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41話 静かにさせて?
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「あの……ね? 助けてくれて、ホントにありがとう……」
──現在僕は、先生にどうしてもお礼がしたいと泣きつかれて、あのまま帰ることが出来ずに部屋に残っている。
あのあと、自分の足で立てるようになった先生は、「スーツだと仕事終わった気がしなくて疲れるから着替えてくるね。絶対ぜーったい覗かないでね? あ、絶対帰らないでね? 絶対だよ?」と、言いながらおそらく浴室であろう場所に入って行った。
そして数分後に扉の向こうから現れたその姿は、白いモコモコの部屋着姿の先生。下は生足丸出しホットパンツに、上はウサギの耳の付いたフードが付いたもの。
乙女か!
そしてその格好でソファーに座ると、足を少しパタつかせながら大きなぬいぐるみを抱いてふにゃ、と笑った。
乙女か!
すると今度は自分の隣をポンポンと叩いて僕に座るように促してくる。無視して床に座ろうとすると、泣きそうな顔になったからしょうがなく隣に座った。
なんだか調子狂うなぁ……。
で、先程のお礼を頭を下げながら僕に言ってきたんだけど、その時にフードに付いてるうさ耳もピョコンと動いた。
乙女か! ……は、もういいかな。
「そ、それでね? ずっと気になってたんだけど、さっきアイツが言ってた、その……赤坂くんが私の彼氏って、どういうことなの?」
変に誤解されるのも困るので、ぬいぐるみで顔を隠しながらそう聞いてくる先生に事の一端を掻い摘んで話した。さすがにあの三人のことははぐらかしてだけどね。
「そっか……そうだったんだ……」
自分が危ない状態にあったことを知ると、先生は少し震えながらぬいぐるみをより一層強く抱きしめた。
「はい。そういうことだったんです。まぁ先生にはお世話になってますからね。恩返しってやつですよ。それにしてもやっかいな元カレでしたね」
そう言った時だ。先生はいきなりソファーの上に四つん這いになると、僕の眼前まで迫ってきた。
ちょっ! 胸元開いてるんだから思いっきり見えてます! てゆーかノーブラじゃないですか。早く気付いてよ。見えちゃいけない所まで見えちゃいそうだよ。
っていう僕の願いも虚しく、先生はそのままの格好で口を開く。胸元も開く。全部見える。おぉ……。
「ちょっと待って赤坂くん!? 勘違いしてるでしょ!? あんな奴、元カレなんかじゃないよ! そ、それに私、今までカレシいたことなんてないんだから。だから処女なんだよ? こんなに好きになったのだって赤坂くんが初めてなんだもん……」
先生はそう言うと再び座り直してぬいぐるみを胸に抱いた。
おや? 元カレじゃない? ってことは僕の予想は外れてたのか。でもあの時の会話はいかにも元カレっぽい感じだったような? これはちょっと聞いてみようか。
「じゃああの男はなんだったんですか?」
「ただの大学の先輩なの。私は何も言ってないのに勝手に彼氏のフリして付きまとわれてたの。周りにも私のことを彼女って言いふらしたりしてね。あの人は卒業してからもよく大学に来たりしてて、今度はいきなりその当時借りてた部屋にまで来て、その……無理矢理シようとしたの。なんとか近くの物を投げたり叩いたりしてされる前に逃げたけどね。それでそのまま部屋に戻らないで引っ越してもう会うこともなかったのに……多分私がどこで働いてるかを誰かから聞いたのかな? この前は学校にまで来てね? ほんと怖かった……」
なるほど。ようするにタダのキングオブクズだったんだね。まぁ、これからは二度と会うことはないだろうけど。あの男の会社にもさっきの写真送ったし、念の為に母さんの知り合いのちょっと裏の人にも言っておいたからね。きっとこの街にはいられなくなるよ。それにしても結構ギリギリだったんだなぁ。あと少し気付くのが遅かったら先生はきっと……。
と、そんな事を考えていたら胸に小さな衝撃。
視線を下に移すと、そこでは先生が僕の胸に頭を預けていた。なんだかいい匂いがするなぁ。それとお腹辺りに柔らかい何かも当たってるし。
「先生? なにしてるんですか?」
「……怖かったから甘えてるの。ダメ?」
「ダメ──」
「そっかぁ……」
「──ではないですけど」
「っ! ん……ありがと。好きな人に触れてると安心するの」
「はぁ、そうですか。というかですね? 聞いても良いですか? 僕の事を好きって言ってますけど、なんでですか? まったく心当たりがないんですが」
そう。全然心当たりがない。担任と生徒っていう関係性しか無かったからね。
「……その歳で何言ってるんだ! って笑わないでね?」
「はい」
「実はね? 一目惚れなの。赤坂くんが私のクラスの生徒になって、初めてその姿を見た時からずっと。なにか理由があったとかじゃないんだけど、なんでかな? その瞬間から好きで好きで大好きで、頭が赤坂くんのことでいっぱいになったの」
一目惚れ……。それなら僕に心当たりが無いのもしょうがないね。
「それであのアプローチですか。あれは若干引きましたね。今も、「お礼は体でするから……」って言いながら襲われるんじゃないかとビクビクしてましたよ。なのにあまりにも今が普通なので、目の前にいるのは和野先生の偽物なんじゃないかと思ってます」
「そ、そんな事、今は恥ずかしくてできないよ。あと私は本物だもん。それに、あ、あれはその……ちょっと待ってて」
先生はそう言うと本棚からマンガ本を何冊か持ってきて、とあるページを僕に見せてきた。するとそこには今までに先生が僕にしてきたアプローチとまったく同じことをしているキャラクターが載っている。これって……
「えっと、まさか……?」
「う、うん。そのまさか……です」
先生は顔を真っ赤にすると、僕の胸に顔を付けて隠しながら頷いた。
「まさかマンガを参考にしてそのまましてくるとは……」
「い、言わないでぇ……。自分でもその後、頭がわーっ! ってなってたんだからぁ……。でもでも! 赤坂くんが全然反応しないからもっと頑張らないといけないと思って頑張ったんだもん! 写真だって、スカート捲るのだって恥ずかしかったけど頑張ったんだもん! 準備室でのは自分でもやりすぎたとは思ってるけど……でもでも、ちょっとえっちなの読んだあとだったから麻痺してただけなんだもん……」
「まぁ、逆効果でしたけどね」
「あぅぅ……」
それから暫く沈黙が続き、突然僕の胸から顔を離した先生がポツリと呟く。
「ねぇ、赤坂くんは……私のこと、好き? 嫌い?」
「…………嫌いではないですね」
「じゃあ私、まだ頑張ってもいい?」
「今までみたいなのはちょっと勘弁して欲しいですね。一応僕も思春期の男子なので」
「うん……わかってる。でも今日は……もう少し甘えてもいいかな?」
「しょうがないですね。明日は休みですし、週末大セールです」
「やった♪」
嬉しそうにそう言うと僕の背中に腕をまわして抱きついてくる先生。この人は本当に僕より歳上なんだろうか? 今の姿を見る限りだととてもそうは思えないや。
「ねぇ赤坂くん……」
やれやれ。今度はなんだろう。
「なんですか?」
「あのね? もっかいチュウして欲しいな~って……」
「調子にのらないでください」
「はい……。ごめんなさい」
まったく。付き合ってもいないのに何を考えてるんだろう。さっきのは僕の両手が塞がっていて、先生がうるさく騒いでいたから仕方なくしただけなのに。
「…………私、また大きい声だしちゃ──んんっ……んむ。ふぁぁ……。あ、赤坂……くん?」
「……静かにしないからですよ」
「あ……うん。静かに……させて?」
先生はそう言って目を閉じた。
──現在僕は、先生にどうしてもお礼がしたいと泣きつかれて、あのまま帰ることが出来ずに部屋に残っている。
あのあと、自分の足で立てるようになった先生は、「スーツだと仕事終わった気がしなくて疲れるから着替えてくるね。絶対ぜーったい覗かないでね? あ、絶対帰らないでね? 絶対だよ?」と、言いながらおそらく浴室であろう場所に入って行った。
そして数分後に扉の向こうから現れたその姿は、白いモコモコの部屋着姿の先生。下は生足丸出しホットパンツに、上はウサギの耳の付いたフードが付いたもの。
乙女か!
そしてその格好でソファーに座ると、足を少しパタつかせながら大きなぬいぐるみを抱いてふにゃ、と笑った。
乙女か!
すると今度は自分の隣をポンポンと叩いて僕に座るように促してくる。無視して床に座ろうとすると、泣きそうな顔になったからしょうがなく隣に座った。
なんだか調子狂うなぁ……。
で、先程のお礼を頭を下げながら僕に言ってきたんだけど、その時にフードに付いてるうさ耳もピョコンと動いた。
乙女か! ……は、もういいかな。
「そ、それでね? ずっと気になってたんだけど、さっきアイツが言ってた、その……赤坂くんが私の彼氏って、どういうことなの?」
変に誤解されるのも困るので、ぬいぐるみで顔を隠しながらそう聞いてくる先生に事の一端を掻い摘んで話した。さすがにあの三人のことははぐらかしてだけどね。
「そっか……そうだったんだ……」
自分が危ない状態にあったことを知ると、先生は少し震えながらぬいぐるみをより一層強く抱きしめた。
「はい。そういうことだったんです。まぁ先生にはお世話になってますからね。恩返しってやつですよ。それにしてもやっかいな元カレでしたね」
そう言った時だ。先生はいきなりソファーの上に四つん這いになると、僕の眼前まで迫ってきた。
ちょっ! 胸元開いてるんだから思いっきり見えてます! てゆーかノーブラじゃないですか。早く気付いてよ。見えちゃいけない所まで見えちゃいそうだよ。
っていう僕の願いも虚しく、先生はそのままの格好で口を開く。胸元も開く。全部見える。おぉ……。
「ちょっと待って赤坂くん!? 勘違いしてるでしょ!? あんな奴、元カレなんかじゃないよ! そ、それに私、今までカレシいたことなんてないんだから。だから処女なんだよ? こんなに好きになったのだって赤坂くんが初めてなんだもん……」
先生はそう言うと再び座り直してぬいぐるみを胸に抱いた。
おや? 元カレじゃない? ってことは僕の予想は外れてたのか。でもあの時の会話はいかにも元カレっぽい感じだったような? これはちょっと聞いてみようか。
「じゃああの男はなんだったんですか?」
「ただの大学の先輩なの。私は何も言ってないのに勝手に彼氏のフリして付きまとわれてたの。周りにも私のことを彼女って言いふらしたりしてね。あの人は卒業してからもよく大学に来たりしてて、今度はいきなりその当時借りてた部屋にまで来て、その……無理矢理シようとしたの。なんとか近くの物を投げたり叩いたりしてされる前に逃げたけどね。それでそのまま部屋に戻らないで引っ越してもう会うこともなかったのに……多分私がどこで働いてるかを誰かから聞いたのかな? この前は学校にまで来てね? ほんと怖かった……」
なるほど。ようするにタダのキングオブクズだったんだね。まぁ、これからは二度と会うことはないだろうけど。あの男の会社にもさっきの写真送ったし、念の為に母さんの知り合いのちょっと裏の人にも言っておいたからね。きっとこの街にはいられなくなるよ。それにしても結構ギリギリだったんだなぁ。あと少し気付くのが遅かったら先生はきっと……。
と、そんな事を考えていたら胸に小さな衝撃。
視線を下に移すと、そこでは先生が僕の胸に頭を預けていた。なんだかいい匂いがするなぁ。それとお腹辺りに柔らかい何かも当たってるし。
「先生? なにしてるんですか?」
「……怖かったから甘えてるの。ダメ?」
「ダメ──」
「そっかぁ……」
「──ではないですけど」
「っ! ん……ありがと。好きな人に触れてると安心するの」
「はぁ、そうですか。というかですね? 聞いても良いですか? 僕の事を好きって言ってますけど、なんでですか? まったく心当たりがないんですが」
そう。全然心当たりがない。担任と生徒っていう関係性しか無かったからね。
「……その歳で何言ってるんだ! って笑わないでね?」
「はい」
「実はね? 一目惚れなの。赤坂くんが私のクラスの生徒になって、初めてその姿を見た時からずっと。なにか理由があったとかじゃないんだけど、なんでかな? その瞬間から好きで好きで大好きで、頭が赤坂くんのことでいっぱいになったの」
一目惚れ……。それなら僕に心当たりが無いのもしょうがないね。
「それであのアプローチですか。あれは若干引きましたね。今も、「お礼は体でするから……」って言いながら襲われるんじゃないかとビクビクしてましたよ。なのにあまりにも今が普通なので、目の前にいるのは和野先生の偽物なんじゃないかと思ってます」
「そ、そんな事、今は恥ずかしくてできないよ。あと私は本物だもん。それに、あ、あれはその……ちょっと待ってて」
先生はそう言うと本棚からマンガ本を何冊か持ってきて、とあるページを僕に見せてきた。するとそこには今までに先生が僕にしてきたアプローチとまったく同じことをしているキャラクターが載っている。これって……
「えっと、まさか……?」
「う、うん。そのまさか……です」
先生は顔を真っ赤にすると、僕の胸に顔を付けて隠しながら頷いた。
「まさかマンガを参考にしてそのまましてくるとは……」
「い、言わないでぇ……。自分でもその後、頭がわーっ! ってなってたんだからぁ……。でもでも! 赤坂くんが全然反応しないからもっと頑張らないといけないと思って頑張ったんだもん! 写真だって、スカート捲るのだって恥ずかしかったけど頑張ったんだもん! 準備室でのは自分でもやりすぎたとは思ってるけど……でもでも、ちょっとえっちなの読んだあとだったから麻痺してただけなんだもん……」
「まぁ、逆効果でしたけどね」
「あぅぅ……」
それから暫く沈黙が続き、突然僕の胸から顔を離した先生がポツリと呟く。
「ねぇ、赤坂くんは……私のこと、好き? 嫌い?」
「…………嫌いではないですね」
「じゃあ私、まだ頑張ってもいい?」
「今までみたいなのはちょっと勘弁して欲しいですね。一応僕も思春期の男子なので」
「うん……わかってる。でも今日は……もう少し甘えてもいいかな?」
「しょうがないですね。明日は休みですし、週末大セールです」
「やった♪」
嬉しそうにそう言うと僕の背中に腕をまわして抱きついてくる先生。この人は本当に僕より歳上なんだろうか? 今の姿を見る限りだととてもそうは思えないや。
「ねぇ赤坂くん……」
やれやれ。今度はなんだろう。
「なんですか?」
「あのね? もっかいチュウして欲しいな~って……」
「調子にのらないでください」
「はい……。ごめんなさい」
まったく。付き合ってもいないのに何を考えてるんだろう。さっきのは僕の両手が塞がっていて、先生がうるさく騒いでいたから仕方なくしただけなのに。
「…………私、また大きい声だしちゃ──んんっ……んむ。ふぁぁ……。あ、赤坂……くん?」
「……静かにしないからですよ」
「あ……うん。静かに……させて?」
先生はそう言って目を閉じた。
応援ありがとうございます!
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