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山賊ガイツ
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ゴードレン地方最大の盗賊組織、黒い疾風の首領は山間の小さな自然に沸いた温泉で疲れを癒すのが日課となっていた。堅く大きな筋肉に包まれた巨大な身体。太く逞しい四肢。二百人もの盗賊達を束ねる首領として充分すぎるほどの存在感。
たちの悪い奴らをまるで軍隊のように操る彼、名をガイツ・ウエルダーという。
黒髪に黒い双眸、薄い唇がガイツをいかにも冷酷で残虐な男に見せる。
寂しい山間を都から都へと走る貴族達の取り澄ました馬車を襲い、略奪する。その名の通りに真っ黒い疾風が音もなく忍び寄り去って行くのである。
ゴードレン地方は盗賊達の宝庫である。三つの都市を縦横に走る黒い街道は元の名をセレウ街道と言ったが、貿易盛んなこの街道に名を上げようと様々な盗賊達がうろついている。しかし、ガイツが率いる黒い疾風が名乗りを上げるやいなや、その見事な手腕をもってガイツの名をとどろかせ、黒い街道と呼ばれるようになってしまったのである。
ガイツは黒い街道のあちらこちらに隠れ家を持っていたが、自然の温泉のわき出るニルルの谷をことのほか気に入っていた。
ガイツは一人で温泉につかるのが好きだった。彼はめったに一人の時間を持つ事ができなかった。いつでも彼を守る部下達や、ガイツの目にとまろうとする者、彼の寵愛を受けようとする女達に囲まれていたからだ。
彼がようやく一人になれるのは夕暮れに温泉に入るわずかな時間だけだったのである。
その日もガイツは煩わしい日常から逃れて一人で温泉につかっていた。
時折、野猿がやってきてはじっと目をつむって彼の隣に静かにしているのをガイツは苦笑しながら眺めていた。
「ん?」
ふと水音がしたような気がして、ガイツはじっと耳をすました。
この温泉は丸く広いが、真ん中に大きな岩があり、ガイツはそれにもたれてかかっていた。
音はどうも岩の向こうから聞こえてくるようだ。
ガイツはそっと岩陰から覗いた。
(て、天使だ……)
たちの悪い奴らをまるで軍隊のように操る彼、名をガイツ・ウエルダーという。
黒髪に黒い双眸、薄い唇がガイツをいかにも冷酷で残虐な男に見せる。
寂しい山間を都から都へと走る貴族達の取り澄ました馬車を襲い、略奪する。その名の通りに真っ黒い疾風が音もなく忍び寄り去って行くのである。
ゴードレン地方は盗賊達の宝庫である。三つの都市を縦横に走る黒い街道は元の名をセレウ街道と言ったが、貿易盛んなこの街道に名を上げようと様々な盗賊達がうろついている。しかし、ガイツが率いる黒い疾風が名乗りを上げるやいなや、その見事な手腕をもってガイツの名をとどろかせ、黒い街道と呼ばれるようになってしまったのである。
ガイツは黒い街道のあちらこちらに隠れ家を持っていたが、自然の温泉のわき出るニルルの谷をことのほか気に入っていた。
ガイツは一人で温泉につかるのが好きだった。彼はめったに一人の時間を持つ事ができなかった。いつでも彼を守る部下達や、ガイツの目にとまろうとする者、彼の寵愛を受けようとする女達に囲まれていたからだ。
彼がようやく一人になれるのは夕暮れに温泉に入るわずかな時間だけだったのである。
その日もガイツは煩わしい日常から逃れて一人で温泉につかっていた。
時折、野猿がやってきてはじっと目をつむって彼の隣に静かにしているのをガイツは苦笑しながら眺めていた。
「ん?」
ふと水音がしたような気がして、ガイツはじっと耳をすました。
この温泉は丸く広いが、真ん中に大きな岩があり、ガイツはそれにもたれてかかっていた。
音はどうも岩の向こうから聞こえてくるようだ。
ガイツはそっと岩陰から覗いた。
(て、天使だ……)
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