妄想日記8<<FLOWERS>>

YAMATO

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Chapter2(蒼空編)

Chapter2-②【No.1】

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「いらっしゃいませ。」
和服を着た葵ママが頭を下げる。
「ご無沙汰してます。
厄介なウィルスが落ち着いたらと思っていたら、間が空いてしまいました。
今日はお誕生日でしたね。。」
ヒロムが花束を差し出す。
「まあ、覚えて下さっていて、嬉しいわ。
蒼い薔薇、素敵な色ね。
ヒロムさんだと思って、お部屋に飾らせてもらいます。」
上品な仕草は本物の女性の様だ。
きらびやかな照明と鏡により、無限の奥行きを感じさせた。
客足も大分戻っている様子だ。
「お店も落ち着きましたので、ラウンジを再開しました。
そちらで宜しいですか?」
「はい、お願いします。
飲み物はあれを入れて下さい。」
葵ママが鏡の脇にカードを翳す。
鏡が開き、奥に部屋が現れた。
間接照明の中で花が咲き乱れる。
ムッとする花の香りが襲ってきた。
二人はその中へ入っていく。
足元を照らすフットライトだけが頼りだ。
ソファーに座ると、身体が沈む。
テーブルの上の炎がなければ、前に座るヒロムを認識出来ないだろう。
花の香りは一層強まっていた。
「やはりこちらの方が落ち着きます。」
「今はインバウンドのお客様がいらっしゃらないので、あまり使っていないのです。」
「そう言えば、前はもっとざわざわしてたな。」
「あら、活気があると仰って下さいませ。」
二人の会話を上の空で聞く。
花の猛威に包まれ、あの男を思い出す。
頭の中で、天秤が揺れ動く。
左右が拮抗し、なかなか静止しない。
止まる前に頭を振って、追い出した。
 
「お連れのお客様は二度目でいらっしゃいますね。
これからもご贔屓にお願いし致します。」
常連になる事はあり得ないが、愛想笑いでこの場を凌ぐ。
「このラウンジは海外VIPの御用達なんだ。
見掛けてもサインねだるなよ。」
ヒロムのジョークに大きく頷く。
「俺も最初にここへ通された時は驚いたよ。
もう10年前か。
当時はケンゴ君がNo.1だったけど、今もいるのかな?」
「ケンゴさんはもう…。」
珍しく言い淀んだ。
「シャンパンをお持ちしました。」
闇の中からグラスが現れた。
炎の灯りで、跪く男が揺れている。
圧倒的な筋肉美を覆っているはターザンの様な布だけだ。
「こちらが現在トップのショーンさんです。」
「ショーンです。
宜しくお願いします。」
テーブルに二枚の名刺が置かれた。
『クラブ INLET Seán』と印刷してある。
「ショーンさんのお父様はニューヨーク出身、お母様は中華系でペンタリンガルなんですよ。
早く海外のお客様をお迎えしたいわ。
私はそろそろ失礼させて戴きます。
お花、大事に飾ります。」
葵ママが闇の中へ消えて行った。
 
進行者が去り、会話が途切れた。
「ペンタ何とかって何?」
意味不明の単語を聞いてみる。
「ペンタリンガル、五ヶ国語を使えるって事さ。」
笑顔のヒロムは質問の真意を察してくれた様だ。
「葵さんは大袈裟です。
米語と英語、北京語と広東語を分けてカウントしています。
いつも話しを広げて紹介されるので、困っているのです。
実際は三ヶ国語しか話せません。」
跪いたままのショーンが訂正した。
「ではご必要がありましたら、お呼び下さい。」
ショーンが腰を浮かす。
 
(つづく)
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