わけあり乙女と純情山賊

猫又

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覚悟

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 そして、ぽつりと言った。
「ガイツ……あたしが死んだら悲しい?」
「え?」
「あたしが死んだら誰か泣いてくれるかしら?」
「お前、死ぬ気か?」
「そんなつもりはないけど……刺し違えて生き残れる相手じゃないもの。でも、そんな事はどうでもいいの。ただ、あたしが死んだら誰か悲しんでくれるかしらと思ってさ。誰かあたしを覚えていてくれるかなと思ってね」
「キングゴードンの所へ一人で乗り込むつもりか?」
「ええ」
「それなら、俺達も力を……」
「いいえ! それは駄目。そういうつもりで来たんじゃないもの。今更、ガイツに助けてもらおうなんて考えちゃいないわ」
「どうしてだ? 何故いつも一人でやろうとする? 俺はそんなに頼りにならないか? 俺は惚れた女一人助けてやれないような男か?」
「そうじゃないわ」
「だったら」
「だけど、これはあたしの戦いだもの。あなた達に迷惑をかけられないわ」
「迷惑なんかじゃない」
「いいえ! もし仲間に何かあったらどうするの? あたしの戦いに巻き込んで、誰かがケガをしたり死んだらどうするの? あたしは申し訳なくて一生悔やむわ。それなら、あたしが一人で死んだ方がましよ」
「リリカ!」
「そうでしょ? ガイツの気持ちだけもらっておくわ。ありがとう。それに、もう手はずはつけてあるのよ、後はあたしの気持ちだけなの」
 そう言ってリリカはうつむいた。
「お前……奴の女になったな?」
「え?」
 リリカが顔を上げた。泣き出しそうな顔だった。
「そうなんだな? 奴に色で近づいたな?」
「……まだよ。まだ、そこまでしたわけじゃない。でも、じらせばじらすほどにあのいやらしい男はあたしに夢中よ」
 ガイツは拳を握りしめた。
「二人っきりになるチャンスは一度だけ。その時が勝負だわ」
「どうして、そこまで……そうまでしなけりゃならないのか!」
 ガイツは立ち上がって、腹立たしそうに壁をどんっとたたいた。
「分からないわ。でも、ここまできたからには最後までやるわ。ただちょっと心が決まらなかっただけ。そしたら、ガイツの顔が見たくなって、飛び出してきちゃったの。ねえ、ガイツ、どうしてかしら。あたしは奴をぶっ殺すと決心をして、村を飛び出したわ。ようやくそのチャンスをつかんだ。なのに、何を迷ってるんだろう? 死ぬのが怖いのかしら。両親を殺されたのに、怖いのかしら。あたしの決心はそんなに弱っちいものだったのかしら? あたしが死んだら誰かが悲しんでくれるかしら? あたしはひとりぽっちで死ぬのが怖いんだわ。汚らしく泥にまみれて死んでもいいわ。でも誰にもあたしが死ぬ事を知られずに死ぬのが嫌なんだわ……だから、ごめんね。あんたにとっては迷惑だろうけど、その役をあんたに押し付けに来たのよ」
 ガイツはゆっくりと、リリカに振り返ると、
「全く、迷惑な話だ。そんな役はごめんだな」
 と言った。
 リリカはそう落胆もせずに、
「そうね。その通りね。誰だって嫌よね。ごめん」
 と言って笑った。

 しばらくの間、ガイツとリリカは黙ったままでいた。
 やがて、リリカがガイツの顔を見上げて、
「ガイツ、あたしを抱いてくれないかな?」
 と言った。
「な、何を……」
 ガイツは真っ赤になって動揺した。
「こうみえても生娘なんだよね。初めてくらいは、好きな男に抱かれたいじゃない?」
 リリカは立ちあがって、自分の衣服のひもをとき始めた。
「リリカ!」
 衣服を全て脱ぎ、真っ裸になったリリカは身体中に傷をおっていたが、相変わらずに白い肌をしておりとても美しかった。
「迷惑だろうけどさー、女に恥をかかすと山賊ガイツの名がすたるよお」
 リリカは笑って、ガイツに飛びついた。
「リリカ……いいのか?」
「うん」
 ガイツはリリカの華奢な身体を強く抱きしめ、その可愛い唇にキスをした。
 そして、二人はもつれあってふかふかとしたベッドに倒れ込んだ。
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