ヤクドクシ

猫又

文字の大きさ
52 / 59

鬼喰いバクテリアを殺す鬼2

しおりを挟む
「何ですって!」
 店先の座椅子に座り、のんびりと煎餅をかじっていたモネがいきなり立ち上がった。
 その後ろで肩もみをさせられていた骸とアイスティを運んできたドゥがその声にビクッとなって飛び上がった。
「ドゥ! 骸! ムドウが来るわ! ハナを殺しに! しかもムドウは鬼喰いバクテリアに感染してるかもしれないって!」」
「ええ?!」
「そんな!」
「早くハナをどこかに隠した方がいいって。ハヤテさんもすぐに駆けつけるだろうけど」
 次の瞬間、どうん、と家が揺れた。
 モネもドゥも骸も、咄嗟に何かにつかまらなければならないほどの衝撃だった。
「まさか!」
 バラバラと家の壁が崩れる音がした。
 モネは急いで店先からハナ眠っている部屋に走り込んだ。
「ハナ!……ムドウ……」
「よう、モネじゃねえか」
「何しに来たの? ここはハヤテさんが営んでる薬毒店よ。もうすぐハヤテさんが戻ってくる。こんなに散らかして、ハヤテさんは酷く怒るわよ」

 モネは天井を見上げた。
 空から急降下で下りてきたムドウは屋根も天井も突き破っていた。
 破れた天井の穴から顔が出そうなほど巨大な塊、醜悪で邪悪な鬼だった。
 とてもモネと眷属二匹で対抗できる相手ではなく、ひたすらハヤテが戻るのを祈るしかなかった。
「うるせえ、ハヤテがなんだ。ええ? ハヤテになんぞ用はねえ。こいつを始末しに来ただけだ!」
 ムドウの手刀がベッドで横たわっているハナの胸に突き刺さるその瞬間、ドゥと骸が素早くハナの身体を抱き上げて避けた。
 ムドウの手刀はハナのベッドすら突き抜け床に刺さった。
 ムドウが勢いよく手を引き抜いた衝撃で床が壊れ抜けた。
 ドゥと骸はハナを抱いたまま、抜けた床下に落ち込んだ。
「ムドウ! 止めなさいよ! もうすぐハヤテさんと壱が来るわよ! あんた、鬼喰いバクテリアに感染してるらしいじゃないの!」
「はあ?」 
 床下に落ち込んだハナと彼女を抱き締める眷属二匹に狙いを定めていたムドウはモネの方へ意識を移した。
「何だと? 鬼喰い?」
「その様子じゃ知らなかったみたいね。あんた、ハナを殺すって条件でサクラと交尾したんでしょ。サクラはガンキから鬼喰いを移されてるのよ」
「なんだと!!!」
「当のガンキはもう消滅して、ハヤテさんが始末したらしいわ。サクラも症状が出たそうよ。あんたも絶対感染してるはず」
 ムドウはしばらく動かなかった。
 鬼にとって鬼喰いバクテリアは絶対に関わってはいけない感染病だった。
 感染は死。
 死は消滅。
「くっそーーーーーー!!! サクラのやろう! 鬼喰いだと! ふざけやがって! こうなったら……てめえらもだ。俺だけ消滅してなるもんか! お前らも!」
 ムドウの太く強い腕がモネの方へ伸ばされた。
 モネは避けようとしたが狭い家の中ではどちらへ避けても長く太いムドウの手につかまる。
「はっ!!」
 空中からにゅうっと大きな刃物が出てきて、ムドウの首をさくっと切った。
 胴体から切り離されたムドウの首はころんころんと床下まで転り、骸の目の間で止まった。
「げ、げええ」
 目の目に恐ろしい形相の鬼の頭が転がってきて、骸は目を背けた。
 がっと開いたムドウの目は恐ろしく骸を睨みつけた。
 頭部が離れた身体は均衡を失って二、三歩、うろうろとしたが、力任せに腕を振り回し辺りの壁などを叩き壊した。
 ムドウの振り回した腕がモネの身体を吹き飛ばし折れた柱に突き刺さりそうになった瞬間、空間からハヤテの腕が出てきて、モネの身体を受け止めた。
「ハヤテさん!」
 とほっとしたようなモネの声がしたので、ドゥと骸は全身の力が抜けた。
 二人で抱き締めているハナは目を閉じたまま動かない。
 少女のまま老婆になってしまい、その鼓動も打っていない時間の方が長い。

「ハヤテ~~!!」
 ムドウの頭部が低い声で唸った。
 空間から現れたハヤテはすぐにムドウの頭部を拾い上げた。
「ムドウ、お前の身体はタロウさんが今後の為に研究するらしい、切り刻むのはタロウさんに任せる」
 とハヤテは静かな声でそう言った。
 そしてうろうろとしているムドウの身体をとんっと突いた。
 軽く突いたようだがムドウの身体は吹っ飛び、そして部屋の真ん中の空間で消えた。

「ハ、ハヤテ!!」
 と身体が消えたムドウが声を上げた瞬間、その首は炎に包まれた。
「ギャー」
 とムドウが悲鳴を上げた。
「頭部は有効に使ってやるよ、俺が」
 ハヤテは炎に包まれているムドウの頭部を持ち上げた。
 先程ムドウが屋根を突き破って突っ込んで来たせいで、部屋の中は壊滅状態だった。
 ハヤテは先程モネが突き刺さりそうになった折れた柱の尖った先にムドウの頭を突き刺した。
「ギャー」
「そこで待ってろ」
 頭部を包む炎は酷く痛く苦しく、ムドウの顔を焼き崩していく。
 ムドウは呻いたり泣いたりしたがどうにも動けない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

隣人意識調査の結果について

三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」 隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。 一部、確認の必要な点がございます。 今後も引き続き、調査をお願いいたします。 伊佐鷺裏市役所 防犯推進課 ※ ・モキュメンタリー調を意識しています。  書体や口調が話によって異なる場合があります。 ・この話は、別サイトでも公開しています。 ※ 【更新について】 既に完結済みのお話を、 ・投稿初日は5話 ・翌日から一週間毎日1話 ・その後は二日に一回1話 の更新予定で進めていきます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...