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六章 時が過ぎても変わらないもの
彼女の歌
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ジンレイの呼吸が乱れてきた。平然を装っているものの、既に左腕が痺れて言うこと聞かなくなってきている。負傷した時点で形勢が崩れたというのに、このままでは否応なしに敗北を突きつけられてしまう。
それだけは絶対に認められない。どこかで起死回生の一手を打たないと……。
回避と消極的なカウンターだけに行動が限定されてきたジンレイは奥歯を噛んだ。額に冷たい汗が滲む。
このまま追い詰められて、負けるのか……?
そう思った時。
静寂の中から、何かが聞こえてきた。
その正体を探ろうと、ガリルフがいったん動きを止めた。ジンレイもその方向を辿る。不意に胸元で僅かに振動するそれに気が付いてそっと手を添えた。
聞こえてくる音と光石の小さな振動は完全に同調している。それが奏でるのは一つの旋律。
今にも消えそうで、でも確かに聞こえる。夜空に輝く星のような彼女の歌だった。
「ユリエナ……」
首から下げた光石が伝える優しい歌に、キルヤも耳を澄ませて。
「……綺麗な声っスね…………」
リンファの手の中で、その石が懸命に歌を届ける。
「……あの子ったら…………」
ワモルの光石から聞こえる歌声が、一階の通路に響き渡り。
「……ユリエナ、ジンレイ…………」
アズミの小さな手の中で、淡く光る光石が伝えるのは透き通った声。
「ユリエナの声が、聞こえる……」
彼女がいるであろう東塔を見上げた。距離的にユリエナとの共鳴反応はあり得ないはずだ。
考えられるのは、ジンレイ達が全員散り散りになっていて共鳴反応範囲を広げているという可能性だが、事実こうして彼女の声が届いているからにはそういうことなのだろう。
「……ユリエナ」
その声が彼女の安否を教えてくれる。ぎゅっと光石を握り安堵の吐息を吐いた。
「…………?」
しかしその数秒後、東塔の周りに光の粒子が舞った。その光景に、アズミは瞬きも忘れて目を凝らす。
「光が――」
徐々に増えていく光の粒子は東塔の最上階に集まり、やがて塔を覆い尽くしていく。
la la la 歌おう 空を見上げて
la la la 遠くの風 心に感じて
白黒の荒れ野 黎明を告げる一筋の輝きが
世界の色を教えてくれた
それがボクという存在の 始まりの時――
la la la 果てしない道 歩いて行くこと
la la la 大人になっても 忘れないで
空は高く けれど 気付いたのはこの手の中の光
la la la 空を見上げて
la la la…
何も出来ないけれど、せめて――。
歌うほどに光の粒子が舞い、ユリエナを包んでいった。この光の正体は分からない。分からないが、歌に引き寄せられてきたこの光達はそう悪いものではないのだろうとユリエナは思った。一緒に歌ってくれるなら、心強い。
胸の前に光石を抱き、想いを届ける。
自分の背負ったものの重さを理解したのは五歳の時だった。
それからいつも不安と共に生きてきた。飲み込まれそうな虚無感に苛まれる日もあれば、発狂しそうな恐怖感に襲われる日もあった。
太陽となって死ぬのだとしたら、この人生に一体どんな意味があるの? 私が私でいることに、どれだけの意味があるの?
当時の自分は一人でいる時、そんなことばかり考えていた。
残したい。私がいたことを。
もし私が死ぬとして。昨日死ぬより今日死ぬ方が、自分の死を悼んでくれる人が一人でも増えるような、そんな生き方をしようと思った。
歳を重ねていくうちに、いつしかそうやって生きていくことが自然になったけれど。
――でも。
ジンレイのこと、みんなのこと、好きになればなるほど。
悲しませたくなくて。泣かせたくなくて。
覚えていてほしいのに、忘れてほしくて。
……私、本当に我儘だよね。
ごめんね。迷惑ばかりかけて。
――でも、ありがとう。出逢えて良かった。
何も出来ないけれど、せめて――届いて。
それだけは絶対に認められない。どこかで起死回生の一手を打たないと……。
回避と消極的なカウンターだけに行動が限定されてきたジンレイは奥歯を噛んだ。額に冷たい汗が滲む。
このまま追い詰められて、負けるのか……?
そう思った時。
静寂の中から、何かが聞こえてきた。
その正体を探ろうと、ガリルフがいったん動きを止めた。ジンレイもその方向を辿る。不意に胸元で僅かに振動するそれに気が付いてそっと手を添えた。
聞こえてくる音と光石の小さな振動は完全に同調している。それが奏でるのは一つの旋律。
今にも消えそうで、でも確かに聞こえる。夜空に輝く星のような彼女の歌だった。
「ユリエナ……」
首から下げた光石が伝える優しい歌に、キルヤも耳を澄ませて。
「……綺麗な声っスね…………」
リンファの手の中で、その石が懸命に歌を届ける。
「……あの子ったら…………」
ワモルの光石から聞こえる歌声が、一階の通路に響き渡り。
「……ユリエナ、ジンレイ…………」
アズミの小さな手の中で、淡く光る光石が伝えるのは透き通った声。
「ユリエナの声が、聞こえる……」
彼女がいるであろう東塔を見上げた。距離的にユリエナとの共鳴反応はあり得ないはずだ。
考えられるのは、ジンレイ達が全員散り散りになっていて共鳴反応範囲を広げているという可能性だが、事実こうして彼女の声が届いているからにはそういうことなのだろう。
「……ユリエナ」
その声が彼女の安否を教えてくれる。ぎゅっと光石を握り安堵の吐息を吐いた。
「…………?」
しかしその数秒後、東塔の周りに光の粒子が舞った。その光景に、アズミは瞬きも忘れて目を凝らす。
「光が――」
徐々に増えていく光の粒子は東塔の最上階に集まり、やがて塔を覆い尽くしていく。
la la la 歌おう 空を見上げて
la la la 遠くの風 心に感じて
白黒の荒れ野 黎明を告げる一筋の輝きが
世界の色を教えてくれた
それがボクという存在の 始まりの時――
la la la 果てしない道 歩いて行くこと
la la la 大人になっても 忘れないで
空は高く けれど 気付いたのはこの手の中の光
la la la 空を見上げて
la la la…
何も出来ないけれど、せめて――。
歌うほどに光の粒子が舞い、ユリエナを包んでいった。この光の正体は分からない。分からないが、歌に引き寄せられてきたこの光達はそう悪いものではないのだろうとユリエナは思った。一緒に歌ってくれるなら、心強い。
胸の前に光石を抱き、想いを届ける。
自分の背負ったものの重さを理解したのは五歳の時だった。
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歳を重ねていくうちに、いつしかそうやって生きていくことが自然になったけれど。
――でも。
ジンレイのこと、みんなのこと、好きになればなるほど。
悲しませたくなくて。泣かせたくなくて。
覚えていてほしいのに、忘れてほしくて。
……私、本当に我儘だよね。
ごめんね。迷惑ばかりかけて。
――でも、ありがとう。出逢えて良かった。
何も出来ないけれど、せめて――届いて。
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