空の歌(スカイ・ソング)

碧桜 詞帆

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三章 破滅と誕生の象徴たる塔

破滅と誕生の象徴たる塔

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 入口付近に密集している敵兵や、時には勘違いで攻撃してくるフォルセス国軍兵もうまく受け流しながら、道をこじ開けて太陽神殿の内部に入り込んだ。
 派手な魔法が飛ばない分外ほど激化してはいないが、神殿内部は人が過密しているため同志討ちなどの危険性も高い。仲間に任せた背後も安全は保障できない状態だ。
 太陽神殿に入り込んだものの、肝心の黄昏塔への行き方が分からずジンレイは足を止めた。この神殿自体が広すぎる上に、軍兵達が邪魔で通路らしき所も見つけられない。そうして周囲に気を散らしているうちに敵兵が背後から襲いかかってきた。
「んだよ、もう!」
 振り向き様剣と剣がぶつかり合い、甲高い金属音を立てる。想定より重い衝撃に、ジンレイは止むを得ず守備に徹した。
「なんだ貴様。フォルセス国軍の者じゃないようだが」
 それもそのはずで、敵兵はジンレイより二回り大きい体格をしていた。
「なんでもいいだろ……っての!」
 だが、ジンレイも負けたものではない。
 身体を一気に屈めて男の剣を右に流す。男が構え直す前に素早く剣を引き、回転の反動を利用して懐に斬り込んだ。
 男は倒れ、対照的にジンレイが立ち上がる。呼吸を整え、再度周囲を見回そうとした。
 その直後、背後に迫った別の気配を感じた。ジンレイはとっさに振り返る。だが無防備な背中をとられた上に、剣先が届く距離まで侵入を許してしまうと、初撃を防ぐのはほぼ不可能だ。反射的に目を瞑る。
 しかし、攻撃は来なかった。
 正確には、ジンレイが目を瞑った直後まで敵兵は確かに彼を狙っていた。だが突然事切れて白目をむき、ジンレイの横に倒れ込んだのだ。
「……?」
 訳が分からず、そいつが立っていた正面を見やった。するとそこには、『先に行っている』とアズミに伝言を頼んだその人がいた。
「背中とられるなんて、らしくないぞ」
「ワモル!」
 キルヤは言った。リンファはユリエナを追いかけようと誘いに来た、と。つまりその時ジンレイには断るという選択肢もあったのだ。
 なのにワモルは信じてくれていた。たとえジンレイが逡巡しようと必ず最後には決断して追いかけて来ることを。
「やっと来たか」
「――ああ。遅くなった」
 左手の拳をこつっとぶつけ合う。握手よりは粗雑で、ハイタッチほどの小気味好い音もない。けれどこれが、二人があった時に決まってする挨拶だった。
「こっちだ」
 ワモルは、ジンレイが所有する直刃の中剣とは異なり、長柄で細刃の武器――槍を扱う。『切る』より『突く』動作に特化した得物の特長を存分に活かし、円舞の如く巧みに操って雄々しく道を切り開いていった。
「ワモル、確か親衛隊と一緒に来たんだろ? 一人で戦ってたのか?」
「いや、隊長の命令で他の隊士と外にいた。けどま、これだけ乱戦になれば持ち場も何も関係ないしな」
 その上国王から単独行動の許可も下りている。割り当てられた地点で守備に徹していたが、ジンレイ達が崖の上を走って来るのを確認し、単独で突っ込んでいったジンレイの後を追ってきたらしい。
「今度は後ろ、頼む」
 ワモルが背中を向けたまま言う。表情は分からないが、声が少し笑っていた。
「わかってるよ!」
 ワモルとの間隔を一定に保ちながら、ジンレイは背後から来る敵を全て撃退する。とは言っても、前方は勿論、左右から襲ってくる敵もまとめてワモルが薙ぎ倒してしまうので、この分担はむしろ物足りないくらいだったが。
「階段……?」
 太陽神殿の奥に進み、運良く兵士達が途切れた先には、超長距離の螺旋階段が続いていた。ちらっと上を覗いてみるが、何重にも弧を描く階段と階段の隙間は遥か上空ですぼみ、完全に見えなくなっている。思わず口が開いてしまう高さだ。
「書類の記載だと三、四キロだそうだ」
「キロ!? まじかよ」
「――行けるか?」
 どこか兄貴めいた口調と笑み。
 それは学修院時代からずっと、ジンレイが二の足を踏んだ時に喝を入れてくれた言葉。気遣いの言葉の裏には、背中を押してくれるような、それでいてどこか挑発的な激励が籠められている。
 昔に戻ったような気がした。なんだか嬉しくなってジンレイもまた昔と同じ言葉で返した。
「――上等っ!」
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