。
「リナさんってお仕事とかしてるんですか?」
無理やり話題をひねり出す。
「してるわよ。月曜と水曜と金曜はドレス着ておじさん達の話し相手になるの」
確かに月曜と水曜と金曜はリナさんだけ晩ご飯がはやかった。どうやらキャバ嬢らしい。 
「週三日でもそれなりに貰えるのよ」
まぁ夜のお仕事は給料もいいだろう。
「なんならリクトくんもうちの店きてみる?」
「謹んでお断り申し上げます…」
リナさんと話しているとなんだか疲れてきた。 
その後も少しくだらない雑談をした後、僕は夕飯の下ごしらえのために部屋を出た。
リナさんはあの意地悪そうな笑みを浮かべた時以外はいい人なのだけど、どこまで考えて話しているかがわからなくて疲れた。
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