氷の令嬢、国で一番の美姫とか言われてるけど、ただの怠け者の転生者です、婚約破棄? OKっす。

猫又

文字の大きさ
10 / 27

ウエールズ領

しおりを挟む
「失礼な話ですわね。あなたに婚約破棄なんてふざけたことをしておいて、やっぱり結婚して子を産めなんて」
 と言ったのはリリアン様だ。
 私は静養するという名目でウエールズ領を訪れていた。
 
 あの朝食の後、ウエールズ侯爵と会見した国王様が話をして下さったようで、早速その日のうちにウエールズ侯爵からの使いが我が家に来た。
 リリアン様直筆でどうぞ領地で静養に来て欲しいとの手紙を頂いたので、私は終えていた荷物を持ち、商人に換金してもらった全財産を持ち、ナナを連れてウエールズ領へやってきたのだった。
 もし、後から追放などの触れが来たとしても、すぐに行動出来るように二度と我が公爵家へ戻らなくてもいいような準備をして、さらにウエールズ侯爵様なら上手に隣国へ逃がしてくれそうな気もするし。
 ふふふ、完璧ね。
 と思いながらやってきたウエールズ領は素晴らしい土地だった。
 国の北方に位置し、春、夏の季節は短い。だから毛皮をとるための放牧業が盛んで、ウエールズ邸に到着するまでに緑の草原にたくさんのビッグホーンがいるのが見えた。
 野生のビッグホーンは大きくて危険だけど、家畜化されたビッグホーンは大人しく、毛皮が大量にとれて、肉も美味しいと聞いている。
 街から街への街道も綺麗に整備され、代替わりされてからウエールズ侯爵が領内改革に力を入れていると聞いていたので、なるほどなぁと感心するばかりだ。
 到着したウエールズ侯爵邸は王宮に劣らないほど美しく豪華で、侯爵様そのもののような気高い屋敷だった。
 
「そんなの断るの一択でしょう?」
 とリリアン様が言った。
「そうですね。私としましては……お断りしたいのですが……そうなるとエリザベス様のお怒りが我が家に……まだ幼い弟妹もおりますし」
「あなたがあの、クソを……おほほほ、皇太子を愛してるってんならそれでもいいわ。側室を持つって事も王族ならあるでしょうよ。あなたがそれでいいならいいわ。跡継ぎが必要なんですもの。でも、気の進まないあなたに無理強いするのは反対よ! ルミカを教育して王妃にすりゃあいいし、側室でもいいから王家に入りたい健康で子をたくさん産めそうな娘を探せばいいんだわ」
「エアリス嬢は素晴らしく優秀で、王妃教育も完璧だと言われているからな。王室としても離したくないのだろう。国一番の美姫でもある。王妃としての気品、頭脳、必要な物は完璧に揃っている」
 リリアン様にぴったりと寄り添って座っているガイラス様が言った。
「私など……」
「それに……これはまあ、噂なんだが」
「何ですの?」
 とリリアン様が食いついた。
「第二皇子のゼキアス様を知っているか?」
 とガイラス様が言い、リリアン様は残念そうに首を振った。 
「存じてますわ。たまに王室図書館でご一緒します。物静かな方ですが、とても頭の良い方ですわ。アレクサンダー様がご卒業された魔法学院でつぎの会長職におなりになって、学院の成績も優秀で魔法適性も抜群だとか」
「そうだ。ゼキアス様はまだ十六歳だが、その優れた頭脳と真面目な気質を推す第二皇子派閥があり、次期国王をゼキアス様にと望む声もある」
「そうなんですの? じゃあ、そのゼキアス様は皇太子よりは頼りになる感じですの?」
 リリアン様の問いに、
「私の口からはどうとも言えんな。ただゼキアス様のご生母は側室のリネア様で生まれの地位が低い。いくらゼキアス様の派閥が推しても、次期云々は無理だろうが……」
「でも皇太子がアレでしょう?」
 とリリアン様が言って、ガイラス様が噴き出した。
「リリアン、そういう事は思うだけにしておきなさい」

 そんな話をしながらお茶や菓子をいただいていると、イケメンの銀縁眼鏡の執事がやってきて、うやうやしく主人に来客を告げた。
「ゼキアス殿下がお見えになりました」

 ガイラス様はおやっという顔をし、リリアン様は金髪碧眼で超美少女なのに、うっひょ~~~面白くなってきたぜ! みたいな顔をして、私はどうか国外追放を言いつかってきたのでありますように、と思った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄だ」と叫ぶ殿下、国の実務は私ですが大丈夫ですか?〜私は冷徹宰相補佐と幸せになります〜

万里戸千波
恋愛
公爵令嬢リリエンは卒業パーティーの最中、突然婚約者のジェラルド王子から婚約破棄を申し渡された

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

助かったのはこちらですわ!~正妻の座を奪われた悪役?令嬢の鮮やかなる逆襲

水無月 星璃
恋愛
【悪役?令嬢シリーズ3作目】 エルディア帝国から、隣国・ヴァロワール王国のブランシェール辺境伯家に嫁いできたイザベラ。 夫、テオドール・ド・ブランシェールとの結婚式を終え、「さあ、妻として頑張りますわよ!」──と意気込んだのも束の間、またまたトラブル発生!? 今度は皇国の皇女がテオドールに嫁いでくることに!? 正妻から側妻への降格危機にも動じず、イザベラは静かにほくそ笑む。 1作目『お礼を言うのはこちらですわ!~婚約者も財産も、すべてを奪われた悪役?令嬢の華麗なる反撃』 2作目『謝罪するのはこちらですわ!~すべてを奪ってしまった悪役?令嬢の優雅なる防衛』 も、よろしくお願いいたしますわ!

元ヒロインの娘は隣国の叔母に助けを求める

mios
恋愛
両親のせいで、冷遇されて育った男爵令嬢モニカ。母の侍女から、「物語ではこういう時、隣国の叔母を頼ったりしますよ」と言われて、付き合いの全くない隣国の叔母に手紙を書いたのだが。 頼んだ方と頼まれた方の認識のズレが不幸な出来事を生み出して行く。

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」 「婚約破棄…ですか」 「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」 「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」 「はぁ…」 なんと返したら良いのか。 私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。 そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。 理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。 もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。 それを律儀に信じてしまったというわけだ。 金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

処理中です...