エルダーストリア-手垢まみれの魔勇譚―

秋山静夜

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第三譚:憎悪爆散の魔人譚

誰かのやさしさ

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「あ~あ、せっかく妖精の体に慣れたかと思ったら、また不便な身体に逆戻りじゃねえか。」

 アゼルは幼い子供の姿で悪態をつく。


「いーじゃないですかアゼル。私は今の姿の方が好きですよ。」
 対するイリアは非常にニコニコとしている。


「ハッ、イリアは少し身体が成長して嬉しそうだな。────まあ、一部分は大して変わってないが。」
 アゼルはイリアの胸部を見つめて言葉を漏らす。

「─────」
 イリアは笑顔で固まったまま一瞬でアゼルの背後をとった。


「あ、おいバカ止めろ。」


「いけないことを言っちゃう子にはお仕置きかな~。」
 イリアはお姉さん風を吹かせながらアゼルを後ろからムギュゥっと抱き締めた。


「やめろ恥ずかしい! それにイリアがくっつくと何かビリビリするんだよ。」


「まあ勇者の魔素を弾く能力も上がってるからね、魔素で構成された身体じゃ触れてるだけでダメージが入るわよ。……ホントはビリビリ程度じゃ済まないはずだけど、魔王の基礎値も上がってるから仕方ないか。今のとこ、どっちもレベル10って感じかな。」
 まだ封印が緩まったショックが抜けないのか、ややなげやりな感じでアミスアテナは解説する。
 

「あ、やっと少しレベル上がったんだ。って言ってもレベル10じゃあ前とんまり変わんないな。アミスアテナ、封印もう少し緩くならない?」


「何言ってんのよ。下手に緩めて魔王に逃げ出されたらどうするの。」


「大丈夫だよ。きっとアゼルは逃げないよ。だってこんなに可愛いんだもん。」


「可愛くないし逃げるに決まってるだろ。というか今すぐにでも逃げ出したいわ。」
 アゼルは先ほどから必死に逃げ出そうと試みているが、イリアの抱き締めロックが完全に決まっていて身動き一つとれない。

 と、そこに

「おうおう、随分騒がしい奴らがいると思ったらお前さんたちか。かなり格好が変わってるから分からなかったぞ。」

 小包を抱えたクロムが現れた。


「あ、クロムさん。昨日はお世話になりました。」


「おうよ。あの小僧はどこぞにでも行ったか?」


「え、…………」
 イリアはクロムが去った後の一件を思い出し、気まずそうに視線をそらす。


「……元気かどうかは知らんが、まあ生きてるんじゃないか? 心が強ければな。」


「? とりあえず生きてるみたいならまあいい。ああ、お前たちを探してたのは別の要件があったからだ。」


「はい? 何かありましたか?」


「ほれ勇者、これを受けとれ。」
 クロムはイリアに持っていた小包を渡す。


「え、これは…………!?」
 小包を開けてみると中には首飾りが入っていた。


「クロムさん、これは私が壊した物では──」


「よく見ろ、肝心の魔石が入ってたとこを。」

 促されてイリアが首飾りを手にとってみると、以前黒い宝石が埋め込まれていた箇所に白銀に輝く結晶が入っていた。


「クロムさん、これは?」


「それは聖刀を作る際に使う聖鉄を加工したもんだ。魔石ではないからお前さんが触れても砕けたりはしないぞ。」


「っ! ありがとうございます。でも、今私達にはお代が……」


「いいんだ。代金なら既に受け取ってる。ま、現物支給ではあったがな。あれだけ高純度な魔石は市場じゃなかなか出回らないから、おれにとってもいい取引だったさ。」


「? 一体誰がそんなことを、」


「別に教えてやってもいいが、────ああ、いや止めとこう。殺されちゃたまらん。」


「…………そんな、その方にお礼をしたいです。」
 イリアは胸元で首飾りを抱き締めて、決して壊れることのないそれを、強く抱き締めた。


「まあいずれ、その感謝が伝わる日も来るだろうさ。」

 クロムは、先ほどから黙り込んでそっぽを向いている幼い少年を見つめながらそう言った。


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