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リリアン・ローズデール

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 その時、ドアが開いて雪に塗れた侯爵が入って来た。
「あんたぁ!」
 とエルダが言い、侯爵に飛びついた。
 魔剣を持っていたが、非常に焦った顔で、
「村長! アイスベアーがもう一匹出た! こちらへ向かっている! すぐに村人を避難させろ!」
 と怒鳴った。そして私を見て、
「もう一度力を貸して欲しい」
 と言った。
「私の願いを聞いてはくれないのに、力だけはあてになさるのね。あなたはこの村の村人でダンって方なんでしょう。村の事は村で解決なさればいいわ」
 そう言って、私は侯爵を見て、エルダを見た。
 その場が外の空気よりも凍りつき、村長の顔も真っ青だった。
「村長! 早く、皆を裏山の方へ避難させるんだ!」
 と侯爵が怒鳴り、村長はよろよろと家を出て行った。
 すでに外からは悲鳴と何かが潰れるような音が聞こえてきていた。
 侯爵も剣を握り直し外へ飛び出して行った。
「どうするんや? ほんまに見殺しにはせんやろ?」
 とおっさんが言ったので、私は立ち上がった。
「分かってる……え、」
 一瞬、ふらっとして、目の前が真っ暗になった。
「リリちゃん!」
 という声が遠くなった。
 身体に力が入らない。
 そしてそのまま私の意識はどこかへ吸い込まれ、プツンと切れた。


(もういいでしょう? 私の身体、返して下さいな)
 真っ暗な中で声が響いた。
(あなた、誰)
(クスクスクス、あなたこそ誰です? 私の身体を乗っ取って)
(あなたの身体?)
(ええ、そうですわ。私、リリアン・ローズデールですわ)
(あなた……)
(どういうおつもりかしら? 勝手に結婚までして、まあ、政略結婚ですもの、当時者に意見など言えませんわね)
(あなた、リリアン?)
(ええ、あなたに身体を乗っ取られてましたけど、あなたとずっと一緒におりましたのよ?)
(印象が違うわ……あなた、泣き虫で引っ込み思案だったじゃない?)
(ええ、でもあなたと共に旅をしてずいぶんと学びましたわ。あなたのおかげで魔法も……聖女と渡りあえるほどの魔力も覚えました……アイスドラゴンに魔獣、そして妖精王、すばらしい眷属も側にいる。もう誰も私を泣き虫で役立たずなんて言わないわ。ですからあなたはもう用なしよ)
(……確かにこの身体はあなただけど、今はそれよりも! 村が危険で!)
(侯爵様に任せておけばいいのでは? それに侯爵様もこの村にいたいのならそうさせてさしあげればいいじゃないですか? 何も記憶を取り戻してまで、帰って頂かなくても? 私ほどの才能、いくらでも嫁ぎ先はありましてよ?)
(だ、駄目よ!)
(何故です? この村の人間ときたら、恩知らずで厚かましくて、侯爵の正義をいいように扱って……とあなたも思ってるはず。とくにあの侯爵の妻だとか名乗る女、下品でみっともなくて許せませんわね)
(やめて! そんな事言わないで!)
(あなただってそう思ってるんでしょう? あなた、嫌になってますでしょ? だから私が力を取り戻せたのですわ。貴方の中は暖かくて、正義感溢れて、たまには毒舌もしますけど、まっすぐな方で……でもあなた、嫌になってますでしょ? いつまで自分が良い子でいられるか分からないんでしょう? 愛しい侯爵を奪った憎い女ですわよね? あのエルダという女)
(やめて!)
(ウフフ、しばらくあなたもゆっくりなさいよ。少し窮屈で不自由かもしれませんけど)
 リリアンはそう言って笑った。
 私は慌てて身体を動かそうとしたが、身体を何かに押さえつけられていた。
 そしてその場所は暖かかくて、ゆっくりとした鼓動が聞こえていた。
 その音を聞いているうちに、私は何も考えたくなくなり目を閉じた。

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