エルダーストリア-手垢まみれの魔勇譚―

秋山静夜

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第一譚:無垢純白の勇者譚

勇者と魔王

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 彼女は今まで自身の年齢や容姿について強く意識したことはない。けれど、周囲と比べて成長の遅い彼女は、今年で17歳になるが、どの街に行っても実際の年齢よりも幼く見られることが多かった。

 しかし今回はそれとは話が違う。なにしろ今の彼女はどこからどうみても10歳程度の子供でしかないからだ。

 彼女が幼い姿に変化した原因、果たしてそれは油断、だったのであろうか。
 それすらも曖昧に感じてしまうほどに、で起きたことは全てが常軌を逸していた。


 彼女は勇者と呼ばれるようになってから、魔物、魔族を問わず、全ての敵を滅ぼしてきた。

 ……全てを敵だと滅ぼしてきた。

 その結果として、滅亡に瀕した人間たちを救った。


 きっと、救ったのだろう。少なくとも彼女が旅する町々で見かける笑顔は以前よりも増えたように思えた。


 何かを成し遂げようなどと、烏滸おこがましいことを考える間もなく、とにかく彼女は無我夢中で自分にできることを重ねていった。

 ただそうやって走り抜けた結果、魔族に全てを征服されかけていた人類は、ハルモニア大陸中央ライン『大境界』まで人間の領域を取り戻すことができた。


 彼女は、今回のことも今までと同じように自分にできることをすれば問題なく解決すると思っていた。

 彼女に計算違いがあったとすれば、自らの力を過信したことか、それとも相手の力量を過少に評価したことか。

 いや、もっと早くに気付くべきだったのだ。

 彼女は、自分にできることしかやってこなかっただけだったということに。


 問題の城はハルジアの城下町を出てから半刻も歩かないくらいの場所に堂々とあった。

 城の周囲は魔素による黒い霧で覆われ、いくつものの尖塔が天に向かって突き立ち、禍々しい雰囲気を醸し出していた。

 城の扉は、彼女が想像していたよりも随分と簡単に開いた。

 賢王グシャの話だと、派遣された兵士たちは城に入ることすらできなかったとのことだが、城の持ち主は少女が単身で訪れたことで与しやすいとでも思ったのだろうか。

 いかめしい装飾を施された巨大な扉を彼女が押し開けた先は大広間となっており、イリアが少し歩を進めると遥か奥には立派な玉座が見えてきた。

 そしてその玉座には一人の男が座り、彼女を冷たい目で見下ろしていたのだ。

 いや、本当はまだ彼女と男の間には距離があり、表情は良く読み取れないはずである。しかし、いまだ遠くにいるその存在を目の前に感じるとれるほどに、そこには強大な「力」があった。

 この大広間の空間全てが、重く、濃密な魔素で満たされており、彼女と相手との間に絶望的な力の隔絶があることが否応なく理解できてしまう。
 



 誤解を恐れずに言い切ってしまうのなら、彼女は強い。

 少なくともその言葉を疑う余地がないほどの戦績・戦歴を残してきた。

 常勝無敗。普通の人々では決して太刀打ちすることのできない、魔素を纏う魔物や魔族に対して絶対的な強さを誇ってきた。

 それが彼らに対抗しうる聖剣を所持するものの努めであり、「勇者」として彼女がこの世界に生まれてきた意義だ。

 その果てに辿り着いた「レベル99」。

 人間に到達できるレベルの上限値、この上のない高みである。

 その誉れに傲ることはないにしても、ただ自身が他人よりも強いということは事実として彼女は受け入れていた…………この時までは。


「随分と久しぶりの客人だな。……なんだ、今回は女一人か?」

 重く低い声は広い空間で反響し、重圧となって彼女にのしかかる。

 男は高い玉座から立ち上がり、ゆっくりと彼女に向かって降りていった。

 まだ何も始まっていないというのに彼女の全身が軋むように震えている。

 彼にとってただの一挙手一投足が、魔物の攻撃よりもはるかに重たい一撃として彼女を襲う。

 男は漆黒の髪に切れ長の目、赤い瞳の端正な顔立ちをしていた。身長はかなり高い方だろう。スラリと伸びた手足はそれでいて力強く逞しい。
 見た目は二十代後半だが、寿命の尺度が人間とは違う魔族は外見からは年齢を測れない。
 鎧のようなものは装備しておらず、全身は黒を基調としたそのまま衣服でまとめられており、長いマントの裏地のみが赤く彩られているた。

「貴方が、この城の主ですね。」

 彼女は足を奮い立たせて男の威圧感に飲まれないように、精一杯の虚勢を張って質問する。

「ハルジアの王、グシャ・グロリアスからの勅令です。この土地の不当な占拠をやめて、今すぐここを立ち去ってください。」


「ハルジア? ああ、そこの隣の城の王か。女ひとりを伝令に寄越すとは随分と腑抜けたことをする。まったく、俺に言いたいことがあるのなら自分で直接言って欲しいものだがな。」

 大仰な仕草をして鼻で笑った後、

「では返答だ。断る。」
 強い断言とともに、突風のような衝撃が吹き抜ける。

「この土地はとても静かで気に入っていてな。出ていけと言われてもおいそれとは動かぬさ。だがまあ、貴様も子供の遣いではないのだろうし、口で言ってダメでしたと帰ることができないのも当然か。」

 男は、少し思案するような素振りをして、

「良いぞ、戯れを許す。挑んで来い、女。俺の力を上回ることができたのなら、潔くこの国から退いてやろう。」

 軽い冗談のように男は語る。冗談ではないほどの力を解放しながら。


「ご理解があり、感謝です。そちらがその気なら話は早いですね。」
 彼女は覚悟を決める。いや、覚悟ならとうの昔に済ませていた。困窮する人々のため、この大地の嘆きに応えるために、彼女は戦うと決めたのだから。

 これまでの戦いでもそうしてきたように、全身全霊をもって目の前の敵を打倒せんと、あらゆる恐怖を飲み込んで、一歩踏み出す。


 今さらのことではあるが、この男の強さは明らかに異常だった。それは直接剣を交えなくても理解できてしまうほどに。

 魔族や魔物といった生物は魔素骨子という強固な骨格を有している。この魔素骨子が存在するため、通常の武器による攻撃で彼らを傷つけることは非常に難しい。

 そしてこの魔素骨子は使用者の資質に応じてその様相と密度に違いが表れる。
 通常の魔物や魔族の一般的な兵士であれば、魔素骨子を張り巡らせているのは体内のみだが、貴族とも呼ばれる階位の高い魔族や上級の魔物は肉体の内部だけではなく、肉体の周囲にも魔素骨子を展開することが可能である。
 ここまで来ると、専用の武器をもってしても彼らを傷つけることは困難になる。

 しかし、この男はその上位の存在と比べてもなお規格外の怪物であった。

 彼の展開する魔素骨子は、この大広間の空間全体に立体的かつ高密度なクモの巣状に展開して張り巡らされている。

 縦横無尽に展開された魔素骨子の一本一本が攻性防御として機能しており、触れただけでも大きなダメージを負ってしまうほどの代物だ。

 これでは、普通は近づくことさえ許されないだろう。

 そう、普通であるのなら、

 一歩一歩、彼女は男へと距離を詰めていく。

 当世すぐに男の展開する魔素骨子に触れそうになる。

 けれど、それに気を取られることなく、さらに前へ、

 プツン

 極太の強靭なクモの糸のようにも見えた魔素骨子は、その実、絹糸よりも容易く彼女に触れると同時に切れていった。

「よし。」

 そう小声で呟いて、彼女は自らの性能が十全に発揮されていることを確認する。


「何?」

 自身の絶対の防御圏が機能することなくすり抜けられている。

 男がこの異常事態に虚を突かれたほんの僅かな隙を見て、彼女は全身を沈めるように踏み込んで、一瞬にして間合いを詰める。
 
 この時、彼女と男との間にも敷き詰められていたはずの魔素骨子も、ホロホロと糸屑のようにほつれていく。


 そして、彼女は踏み込んだ勢いを一切殺すことなく手にした銀晶の聖剣に力を込め、渾身の一撃を男に見舞った。



「──ふむ、わざわざ一人でここに寄越されるくらいだ。まさか我が骨子をこうも容易く突破するとはな。どうやらお前は今までの有象無象とは違うらしい。」

 彼女の一撃を右手に顕現した魔剣で受け止めて、男は平然と語る。
 自身の全力をこうもこともなげに抑えられしまい、流石に彼女のプライドも傷ついた。

 今までどんなに強い敵でさえ打ち払ってきた聖剣の一撃も、悔しいことにこの男にとっては児戯と変わらないらしい。

「ハァァァ!!」

「ふん。」

 二人の間で繰り返される剣戟。

 しかし、彼女が何度男に打ち込んだところで、あらゆる魔を打ち払う力を持った聖剣が男から生み出される圧倒的な魔素を前にに押し返されている。

 彼女にとっては理不尽極まりないことだが、今起きている現象は実に簡単である。

 どんなに完璧な性能を有していようと、その処理能力を超える事象の前では容易に破綻は訪れてしまうのは当然だ。

 仮に、聖剣の一撃が1000の魔素を消滅させる機能を有しているとするなら、この男はその瞬間に1万以上の魔素を生成しているのだ。


「ぜぇ、ぜぇ…」

 彼女の呼吸が荒くなる。

 たった十数合、剣を打ち合っただけで彼女は満身創痍だ。

 攻守は既に交代しており、男の強力な攻撃を彼女が受け止める立場となっている。
 本当に理不尽なことこの上ないが、相手の斬撃をいかに完璧に受け止めてみせても、その剣圧だけで彼女の肉体が切り刻まれていく。


「なんだ、この程度か」
 重く、低く、もう興味はなくなったとばかりに冷めた声が響く。


「どうするのイリア!? これ、かなりまずいわよ。」
 たった二人しかいないはずの空間に、第三者の女性の声が響き渡る。それも彼女の手元から。
 今までずっと大人しくしていた彼女の愛剣は、ここにきて急に騒ぎだした。

「これがピンチだってことは私にだってわかるよ! 何か名案があるのなら私が聞きたいくらい!」

 具体的な名案が返ってくることを期待したわけではなかったが、ジリ貧な状態となってしまっている苛立ちのあまり彼女は思わず聖剣に泣き言を言ってしまう。

「んー、名案ねー。あ、二人ともさっき初めて会ったばかりなんだし、ひとまず自己紹介でもしてみたら?」


「………期待はしてなかったけど、これならずっと黙っててくれた方がマシだったよ。」
 あまりな提案に彼女が落胆していると、


「なんだその剣は、喋るのか?」
 不意に激しい剣戟が止む。どうやら男は急に喋りだした聖剣に興味を持ったらしい。

「……そうだな、俺と戦いの形をとれているだけでも褒めるに値するか。聞いてやる。貴様は何者だ?」

 先ほどの聖剣の戯言が聞こえていたのだろうか。男の方から自己紹介のチャンスが来た。

 問いを放つだけで襲い来る重圧に、彼女は真正面から向き合って答える。

「私は勇者イリア! 未だ混沌に沈む世界を救い、いずれ魔王を打ち倒す者です。」

 挨拶とともに彼女、イリアは渾身の力を込めて男に聖剣を打ち込む。だが残念なことに、打ち込んだ彼女の腕が痺れる始末だ。


「ほう、貴様が勇者か。噂くらいなら耳にしたことはあるが、まさか本当に実在したとはな。ならばこちらも答えよう。俺はヴァーミリオンの魔王。良かったな勇者よ、貴様の宿願を叶えるチャンスだ。いずれと言わず、今ここで魔王を倒してみせるがいい!」

 イリアが予想していなかった答えが返ってくる。

 だって、魔王がこんなところにいるはずがない。
 ここは魔族の支配領域から一番離れた安寧の土地。最果てのハルジアと呼ばれる、人類最後の砦なのだから。


「え? なんで魔王がこんな所にいるんです?」
 イリアは驚き過ぎた結果、その口からは逆に冷静な突っ込みが出てきた。

「っ! 別に、……なんでもいいだろ。」
 イリアの突っ込みは魔王の触れてほしくない何かにヒットしたのか、さきほどまでの威厳のある声ではなく、ぶっきらぼうで投げやりな口調で返事がくる。


「ふ~ん、あんた魔王なんだ」
 『魔王』というワードに反応したのか、イリアの手元の聖剣からどこか薄ら寒い気配が流れ始める。

「ただ強いだけの上位魔族なら一度逃げてから出直してきてもよかったけど、相手が魔王なら話は別よ。いいイリア、魔王を全力で追いつめて隙を作って! あとのことは私がどうにかするから。」


「え、隙を作れってそんな無理だよ。さっきまで全力で戦って手も足もでないのに。」

 聖剣はさきほどまでのイリアの苦戦の様子を見ていなかったのだろうか。現状では隙を見つけるどころか戦闘を継続させることさえ難しい。

(でも、アミスアテナがそう言うなら何か手段があるのかも。今まで隠し事はあっても、嘘をつかれた覚えはないし。)

 そう思ってイリアは覚悟を決めた。

(ここで私が終わってもいい覚悟があるのなら、きっといける。たとえ一瞬だけであろうとも魔王の力を越えて見せる。)


 イリアは勇者に与えられた能力、保有する性質を、後のことなど一切考えずに惜しみなく解放した。


 勇者の力とはあらゆる魔を浄化し拒絶する力。
 地上に顕現した奇蹟、『無垢結晶』である聖剣の力と共鳴、相乗することで、魔素を内包する存在の悉くを駆逐する。


 しかし今の勇者の相手は無尽蔵と言えるほどの魔素を爆発的に生み出している魔王だ。先ほどまでの聖剣による攻撃は、魔素で構成された相手の防壁を掻き消すたびにそれ以上の魔素を瞬時に生成されて防がれていた。

 つまり今現在、魔王と勇者の優劣を決めているのは単純な「能力の出力差」である。


 だが、今この瞬間に限れば、

「何だ。随分とマシになってきたな。これならもう少し遊べるか?」

 お互いの剣戟は先ほどまでよりも、さらに激しく、打ち合う度に光が明滅するように魔素の消失と生成が繰り返される。

 勇者は今までに経験したことのないレベルで自身の能力をオーバーロードさせていた。
 その結果、魔王の絶大な魔素生成能力に拮抗し、……今はほんの僅かに上回っている。
 しかし、これはおそらくあと数分と持たないだろう。

「ハァァァァ!!!!」

 イリアの全身全霊の猛攻により、今まで分厚く魔王を覆っていた魔素の霧が晴れていく。

「なに!」
 魔素のベールを剥がされ、さすがにここにきて勇者に脅威を感じたのか、驚きの表情を見せる魔王。

(よし! だけど、ここで冷静になられたら、勝ち目はない。)

 残された時間もない勇者は魔王の驚愕を一瞬の隙と定めて、捨て身の覚悟で魔王の懐に飛び込み、持てる全ての力を使って魔王を聖剣で斬りつけた。



 しかし、

「思い切りの良さは見事。だがまだ若いな。」
 すでに余裕を取り戻していた魔王は、冷静に言葉を紡ぐ。

 確かに勇者の斬撃は魔王に届いた、だが届いただけだった。

 魔王は剣で捌かずに、聖剣を敢えてそのまま受けていた。しかし、聖剣は彼の身体を1ミリたりとも切り裂くことはなく、その衣服を僅かに傷つけたのみである。

 この時、彼は攻撃を受ける瞬間にコントロール下にある魔素を全て防御に回して勇者の剣筋に合わせて集中させていたのだ。
 当然聖剣は魔素を弾きいて肉体を守護する魔素骨子を切り裂こうとするが、先ほどまで空間全体を支配していた力を肉体と聖剣の接点のみに収束されては聖剣の処理能力が追い付かない。

 そして魔王は間髪入れずに手にした魔剣で隙だらけになった彼女の首を撥ねようとする。


 ─────だが、

わね。」

 聖剣アミスアテナの呟きと同時に勇者と聖剣の力が共鳴・増大していく。
 それと同時に魔王も身動きひとつとれなくなっていた。

「くっ、何だこれは。」

「ふふん。共振ってやつよ。この接触状態なら貴方の行動を封じられる。ま、こっちも動けないんだけどね。」
 聖剣は自信満々に語っている、が。
 
 それも結局は一時凌ぎに過ぎない。このままであれば、あと数十秒で勇者は力尽きてしまうだろう。


「これは何の真似だ。いくら時間稼ぎをしたところで、もうお前の底は見えている。小細工をいくら重ねようと、お前に俺の守りは超えられん。」

(悔しいけど、魔王の言う通りだ。どんなに彼の防御の外殻を削ったっても、彼の肉体の中にも魔素骨子が高密度で張り巡らされている。このままじゃ、魔王の防御を突破する前に、私の肉体が先に限界を迎えてしまう。)

 自身も身動きがとれない中で、勇者イリアは冷静に状況を分析し、
 
「でも、できることが残っている内は、私は私であることをやめられないから!」

 イリアは聖剣との共鳴に集中する。
 彼女の目の前は真っ白になり、眩暈も始まっている。

 だが、例え自滅が待っていようと命ある限りはそれを燃やし続けんと、彼女は力を放出し続ける。


「ふっ! この程度。」

 そして、この魔王は勇者の自滅を待つつもりもないらしい。
 共振状態によって自ら動くことはできないはずであるにも関わらず、魔王は既に振り上げていた剣を強引に剣を振り下ろそうとしてきた。


「内側からの力ではなく、操り人形みたいに外側から魔素を操作して身体を動かしてるのね。何て力技。」
 アミスアテナが声に出して説明する。

 それは勇者が既に相手のことすらよく見えず、状況判断をする余裕を失いつつあったからだ。

(この状態から動けるなんて、本当に相手を褒めるしかないな。どうやらほんの数秒の差だけれど、私の自滅よりも魔王の剣が私に届く方が早そう。)


「……けど、少し遅かったわね。」

 剣だから表情はないのに、聖剣が悪辣な笑みを浮かべたのが分かる声がする。

「あなたの守りの硬さは十分に理解できたわ。だけどさっきから私が狙っていたのはそのしつこい魔素骨子を破ることじゃない。骨子の修復に、聖剣わたしの共鳴への接触、さらにその強引な攻撃、今どれだけの魔素を消費してるか分かってる? 私の目的はあなたの魔素総量をできるだけ減らすこと。目算で最大値の4分の3ってとこだけど、これならギリギリいけるわ。」

 そう言って彼女は一層の輝きを強め、魔王に触れた聖剣から溢れる光が魔王と私を包み込み、


封魔の楔アミスアテナ!」
 自身の銘を冠する秘術を実行した。


「チッ、ふざけるな。何のつもりだ。」
 突如始まった未知の攻撃に苛立ちを隠せない魔王。


「はぁぁぁぁぁぁ!」
 私はただ相棒の言葉を信じて、残った力の全てをこの瞬間に注ぎ込む。
 溢れ出た光は際限なく拡大して魔城すらも包み込んだ後、再び聖剣を中心に収束していく。


 そんな最中、


「あ、言い忘れてた。これからものすごい苦労をするかもしれないけど、イリアごめんね。」

 信じた相棒からの、この上なく無責任な声が、聞こえた気がした。 

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