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目立ちたがりやに効く薬毒3
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「良かったね。薬、手に入って」
と陽菜乃が真木の機嫌を取るように言った。
薬毒店の帰りにハ二人はハンバーガーショップで向かい合っていた。
それぞれにジュースやらハンバーガーやらをトレイに乗せている。
陽菜乃は安心したのかぱくぱくと食べているが、真木はじっと何かを考え込んでいる様子で薬包を手にじっとそれを眺めていた。
「飲まないの?」
「飲むさ」
と真木が言った。
「でももう少し遊んでからだな」
「え? どういう事?」
ぽかんとする陽菜乃に真木は、
「考えてみろよ。これを飲むだけでどんな事も帳消しになるんだぜ? あんないたずら一つだけの拡散された俺の情報を消去とかあり得ないだろう? もっとデカい事がやれて、それが消せるんだぜ?」
「そ、そんな、何をするの?」
「何をしようかなぁ」
真木は嬉しそうな顔で薬包を握りしめた。
「ハナちゃん」
「ん?」
台所で夕食の支度をしていたハナは足下から聞こえる声に顔を向けた。
「あ、骸。どうしたの?」
骸は老婆の姿のハナを見て、「はー」とため息をついた。
「やっぱり夜はばーさんなんだな? 昼間はあんなに別嬪なのによ」
ハナはあははと笑って、
「しょうがないよ。寿命なんじゃない? だんだん、この姿の方が長くなるよ」
と言った。
「何か用事で来たの? 壱さんは?」
「壱の旦那は里へお出かけさ。旦那が戻るまでここでやっかいになろうとね」
「ああ、そう。ドゥが喜ぶよ。あたしもさ……」
ハナが言葉を切ったので、骸はハナを見上げた。
「何だい?」
「身体が利くうちに一度里へ戻って、長に礼を言っておかないとね。この身体もいつ駄目になるか分からないし」
「まだでぇじょうぶだろ?」
「半鬼なんかに会って喜ぶのもいないと思うけど、長には世話になったしね。壱さんとかにも会っておきたいと思ってた。今日、骸に会えたのはよかったよ」
骸はぴょんと椅子の上に飛び乗って、ばりばると毛をかいた。
「ハナちゃんの寿命を伸ばせる薬毒はまだ出来ないのかい? その為にハヤテの旦那は薬毒師になってまで人間世界にいるんだろう?」
ハナはあはははと笑った。
「もういいって、十分、想像以上に長生きしたさ。ハヤテもいつまでも遊んでないで里に戻って、サクラお嬢さんに次代の鬼の子をいっぱい産んでもらわなきゃさ」
「そいつはぁ」
と言って骸は言葉を飲み込んだ。
骸の相棒の鬼の壱がいつか言っていた言葉を思い出す。
「ハナは元人間だ。すぐに死ぬよ。心臓を頻繁に入れ替え、ハヤテの角と血で半鬼にはなったけど、鬼の血で人間の身体がそうそうもつはずがないからね。そもそも鬼の血は人間には猛毒だ。死んだ赤子が生き返って半鬼になったのさえ、不思議なんだよ」
骸の知っている限り、ハヤテより強い鬼はいない。
当然、次の鬼の里を統治する者になる。
そして鬼族を絶やさない為に雌鬼に子を産ませるなければならない。
その為に選ばれたのが雌鬼の中でも最強で美しいサクラ。
鬼達は美しいサクラを崇拝したが、ハヤテだけは彼女に見向きもしなかった。
二百年前から死にかけの人間の子を育てるのに夢中だった。
赤子の時は背中に背負い、どこへ行くにも連れて歩き、やがて薬毒の事を教えて薬毒師にした。
古来より、鬼達は人間に薬毒を売るのを生業としていた。
魔の者の中でも知性の高い鬼族は他の妖のように闇に紛れて人間や他の妖を喰らう本能だけの生き様を軽蔑した。
雌鬼は里で鬼の子を産み増やすのが使命だが、半鬼のハナでは己の命と引き替えにもならならず、だが何百年か生きていく為にはやはり鬼も働かねばならない。
子を産む母鬼にはなれないハナを薬毒師にしたのはハヤテで、二人はずっと一緒に日本中を旅しながら商売をしていた。
だがハナの寿命もそろそろ尽きる。
「ハナちゃん、もう少しあがいてみねぇか」
と骸が言った。
「あがく?」
ハナは鍋をかき混ぜながら骸に問い返した。
「だってよぉ。死んじまうなんて寂しすぎんだろ」
「しょうがないじゃん。こればっかりは」
「寿命を伸ばす薬毒は見つからねえのか?」
「そんなもんないよ」
とハナが笑った。
「身体がもたないんだから」
「そうかねぇ、その身体をもうちっとこう……強くする薬毒があればなぁ」
と骸がため息とともに言った。
「心配してくれてありがと」
とハナは言った。
と陽菜乃が真木の機嫌を取るように言った。
薬毒店の帰りにハ二人はハンバーガーショップで向かい合っていた。
それぞれにジュースやらハンバーガーやらをトレイに乗せている。
陽菜乃は安心したのかぱくぱくと食べているが、真木はじっと何かを考え込んでいる様子で薬包を手にじっとそれを眺めていた。
「飲まないの?」
「飲むさ」
と真木が言った。
「でももう少し遊んでからだな」
「え? どういう事?」
ぽかんとする陽菜乃に真木は、
「考えてみろよ。これを飲むだけでどんな事も帳消しになるんだぜ? あんないたずら一つだけの拡散された俺の情報を消去とかあり得ないだろう? もっとデカい事がやれて、それが消せるんだぜ?」
「そ、そんな、何をするの?」
「何をしようかなぁ」
真木は嬉しそうな顔で薬包を握りしめた。
「ハナちゃん」
「ん?」
台所で夕食の支度をしていたハナは足下から聞こえる声に顔を向けた。
「あ、骸。どうしたの?」
骸は老婆の姿のハナを見て、「はー」とため息をついた。
「やっぱり夜はばーさんなんだな? 昼間はあんなに別嬪なのによ」
ハナはあははと笑って、
「しょうがないよ。寿命なんじゃない? だんだん、この姿の方が長くなるよ」
と言った。
「何か用事で来たの? 壱さんは?」
「壱の旦那は里へお出かけさ。旦那が戻るまでここでやっかいになろうとね」
「ああ、そう。ドゥが喜ぶよ。あたしもさ……」
ハナが言葉を切ったので、骸はハナを見上げた。
「何だい?」
「身体が利くうちに一度里へ戻って、長に礼を言っておかないとね。この身体もいつ駄目になるか分からないし」
「まだでぇじょうぶだろ?」
「半鬼なんかに会って喜ぶのもいないと思うけど、長には世話になったしね。壱さんとかにも会っておきたいと思ってた。今日、骸に会えたのはよかったよ」
骸はぴょんと椅子の上に飛び乗って、ばりばると毛をかいた。
「ハナちゃんの寿命を伸ばせる薬毒はまだ出来ないのかい? その為にハヤテの旦那は薬毒師になってまで人間世界にいるんだろう?」
ハナはあはははと笑った。
「もういいって、十分、想像以上に長生きしたさ。ハヤテもいつまでも遊んでないで里に戻って、サクラお嬢さんに次代の鬼の子をいっぱい産んでもらわなきゃさ」
「そいつはぁ」
と言って骸は言葉を飲み込んだ。
骸の相棒の鬼の壱がいつか言っていた言葉を思い出す。
「ハナは元人間だ。すぐに死ぬよ。心臓を頻繁に入れ替え、ハヤテの角と血で半鬼にはなったけど、鬼の血で人間の身体がそうそうもつはずがないからね。そもそも鬼の血は人間には猛毒だ。死んだ赤子が生き返って半鬼になったのさえ、不思議なんだよ」
骸の知っている限り、ハヤテより強い鬼はいない。
当然、次の鬼の里を統治する者になる。
そして鬼族を絶やさない為に雌鬼に子を産ませるなければならない。
その為に選ばれたのが雌鬼の中でも最強で美しいサクラ。
鬼達は美しいサクラを崇拝したが、ハヤテだけは彼女に見向きもしなかった。
二百年前から死にかけの人間の子を育てるのに夢中だった。
赤子の時は背中に背負い、どこへ行くにも連れて歩き、やがて薬毒の事を教えて薬毒師にした。
古来より、鬼達は人間に薬毒を売るのを生業としていた。
魔の者の中でも知性の高い鬼族は他の妖のように闇に紛れて人間や他の妖を喰らう本能だけの生き様を軽蔑した。
雌鬼は里で鬼の子を産み増やすのが使命だが、半鬼のハナでは己の命と引き替えにもならならず、だが何百年か生きていく為にはやはり鬼も働かねばならない。
子を産む母鬼にはなれないハナを薬毒師にしたのはハヤテで、二人はずっと一緒に日本中を旅しながら商売をしていた。
だがハナの寿命もそろそろ尽きる。
「ハナちゃん、もう少しあがいてみねぇか」
と骸が言った。
「あがく?」
ハナは鍋をかき混ぜながら骸に問い返した。
「だってよぉ。死んじまうなんて寂しすぎんだろ」
「しょうがないじゃん。こればっかりは」
「寿命を伸ばす薬毒は見つからねえのか?」
「そんなもんないよ」
とハナが笑った。
「身体がもたないんだから」
「そうかねぇ、その身体をもうちっとこう……強くする薬毒があればなぁ」
と骸がため息とともに言った。
「心配してくれてありがと」
とハナは言った。
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