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3.喜多村本家に居候
66.お屋敷の昼食
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紺色のメイド服に身を包んだ女性が案内してくれる。来た廊下を戻って着いたところはでっかいホールだった。
食堂じゃなく宴会場やダンスホールと言われた方がしっくりくる。
長テーブルが三列並んだその一つに、ぽつんと料理が用意されている。
「えっと、他の皆さん、喜多村家の皆さんとかは?」
屋敷の人どころか護衛の二人、歩鳥さんや斎木さんの姿もない。
給仕してくれる? メイドさんが三人いる他に誰もいない。
広い場所でボクだけって、どんな拷問だよ。
「皆様は各自のお部屋で召し上がっています」
それを早く言ってよ。
「ボクも部屋が良かったな……」と小さく呟く。
「申し訳ございません。お声をかけようか迷いましたがお休みでしたので……」
起こしてくれて良かったよ。ただのうたた寝ですから。
「護衛の二人は?」
「お二人もお部屋で召し上がっております」
まあここなら護衛は必要ないしね。
案内される前に彼女たちの部屋に顔を出してさえいれば踏み留まれたのに。
喜多村家の皆さんと会食じゃないなら折角、着込んだ着物が台無しだよ。
とは言え、今さら部屋で食べたいとも言えない。
潔くホールで独りの昼食をとる。
椅子に座って膝にナプキンを掛ける。メイドの人が前掛けをしてくれる。
グラスに注がれた炭酸水で喉を潤す。
まず野菜と生ハムのサラダとスープが給仕される。スープはコンソメかな?
シャクシャクとサラダを食べる。胡椒《こしょう》味のドレッシングがかかっている。
スープは澄んだ琥珀色が美しい。お味もちろん美味しゅうございます。
クローシュ(料理の蓋《ふた》)が取られ現れたのは鶏の丸焼き、ローストチキン。
サラダボウルやスープ皿が下げられると、目の前で切り分けてくれる。皮を切る時の音がパリっとして食欲をそそる。
切り分けられたローストチキンの皿がサーブされる。これはフォークだけでいける。
少し大きめをそのままフォークで口に運ぶ。
香ばしい匂いがして、噛むと皮の歯応えと、ほろほろ解けるささ身との相乗効果で歯が悦ぶ。
味も素晴らしい。野性味あふれる味わいだ。雉とかの味に近いのかな?
噛むほどに旨味が口にあふれる。薄くかかっているもので香ばしいさが増している。
これは黒馬油みたいなものかな?
「こちらも、どうぞ」
ロールパンの籠が出される。
「ありがとうございます」
一つ取って千切り口に運ぶ。あっさりした味が鶏の脂を拭い去ってくれ、舌をリセットしてくれる。
鶏とパンを交互にぱくぱく食べた。は~、お腹いっぱい。
次に出されたのは、深めの皿にジャガバターとフレンチフライ。いも尽くしか。
食べてみると……んまい! 新ジャガを使ったジャガバターだ。
皮が薄くぬるっと剥がれる。その皮も美味しい。バターがあっさりしていて幾らでも食べられる。
フレンチフライも美味しい。外はしっかりしているのにふわっと噛める。好みの歯ごたえ。
添えられたケチャップが自然な甘さだ。完熟トマトから作ったのかな?
マスタードも今作ったようにピリッと主張する。
食べ過ぎた、もう食べられない。と言うところにブルーベリーソースのかかったチーズケーキが出される。
「ま、ケーキくらいなら、入るかな?」
んまぁい~! 濃厚なチーズの味、ブルーベリーソースも甘過ぎず酸っぱ過ぎず、載ったミントの葉も瑞々しい。
「ご馳走様でした……」合掌。
膨れ上がったお腹を帯が締めつける。苦しい……。
食後のコーヒーを頂きながら食休みする。
「あの奥はどこに繋がってますか?」
「喜多村家の皆様のお屋敷でございます」
部屋までメイドさんに送ってもらって、廊下のその奥について訊く。
ここは喜多村家の迎賓館みたいなものか。
「お夕食まで、お寛ぎください」
「ありがとうございます」
そう言ってメイドさんが戻って行く。することがなくて夕方まで間が持たないな。
部屋に入らず向かいの部屋へ、歩鳥さんと斎木さんの様子を見にいく。
「皆、何してるの?」
二人は、ベッドに横になったりソファーで寛いでいた。
「暇だから遊んで?」
「キョウ様も喜多村の人間になってきましたね?」
「ど~ゆう意味?」
そのままの意味ですと返され憤る。
仕方ないので自分に充てられた部屋に戻ろうとすると、奥からトテトテと足音がする。
そちらを窺うと子供たちが襲来してきていた。
「皆、遊びに来てくれたの?」
「そう、遊ぼ!」
「部屋を案内する」
「お風呂に入って洗いっこする」
どうもお風呂に執着する子がいるね。ボクは苦笑い。
「そう、ちょっと待っててね」
護衛たちが遊んでくれないので、子供たちの相手をしよう。
部屋に戻り窮屈な着物を脱ぎましょう。
夜までなんて着てられない。部屋にまとめられた荷物から買ったばかりの服を取り出す。
ベッドに並べて吟味するけど……。
「まあ、このワンピースで良いか」
初めてこちらで買った薄緑のやつ。帯を解いて着物をベッドに打ち捨てる。
肌着になってワンピースを着ていたら、子供たちまでワンピースを脱いでいた。
一番、幼子は上手く脱げなくて多々羅を踏んでいる。
「ちょっと、みんなは脱がなくていいから~」
別に脱ぎ合いっこじゃないから。
ワンピースをすぐ着て脱ぎかけの子を、もう一度着させる。
服を着直した子は、ボクの荷物が気になって漁り始めている。
「わあ、ピンクの服~」
ピンクのパジャマを見つけて引き摺りだしてきた。
「それは、やめて……」
幼い子も参戦してパジャマ争奪戦が勃発してしまう。
「お願い、これはダメ。返して?」
宥めて他の子は諦めてくれたけれど、幼子だけは握り締めて放さない。
「他のことして遊ぼ?」とやっと宥めて返してもらう。
「それで、何して遊ぶ? どこに連れていってくれる?」
食堂じゃなく宴会場やダンスホールと言われた方がしっくりくる。
長テーブルが三列並んだその一つに、ぽつんと料理が用意されている。
「えっと、他の皆さん、喜多村家の皆さんとかは?」
屋敷の人どころか護衛の二人、歩鳥さんや斎木さんの姿もない。
給仕してくれる? メイドさんが三人いる他に誰もいない。
広い場所でボクだけって、どんな拷問だよ。
「皆様は各自のお部屋で召し上がっています」
それを早く言ってよ。
「ボクも部屋が良かったな……」と小さく呟く。
「申し訳ございません。お声をかけようか迷いましたがお休みでしたので……」
起こしてくれて良かったよ。ただのうたた寝ですから。
「護衛の二人は?」
「お二人もお部屋で召し上がっております」
まあここなら護衛は必要ないしね。
案内される前に彼女たちの部屋に顔を出してさえいれば踏み留まれたのに。
喜多村家の皆さんと会食じゃないなら折角、着込んだ着物が台無しだよ。
とは言え、今さら部屋で食べたいとも言えない。
潔くホールで独りの昼食をとる。
椅子に座って膝にナプキンを掛ける。メイドの人が前掛けをしてくれる。
グラスに注がれた炭酸水で喉を潤す。
まず野菜と生ハムのサラダとスープが給仕される。スープはコンソメかな?
シャクシャクとサラダを食べる。胡椒《こしょう》味のドレッシングがかかっている。
スープは澄んだ琥珀色が美しい。お味もちろん美味しゅうございます。
クローシュ(料理の蓋《ふた》)が取られ現れたのは鶏の丸焼き、ローストチキン。
サラダボウルやスープ皿が下げられると、目の前で切り分けてくれる。皮を切る時の音がパリっとして食欲をそそる。
切り分けられたローストチキンの皿がサーブされる。これはフォークだけでいける。
少し大きめをそのままフォークで口に運ぶ。
香ばしい匂いがして、噛むと皮の歯応えと、ほろほろ解けるささ身との相乗効果で歯が悦ぶ。
味も素晴らしい。野性味あふれる味わいだ。雉とかの味に近いのかな?
噛むほどに旨味が口にあふれる。薄くかかっているもので香ばしいさが増している。
これは黒馬油みたいなものかな?
「こちらも、どうぞ」
ロールパンの籠が出される。
「ありがとうございます」
一つ取って千切り口に運ぶ。あっさりした味が鶏の脂を拭い去ってくれ、舌をリセットしてくれる。
鶏とパンを交互にぱくぱく食べた。は~、お腹いっぱい。
次に出されたのは、深めの皿にジャガバターとフレンチフライ。いも尽くしか。
食べてみると……んまい! 新ジャガを使ったジャガバターだ。
皮が薄くぬるっと剥がれる。その皮も美味しい。バターがあっさりしていて幾らでも食べられる。
フレンチフライも美味しい。外はしっかりしているのにふわっと噛める。好みの歯ごたえ。
添えられたケチャップが自然な甘さだ。完熟トマトから作ったのかな?
マスタードも今作ったようにピリッと主張する。
食べ過ぎた、もう食べられない。と言うところにブルーベリーソースのかかったチーズケーキが出される。
「ま、ケーキくらいなら、入るかな?」
んまぁい~! 濃厚なチーズの味、ブルーベリーソースも甘過ぎず酸っぱ過ぎず、載ったミントの葉も瑞々しい。
「ご馳走様でした……」合掌。
膨れ上がったお腹を帯が締めつける。苦しい……。
食後のコーヒーを頂きながら食休みする。
「あの奥はどこに繋がってますか?」
「喜多村家の皆様のお屋敷でございます」
部屋までメイドさんに送ってもらって、廊下のその奥について訊く。
ここは喜多村家の迎賓館みたいなものか。
「お夕食まで、お寛ぎください」
「ありがとうございます」
そう言ってメイドさんが戻って行く。することがなくて夕方まで間が持たないな。
部屋に入らず向かいの部屋へ、歩鳥さんと斎木さんの様子を見にいく。
「皆、何してるの?」
二人は、ベッドに横になったりソファーで寛いでいた。
「暇だから遊んで?」
「キョウ様も喜多村の人間になってきましたね?」
「ど~ゆう意味?」
そのままの意味ですと返され憤る。
仕方ないので自分に充てられた部屋に戻ろうとすると、奥からトテトテと足音がする。
そちらを窺うと子供たちが襲来してきていた。
「皆、遊びに来てくれたの?」
「そう、遊ぼ!」
「部屋を案内する」
「お風呂に入って洗いっこする」
どうもお風呂に執着する子がいるね。ボクは苦笑い。
「そう、ちょっと待っててね」
護衛たちが遊んでくれないので、子供たちの相手をしよう。
部屋に戻り窮屈な着物を脱ぎましょう。
夜までなんて着てられない。部屋にまとめられた荷物から買ったばかりの服を取り出す。
ベッドに並べて吟味するけど……。
「まあ、このワンピースで良いか」
初めてこちらで買った薄緑のやつ。帯を解いて着物をベッドに打ち捨てる。
肌着になってワンピースを着ていたら、子供たちまでワンピースを脱いでいた。
一番、幼子は上手く脱げなくて多々羅を踏んでいる。
「ちょっと、みんなは脱がなくていいから~」
別に脱ぎ合いっこじゃないから。
ワンピースをすぐ着て脱ぎかけの子を、もう一度着させる。
服を着直した子は、ボクの荷物が気になって漁り始めている。
「わあ、ピンクの服~」
ピンクのパジャマを見つけて引き摺りだしてきた。
「それは、やめて……」
幼い子も参戦してパジャマ争奪戦が勃発してしまう。
「お願い、これはダメ。返して?」
宥めて他の子は諦めてくれたけれど、幼子だけは握り締めて放さない。
「他のことして遊ぼ?」とやっと宥めて返してもらう。
「それで、何して遊ぶ? どこに連れていってくれる?」
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