7 / 27
朝食
しおりを挟む
部屋中に売れそうな物を引っ張りだし並べ、持って行くものは荷造りし、明日の朝一番に出入りの商人を呼んで換金する。
荷造りも、引っ張り出したドレスを部屋中に広げるのも、商人を呼ぶのも侍女のナナがやってくれて、自分はさっきペンを持ちたった数文字書いただけなんだけど、それだけで目一杯、もの凄く頭を使った気がする。さっきまでに死亡エンド回避するぞ! みたいな気持ちもすでに薄れてきている。
私には前世の記憶があって生きていく知恵はそこらの貴族のお嬢様よりはあるかもしれないけど、前世からものぐさでなるべく働きたくないでござる、だった。なるべく頑張って逃げたい気持ちはるけど、四回目ともなるとどうせ死んじゃうんでしょ的な気持ちもなくはない。
はっきり言って私はものぐさだ。
出来るだけ動きたくないから貴族の令嬢はうってつけだった。
もちろん、皇太子妃候補の為、厳しい王妃教育なるものを受けて勉強はしてきた。
私、勉強は嫌いじゃないし、言われたままに学ぶのはむしろ楽だった。
勉強さえしていれば送迎から着替え、湯浴み、食事の支度、全部やってくれてたからな。
歌も楽器も刺繍も嫌いじゃなく、やっていれば褒められるのだからほんと楽。
まあ王妃にまではなりたくなかったから、婚約破棄は全然いいんだけど。
机に向かって数文字書いて固まっている私にナナが、
「エアリス様、もうおやすみになられては?」
と言った。
「そうね、荷造りもしたし後は金目の物がいくらで売れるかよね。その後、どうしようかしらね」
ここで悶々と考えていてもしょうがないのは分かっている。
これまでの死因は盗賊に襲われたとか、人間関係のもつれで殺されたとか、死霊王の穢れに巻き込まれて死んだ、とかだから、私が今更それに対抗できる手段を持てるわけもなく、どうしたもんか……。
翌朝、私を起こしにきたは母親の手に握られた一通の書簡。
王妃であるエリザベス様から朝食を共にする為、朝一番で登城せよとの通達だった。
母親は青い顔で、父親はふてくされたような顔をしている。
私の処分が決まったのだろうな。
まあいつも通りの追放でしょうけど。
私はすぐさま飛び起きて、登城用のドレスに着替えた。
ナナには商人への対応を任せて、馬車に飛び乗った。
王宮へ到着し、王妃様へ拝謁を願うと、待ってましたとばかりによりによって王妃様が朝食を摂る間へと案内された。
そんでもって国王もいるし。
「エアリス・ゴールディ、ただいま参りました」
ドレスの裾をつまみ、丁寧に頭を下げる。
角度はもちろん、滞空時間、そしてなにより上品に、極上のカーテいついかなるいついかなる時でも完璧に行わなければならない。何度やってもどこからみても同じように。
これだけでも令嬢の品が上がり下がりするのだ。
「面をあげよ、エアリス、朝早くからご苦労」
と国王が言った。
「一緒に朝食をどうぞ」
と王妃様が言い、私は国王の食事を司る執事さんに椅子を勧められ、腰を下ろした。
皇太子妃候補だもん、そりゃ、一緒に食事もしたことあるよ。
目一杯仮面を被って、味なんか分からない。
毎回、上品に美しく食べるっていう競技に参加しているみたい。
「エアリス、昨夜の交流会ではアレクサンダーが信じられぬ振る舞いをしたそうだな」
「殿下は私との婚約を破棄すると仰いました」
「何てこと」
と言ったのは王妃様で綺麗な眉をひそめた。
「伯爵家の令嬢と遊び歩いているのは聞いていたけれど、それも学園内での事と思っておりましたわ。まさかその娘と婚約したいなどと言うのではないでしょうね」
王妃のエリザベス様はとても美しい方だ。白い肌とブラウンの豊かな髪の毛、そして赤い瞳、四大公爵家の中でも筆頭のゲオドラ家から嫁がれた方で、それはもう凄まじい権力と財力、人脈を持った方だ。
そして何よりアレクサンダー皇太子を溺愛しているので、今、目の前で怒ったような顔をしているのはきっと演技だろう。
私の手前、一応建前で怒っているようだけど、まあ、多分、許すだろうな。
それであのルミカ嬢と結婚させるだろう、と私はふんでいる。
皇太子妃候補は公、侯爵家から選ばれるのが常で、伯爵家では話にならないのだけど、ルミカ嬢をどこかの侯爵家へ養子に出すという手もある。
何てことを考えていたら、
「伯爵家の娘では王妃になる資格はありませんわ」
とエリザベス様が言った。
「エアリス、そなたとアレクサンダーが婚約を交わしたのはまだ八歳かそこらだな? それからそなたは実に立派に王妃教育を学んできた、その姿勢、我らにも届いておるぞ。アレクサンダーの言い分は通らぬぞ」
「恐れながら申し上げますが、国の平和、発展は最もですが、この後の国を率いていく殿下のお幸せが一番ではと。ですからお二人の幸せを」
「なんとそれではお前は婚約破棄を受け入れると言うの?」
王妃様が扇で口元を隠しながら言った。
「殿下の決定には従います」
ふふ、決まったな。国為に我が身を引いて、陰ながら殿下の幸せを……なんて健気な、ふふ。
荷造りも、引っ張り出したドレスを部屋中に広げるのも、商人を呼ぶのも侍女のナナがやってくれて、自分はさっきペンを持ちたった数文字書いただけなんだけど、それだけで目一杯、もの凄く頭を使った気がする。さっきまでに死亡エンド回避するぞ! みたいな気持ちもすでに薄れてきている。
私には前世の記憶があって生きていく知恵はそこらの貴族のお嬢様よりはあるかもしれないけど、前世からものぐさでなるべく働きたくないでござる、だった。なるべく頑張って逃げたい気持ちはるけど、四回目ともなるとどうせ死んじゃうんでしょ的な気持ちもなくはない。
はっきり言って私はものぐさだ。
出来るだけ動きたくないから貴族の令嬢はうってつけだった。
もちろん、皇太子妃候補の為、厳しい王妃教育なるものを受けて勉強はしてきた。
私、勉強は嫌いじゃないし、言われたままに学ぶのはむしろ楽だった。
勉強さえしていれば送迎から着替え、湯浴み、食事の支度、全部やってくれてたからな。
歌も楽器も刺繍も嫌いじゃなく、やっていれば褒められるのだからほんと楽。
まあ王妃にまではなりたくなかったから、婚約破棄は全然いいんだけど。
机に向かって数文字書いて固まっている私にナナが、
「エアリス様、もうおやすみになられては?」
と言った。
「そうね、荷造りもしたし後は金目の物がいくらで売れるかよね。その後、どうしようかしらね」
ここで悶々と考えていてもしょうがないのは分かっている。
これまでの死因は盗賊に襲われたとか、人間関係のもつれで殺されたとか、死霊王の穢れに巻き込まれて死んだ、とかだから、私が今更それに対抗できる手段を持てるわけもなく、どうしたもんか……。
翌朝、私を起こしにきたは母親の手に握られた一通の書簡。
王妃であるエリザベス様から朝食を共にする為、朝一番で登城せよとの通達だった。
母親は青い顔で、父親はふてくされたような顔をしている。
私の処分が決まったのだろうな。
まあいつも通りの追放でしょうけど。
私はすぐさま飛び起きて、登城用のドレスに着替えた。
ナナには商人への対応を任せて、馬車に飛び乗った。
王宮へ到着し、王妃様へ拝謁を願うと、待ってましたとばかりによりによって王妃様が朝食を摂る間へと案内された。
そんでもって国王もいるし。
「エアリス・ゴールディ、ただいま参りました」
ドレスの裾をつまみ、丁寧に頭を下げる。
角度はもちろん、滞空時間、そしてなにより上品に、極上のカーテいついかなるいついかなる時でも完璧に行わなければならない。何度やってもどこからみても同じように。
これだけでも令嬢の品が上がり下がりするのだ。
「面をあげよ、エアリス、朝早くからご苦労」
と国王が言った。
「一緒に朝食をどうぞ」
と王妃様が言い、私は国王の食事を司る執事さんに椅子を勧められ、腰を下ろした。
皇太子妃候補だもん、そりゃ、一緒に食事もしたことあるよ。
目一杯仮面を被って、味なんか分からない。
毎回、上品に美しく食べるっていう競技に参加しているみたい。
「エアリス、昨夜の交流会ではアレクサンダーが信じられぬ振る舞いをしたそうだな」
「殿下は私との婚約を破棄すると仰いました」
「何てこと」
と言ったのは王妃様で綺麗な眉をひそめた。
「伯爵家の令嬢と遊び歩いているのは聞いていたけれど、それも学園内での事と思っておりましたわ。まさかその娘と婚約したいなどと言うのではないでしょうね」
王妃のエリザベス様はとても美しい方だ。白い肌とブラウンの豊かな髪の毛、そして赤い瞳、四大公爵家の中でも筆頭のゲオドラ家から嫁がれた方で、それはもう凄まじい権力と財力、人脈を持った方だ。
そして何よりアレクサンダー皇太子を溺愛しているので、今、目の前で怒ったような顔をしているのはきっと演技だろう。
私の手前、一応建前で怒っているようだけど、まあ、多分、許すだろうな。
それであのルミカ嬢と結婚させるだろう、と私はふんでいる。
皇太子妃候補は公、侯爵家から選ばれるのが常で、伯爵家では話にならないのだけど、ルミカ嬢をどこかの侯爵家へ養子に出すという手もある。
何てことを考えていたら、
「伯爵家の娘では王妃になる資格はありませんわ」
とエリザベス様が言った。
「エアリス、そなたとアレクサンダーが婚約を交わしたのはまだ八歳かそこらだな? それからそなたは実に立派に王妃教育を学んできた、その姿勢、我らにも届いておるぞ。アレクサンダーの言い分は通らぬぞ」
「恐れながら申し上げますが、国の平和、発展は最もですが、この後の国を率いていく殿下のお幸せが一番ではと。ですからお二人の幸せを」
「なんとそれではお前は婚約破棄を受け入れると言うの?」
王妃様が扇で口元を隠しながら言った。
「殿下の決定には従います」
ふふ、決まったな。国為に我が身を引いて、陰ながら殿下の幸せを……なんて健気な、ふふ。
1
あなたにおすすめの小説
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
婚約破棄された伯爵令嬢は隣国の将軍に求婚され、前世の記憶を取り戻す
nacat
恋愛
婚約者である王太子に身に覚えのない罪を着せられ、婚約破棄された伯爵令嬢エリシア。
廷臣たちの嘲笑の中、隣国の若き将軍ライナルトが現れ、「ならば、俺が君を妻にしよう」と求婚する。
彼はただの救い手ではなかった。エリシアの“前世の記憶”と深く結びついた存在だったのだ——。
かつてすべてを失った令嬢が、今世では誰より強く、愛され、そしてざまぁを下す。
溺愛と逆転の物語、ここに開幕。
地味令嬢、婚約破棄されたので隣国で拾われました~冷酷王太子様の溺愛が激しすぎて困ります~
sika
恋愛
社交界では目立たない“地味令嬢”として笑われてきたエリス。婚約者である公爵家の跡取りに裏切られ、婚約破棄された夜、彼女はすべてを捨てて隣国へと渡る。
行き倒れた彼女を拾ったのは、冷酷無比と恐れられる隣国の第一王太子・レオン。
「俺のそばにいろ。もう誰にも傷つけさせない」
愛を信じられなかった彼女が次第に心を開く時、元婚約者たちは地に落ちる――。
ざまぁと溺愛が織りなす、甘く痛快な再生ロマンス!
婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした
鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました
幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。
心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。
しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。
そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた!
周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――?
「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」
これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、私の”役目”に気づいたのは冷酷公爵だけでした
ria_alphapolis
恋愛
悪役令嬢と呼ばれ、
王太子から公衆の面前で婚約破棄された令嬢――
彼女は、何も語らぬまま王都を去った。
誰も知らない。
彼女が国を守るため、
あえて嫌われ役を演じ続けていたことを。
すべてを失ったはずの彼女の前に現れたのは、
冷酷無比と噂される公爵。
彼だけが、彼女の行動に違和感を覚え、
やがて“役目”の真実にたどり着く。
これは、
国のために悪役を演じた令嬢が、
役目を終え、
一人の女性として愛されるまでの物語。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
契約婚のはずが、腹黒王太子様に溺愛されているようです
星月りあ
恋愛
「契約結婚しませんか? 愛を求めたりいたしませんので」
そう告げられた王太子は面白そうに笑った。
目が覚めると公爵令嬢リリカ・エバルディに転生していた主人公。ファンタジー好きの彼女は喜んだが、この国には一つ大きな問題があった。それは紅茶しかないということ。日本茶好きの彼女からしたら大問題である。
そんな中、王宮で日本茶に似た茶葉を育てているらしいとの情報を得る。そして、リリカは美味しいお茶を求め、王太子に契約結婚を申し出た。王太子はこれまで数多くの婚約を断ってきたため女性嫌いとも言われる人物。
そう、これはそのためだけのただの契約結婚だった。
それなのに
「君は面白いね」「僕から逃げられるとでも?」
なぜか興味をもたれて、いつしか溺愛ムードに突入していく……。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる