24 / 30
覚悟
しおりを挟むそして、ぽつりと言った。
「ガイツ……あたしが死んだら悲しい?」
「え?」
「あたしが死んだら誰か泣いてくれるかしら?」
「お前、死ぬ気か?」
「そんなつもりはないけど……刺し違えて生き残れる相手じゃないもの。でも、そんな事はどうでもいいの。ただ、あたしが死んだら誰か悲しんでくれるかしらと思ってさ。誰かあたしを覚えていてくれるかなと思ってね」
「キングゴードンの所へ一人で乗り込むつもりか?」
「ええ」
「それなら、俺達も力を……」
「いいえ! それは駄目。そういうつもりで来たんじゃないもの。今更、ガイツに助けてもらおうなんて考えちゃいないわ」
「どうしてだ? 何故いつも一人でやろうとする? 俺はそんなに頼りにならないか? 俺は惚れた女一人助けてやれないような男か?」
「そうじゃないわ」
「だったら」
「だけど、これはあたしの戦いだもの。あなた達に迷惑をかけられないわ」
「迷惑なんかじゃない」
「いいえ! もし仲間に何かあったらどうするの? あたしの戦いに巻き込んで、誰かがケガをしたり死んだらどうするの? あたしは申し訳なくて一生悔やむわ。それなら、あたしが一人で死んだ方がましよ」
「リリカ!」
「そうでしょ? ガイツの気持ちだけもらっておくわ。ありがとう。それに、もう手はずはつけてあるのよ、後はあたしの気持ちだけなの」
そう言ってリリカはうつむいた。
「お前……奴の女になったな?」
「え?」
リリカが顔を上げた。泣き出しそうな顔だった。
「そうなんだな? 奴に色で近づいたな?」
「……まだよ。まだ、そこまでしたわけじゃない。でも、じらせばじらすほどにあのいやらしい男はあたしに夢中よ」
ガイツは拳を握りしめた。
「二人っきりになるチャンスは一度だけ。その時が勝負だわ」
「どうして、そこまで……そうまでしなけりゃならないのか!」
ガイツは立ち上がって、腹立たしそうに壁をどんっとたたいた。
「分からないわ。でも、ここまできたからには最後までやるわ。ただちょっと心が決まらなかっただけ。そしたら、ガイツの顔が見たくなって、飛び出してきちゃったの。ねえ、ガイツ、どうしてかしら。あたしは奴をぶっ殺すと決心をして、村を飛び出したわ。ようやくそのチャンスをつかんだ。なのに、何を迷ってるんだろう? 死ぬのが怖いのかしら。両親を殺されたのに、怖いのかしら。あたしの決心はそんなに弱っちいものだったのかしら? あたしが死んだら誰かが悲しんでくれるかしら? あたしはひとりぽっちで死ぬのが怖いんだわ。汚らしく泥にまみれて死んでもいいわ。でも誰にもあたしが死ぬ事を知られずに死ぬのが嫌なんだわ……だから、ごめんね。あんたにとっては迷惑だろうけど、その役をあんたに押し付けに来たのよ」
ガイツはゆっくりと、リリカに振り返ると、
「全く、迷惑な話だ。そんな役はごめんだな」
と言った。
リリカはそう落胆もせずに、
「そうね。その通りね。誰だって嫌よね。ごめん」
と言って笑った。
しばらくの間、ガイツとリリカは黙ったままでいた。
やがて、リリカがガイツの顔を見上げて、
「ガイツ、あたしを抱いてくれないかな?」
と言った。
「な、何を……」
ガイツは真っ赤になって動揺した。
「こうみえても生娘なんだよね。初めてくらいは、好きな男に抱かれたいじゃない?」
リリカは立ちあがって、自分の衣服のひもをとき始めた。
「リリカ!」
衣服を全て脱ぎ、真っ裸になったリリカは身体中に傷をおっていたが、相変わらずに白い肌をしておりとても美しかった。
「迷惑だろうけどさー、女に恥をかかすと山賊ガイツの名がすたるよお」
リリカは笑って、ガイツに飛びついた。
「リリカ……いいのか?」
「うん」
ガイツはリリカの華奢な身体を強く抱きしめ、その可愛い唇にキスをした。
そして、二人はもつれあってふかふかとしたベッドに倒れ込んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
110
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる