氷の令嬢、国で一番の美姫とか言われてるけど、ただの怠け者の転生者です、婚約破棄? OKっす。

猫又

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提案 (リリアン視点)

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 「申し訳ございませんが、エアリス様はおやすみになられておりますので」
 とメイド頭の年配の女が言った。
 この私、リリアン・ウエールズ侯爵夫人に向かって。
 そして申し訳なさそうな顔もしない。

「あら、そうなの?」
 エアリス嬢と連絡が取れず、病に伏せっていると聞き見舞いに訪れたのけど、先に文書で知らせておいたにも関わらず、エアリスには会えないらしい。
 本人が病気なら仕方ないが、それにしても玄関口で追い返すってさ。
 いくら公爵家でも家長なり、夫人なりが出てきて体裁を整えるのが筋ってもんでしょうに。

「リリちゃん、屋敷のどこかで黒い瘴気を感じる」
 と私の肩にちょこんと止まっている赤い蜘蛛のアラクネが囁いた。
「黒い瘴気?」
「そうだ。この感じからして呪いっぽいね」
 とアラクネが言った。
 私は肩の上のアラクネを見た。
 そわそわしている。アラクネのような魔獣には黒い瘴気は嗜好品なのかもしれない。

「アラクネ、あなたはここに残ってエアリスの様子を探ってもらえる?」
 私が魔術師であるという事をエアリス嬢の耳に入れた為に彼女を危険に巻き込んでしまった。まさか、自分が囮になってしまうなんて。
「おっけー」
 アラクネはぴょーんと私の肩から飛んで、風に乗って屋敷の中へ泳ぐように進んだ。
 私は出迎えたメイドに、
「エアリス様のお加減が良くなりましたらお知らせ下さい」
 と告げてからゴールディ公爵の屋敷から退散した。


 自分の屋敷に戻ればゼキアス第二殿下が来ていて、落ち着かない様子だった。
「リリアン! エアリスの様子はどうだった?」
 私は手袋を脱いでからソファに腰をかけた。
「サラ、お茶を頂戴」
「かしこまりました、リリアン様」

 サラが優雅な手つきで入れてくれた茶を飲み、
「エアリス様にはお会いできませんでしたわ」
 と言うと、ゼキアス殿下ががっくりと肩を落とした。
「そうか」
「ゼキアス様、ゴールディ公爵家から婚約を破棄したい旨が届いたそうですわね」
「そうだ」
「普通は王族に対して家臣の立場からの婚約破棄なんて到底ありえませんわね。お家を取り潰しにしたいのかしら」
「国王や皇后の耳には入れていない」
「そうですか」
「どうすればいい? エアリスを一人で行かせてしまった私のミスだ」
「そうですわね。まったく馬鹿な事を! 魔術が使えるなんて嘘をついて、危険だと思わなかったんですか! そしてエアリス様はあなたを信頼して相談したというのに、肝心のあなたは当日、駆けつけられなかったなんて!」
「すまない……皇后に呼ばれ、皇后の近衛兵に囲まれて強引に連れて行かれたのだ。手練れの騎士が何人もいてとても抜け出せなかった。彼らは皇后の命令しか聞かない」
「まあ、そうですわよね。近衛兵は主人の命を守らなくては存在意味ないですもんね」
 ゼキアス殿下は頭を抱え込んだ。

「ゼキアス様、アレクサンダー皇太子様はすでに次期国王になる資格はございませんわ」
 と私がそう言うと、ゼキアス殿下ははっと顔をあげて私を見た。
「それは!」
「あなた、しっかり腹をくくる時ですわよ? アレクサンダー様が国王になり、エアリス様を正妃に、ルミカ嬢を側室に……いくらエアリス様が政務に励まれても、国王があれでは国は衰退するばかり。後で慌てても遅うございますわよ?」
「どうすれば……?」
 ふるふる震える子犬の様な目で見られても……

「私の眷属を今、ゴールディ家へ忍ばせておりますわ」
「そ、それは?」
「人道的かどうかを論じるつもりはありませんわ。そこで一つ提案がございますの」
「提案?」
「ええ、私の案は皇太子殿下とエリアノ伯爵家を潰しますわ。そうなれば次期国王はあなた、でも、あなたが国王になった時に、私の力については干渉しない事。それが条件ですわ」                                                                          
「あなたの力……やはり、父王が懸念していた通り、あなたは魔術師でさらに聖女のお力をお持ちだという事ですか?」
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