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みんなにも平等なナイトメアを

第33話

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「そんなことはどうでもいいや。今のも、ちょっとした余興のようなものだし」
 サキになにかを教えようか迷っているのかキズナが意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「そのへんを散歩しようか」
「ワナですか?」
「純粋に君に興味があるだけだ。あの怪物もいなくなったようだし、ぼくに戦闘能力がないのはさっきのパンチで分かったはず」
 サキに信じてもらうためか、キズナは両手をひろげてバンザイをしていた。
「ぼくの能力を発動させるためには、指ぱっちんしないといけないのはすでに分かっているんだろう。これで安心してもらえたかい」
「まだ白い怪物の幻覚であなたがバンザイしているように見せられている可能性がありますよ」
「それは、ぼくの能力で君の能力を一時的につかえなくしてはじめて成立する方法だ。気にする必要はない」
「それが……ええ、分かりました。あなたの言葉をとりあえず信じることにします」
 深く考えすぎるのもダメだ。そもそも水掛け論でこの話に正解なんてでてこない。お姉ちゃんとハリヤマさんがいなくて……戦闘能力の低いわたしだけだからこそ目の前に現れたんだろうし。だったら、そのチャンスをいかさないと。
「こわい顔。心配しなくても、なーんにもする気はないよ」
「これは生まれつきなので」
「ハリヤマくんだったかな? 彼の前ではもう少しやわらかい表情をしていた気がするんだけどな」
 キズナに顔を見られないようにするためかサキが顔を逸らしている。
「君は分かりやすくて助かるね」
 軽く笑うとキズナは校舎のほうへと歩きだした。サキも彼の両手を注意しながら追いかけていく。
「目的は、なんなんですか」
「んー、とくにないな。少なくともぼくが面白いと思ったことを実行しているだけってところかな」
「ヒマつぶしですか」
「そんな感じ、邪悪な存在とかじゃなくてがっかりさせた?」
「いいえ。とりあえずわたしがむかついていることだけは確かですかね」
 キズナが教室のほうへとつづく曲がり角の近くにある階段をあがっていく。
 サキも階段をあがろうとしたが、なにかを感じたのか自分の教室のある方向に目を向けた。ガレキで道がふさがっているのが見えただけらしく、廊下にひろがる血は確認できなかったようだ。
「どうかしたのかい?」
 バンザイをしたままで踊り場から見下ろしているキズナがにやつく。
「なんでもありません」
 サキは首を横に振って、自分の教室のある方向になにかをつぶやいていた。



 三階に到着をするとキズナは立ち止まり踊り場を歩いているサキに視線をおとす。
「いいの? ぼくがバンザイをしているのかどうか確認しなくても」
「いいんです。どっちにしてもあなたが指ぱっちんをした時点でわたしに対抗できる手段はありませんからね」
 唯一の手段だったであろう指ぱっちんをする前に気絶させることもできなくなったんだから、どうしようもない。
「血縁者……いや、姉妹のテレパシーみたいなものかな。理解をしてくれたようだね」
「ま、そうですね。まだハリヤマさんが生きている可能性もありますがそれほど期待はできません」
「降参?」
「そもそも勝負をしていたつもりがないでしょう。あなたのほうは」
 サキが立ち止まりキズナの顔をにらんでいる。
「こわいこわい。だけど、今なら落ち着いて会話ができそうなのも事実か」
「会話?」
 今さら、わたしとなんの会話をしようと。
「そうだ。会話というより提案というほうが正しいかな。立ち話も辛いし、座っておしゃべりができるところへ移動しよう」
 キズナの姿が見えなくなったからかサキは早足で階段をあがっていく。
 追いつくのを待っていたのかサキが階段をあがりきったのを確認すると、キズナは教室が並んでいる廊下のほうに歩きだす。
 キズナは一番近くにある教室に入ると椅子を二脚もちだして、サキのところに戻ってきた。
「教室でもいいんだけどね。なかなかグロテスクだからここでお話をしようか」
 椅子を向かい合わせになるように配置してキズナが座った。サキもなんの警戒もせずに無造作に腰をおろしている。
「先に言っておくが。ま、信じてもらえないと思うけど……この話の最中にぼくは能力をつかわない。話が終わったあとにこの話自体をなかったことにはするかもしれないがね」
「一応は信じますよ。それこそ今のわたしに対して能力をつかうほどの脅威があると思えませんから」
「さっきのパンチ、かなり痛かったよ」
「お世辞をありがとうございます」
 サキがお辞儀をした。
「本題の前に。ぼくのスタンスというか考えかたを認識しといてもらおうかな」
「あなたにとってその出来事が面白いかどうかだけでは? つまらないこともしくはあなたにとっては不都合だった場合は能力でなかったことにしているようですし」
「大体それで合っているよ。もう少し具体的に説明すると。人間関係を観察するのが一番好きって感じだね」
 自分でも、完璧にそのあたりのことは認識できてないようでキズナがうなり声をあげている。
「あなたに聞きたいことがあるんですけど……いいですか」
「ああ。どうぞどうぞ。雑談というかぼくのことを信じてもらうために話しているだけだからさ」
 サキから話しかけてきてくれたのがうれしいのかキズナが楽しそうに笑う。
「そうですか。では遠慮なく、あなたはどうやってなかったことにする能力を手に入れたんですか」
「君たちと同じだよ。赤い石とか呼んでいたかな。ぼくは青白い石と呼んでいたけど、同じようなものだと思うよ」
「その青白い石は」
「ゆ……えっとね、さっき君が見た青い怪物がこなごなに壊してしまったよ」
 キズナが言い淀んだのを気にしているらしくサキは首を傾げた。
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