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第三譚:憎悪爆散の魔人譚
ハルジア城にて
しおりを挟む賢王グシャが帰ってきて数日後、ハルジア城の謁見の間にて、
そこで一人の痩せた男がハルジアの賢王グシャに謁見をしていた。
この場にはグシャの両隣に王の双剣、黒騎士アベリアと白騎士カイナスが控えるのみでそれ以外の臣下は人払いされている。
それもそうだろう、国の中枢の中枢たるこの場所に人間と敵対しているはずの魔族がいるなど、民衆がそれを知ってしまえば大混乱が起きることは確実だ。
「クヒヒ、いやはや。随分な長旅になってしまいましたが、ようやくここに辿り着きました。偉大なる賢王陛下、この度はワタシめの不手際の為にお手を煩わせてしまい大変申し訳ございませんでした。クケッ。」
痩せこけ、銀縁の丸眼鏡をかけた男、ジェロア・ホーキンスは慇懃無礼に賢王グシャに頭を下げる。
「貴様! 我らが王に対して何たる態度か!!」
白騎士カイナスがジェロアに対して一喝する。
「よいカイナス。それでジェロア、アニマカルマに築いた貴様の研究所は崩壊したが、このハルジアでも研究の継続は可能か?」
「ヒヒ、それは設備さえ整えてくだされば今日からでも再開可能ですが。何せワタシの研究はひとつひとつが今の世を革新するモノばかり。専用の施設を用意するだけで何年かかるやら……」
やや小バカにしたような態度でジェロアは嘆息する。
「貴様! 魔族風情が、それ以上王を愚弄する態度を取るようならこの場で斬り捨てるぞ。」
今度は黒騎士アベリアが我慢ならずに聖剣の柄に手をかける。
「お前たち、何度も言わせるな。しばし静かにしているがいい。」
それを、賢王グシャは静かな言葉のみで制する。
さらに言葉を続け、
「設備があれば今日からでも可能か、それは良いことを聞いた。それではジェロアよ、早速本日から研究を再開してもらうぞ。」
さも何でもないことのようにグシャは言う。
「クヒ? 何ですと? 一体どこに研究所があるのですかな? 間に合わせの掘っ立て小屋で研究をしたところで失敗するのが関の山ですが。」
「安心しろ、既にココに用意してある。細かい箇所はお前の研究課題に合わせて調整する必要あるが、それにも半日とかかるまい。」
グシャが指さしたのは謁見の間の真下であった。
「ヒヒ、まさか地下に研究所を作ったとでも? そんなもの一体いつから。」
「王よ! それは本当ですか!? 一体いつそのような物を。」
これにはアベリアとカイナスも驚きを隠せないでいる。
「騒ぐなと言ったはずだが、まあいい。 何、20年も前から動いていれば大抵のモノは用意できるだろうさ。実際にお前の研究がどう仕上がるかは最近にならねば見えなかったので、本当の意味で完成したのはほんの数日前だが。」
「───────────────」
グシャ以外の全ての者は言葉を失っている。
しかし、それに構うことなく賢王は言葉を続けた。
「それではジェロアよ、早速研究に手を着けてもらうぞ。何しろ猶予はさほどないのだからな。半年、それまでに全ての研究を実用化にこぎつけねばならん。」
「!? 何を言っているのだ人間の王よ!! 半年だと!? ワタシの研究はひとつひとつが実用化までに5年はかかろうというモノばかりだ。それを半年!? キサマは狂っているのか。」
「ふふ、狂ってなどいるものか。逆だジェロアよ、貴様の研究は半年以内に完成させなければ何の意味も持たないのだ。まあ貴様一人では確かに完成までに時間を要することは見えている。だが私も手を貸そう、それで現実的に実現可能な範囲となる。」
賢王グシャは深く透き通る蒼い瞳を一切揺るがせず、ジェロアに告げる。
「………………」
ジェロアはその揺るぎのない決定に、たじろぐしかできないでいる。
「ジェロアよ、我らの果たすべき課題は3つだ。疑似魔法武器の汎用化、魔素と武具の親和性の向上、そして最後の一つは─────────。」
「!? 王よ、いくら何でもそれは不可能では。」
賢王の3つ目の課題を聞き、アベリアとカイナスが口を出す。
再三にわたって黙っていることを要求された二人がなお言葉を挟んでしまうほど、グシャの発言は規格外のものであったからだ。
「クヒ、クヒッ、クヒヒヒヒヒヒヒィイイ。狂っている。狂っている。やはり貴方は狂っている!!! 最高だ!! よしやろう、今すぐにだ。さあワタシを研究所に連れていけ。アハハハ、ワタシはこちらに来て良かった! 我らが魔王、あの愚王の下では一生こんな興奮は味わえなかっただろう。キャハ、キャハ、キャハハアハハハ!!!!!!」
ジェロア・ホーキンスは狂ったように嗤い続ける。
本来静寂であるはずの謁見の間において狂乱の科学者の笑いが響き渡るのを、ハルジアの賢王、グシャ・グロリアスは冷めた瞳で眺めていた。
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