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パリジュテーム!!!3
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修学旅行も終盤で本日は自由行動だ。
凛と十六夜はモンマルトルに行くが、久世と常磐はリュクサンブール公園でのんびりデートする。
設楽と白珠は外にも出ずアパルトマンに引きこもる。
「設楽と白珠、せっかくの海外なのに観光しないのか?」
凛の言葉に白珠がダルそうに返答をよこした。
「外でると犬のフンばっかでイヤだ。ドブ臭い。根津の方がいい」
白珠と設楽は同じ家で暮らしていて、所在地は文京区根津だ。
久世が住む団子坂と凄く近いが小学校は異なる。
設楽&白珠はメトロ根津駅付近の学校だが久世はK成学園入学まで松濤で暮らしていた。
生粋東京下町育ちの設楽と白珠にとってパリは無駄にインヌのフンがあり面倒らしい。
まあ、コイツらに下手に動かれても厄介だなと凛が思っていたら十六夜が提案した。
「それなら、2人はペール・ラシェーズ墓地にいけば?」
ペール・ラシェーズ墓地は歴史的著名人が眠る場所だ。
たしか、画家のドラクロワ、イギリス詩人のオスカー・ワイルドあたりも眠っている。
架空だがレ・ミゼラブルの主人公も埋葬されてる有名な墓地だ。
だが、場所がパリの東側で微妙に遠いい。
ご近所に谷中の墓地がある設楽と白珠がそんな墓場に魂レボリューションするとは思えない。
だが、白珠は興味を持ったらしく墓場に行く気になっている。
誰か興味ある著名人でもいるのか謎だ。
設楽も白珠がその気ならどこまでも付いていく。
「ありがと、近衛先輩。そこに行ってみる」
「旅人、着替えて行こう」
こうして、設楽と白珠はペール・ラシェーズ墓地に向かった。
白珠は出かける時に雪女のような白装束であった。
純白の着物だ。
女物で帯も半襟も足袋も草履も全てが白い。
唯一艶やかな黒髪だけがアクセントだ。
肌の白さが神々しく美しいが凛には魔物のようでゾッとした。
設楽は黒いカットソーにジーンズだが、濃い血液のようなワインレッドの縦襟マントを羽織っている。
コイツら……ハロウィンでもするつもりか?
オスカー・ワイルドもショパンもビックリするぞ!?
いやビックリでなく、確実にドン引く!!
そのまんま2人は出掛けてしまった。
凛はなんだが凄くイヤな予感がした。
設楽と白珠が何かしでかすとかでなく2人の存在が消えてしまうような漠然とした不安感に襲われる。
引き留めようとしたら久世に制された。
「心配ない。白珠も設楽も戻ってくる。あれは、儀式の礼服だ」
「儀式?フランスって墓地でコスプレするの?」
訳が分からない凛に久世は十六夜に説明するよう促して常磐と出ていってしまった。
久世が言うなら心配はないと安心したいが凛は不安感でいっぱいだ。
そんな凛の様子を見ていた十六夜が微笑んで囁いた。
「モンマルトルは中止して後を追いかける?」
憑かれたような白珠の表情が頭から離れず、凛はモンマルトル観光を中止して十六夜とペール・ラシェーズ墓地に行くことにした。
白珠旅人は幼い頃の記憶を電車で回想していた。
幼児期に家の奥座敷で幼馴染みの設楽玄と遊んでいたら神様が現れた。
佳代神は旅人の伴侶に玄を選んだ。
幼い2人は無邪気に受け入れて、佳代神の思し召しの元で生きる運命となった。
旅人は家の掟で幼児期は女の子の姿で生活していた。
だから、自分が男の子なのか女の子かの境目が曖昧であった。
代々、設楽家は旅人の家に仕えている。
そこの息子の玄のことが旅人は大好きだった。
この子とずっと一緒だったらいいな。
幼い旅人はそう考えていた。
それを家神である佳代が叶えてくれた。
様々な誓約を背負うことで。
玄は心から旅人を愛してくれるが果たして、それは本人の意思なのか佳代神の力か分からない。
嫌われるようなことを散々しても玄は旅人から離れない。
久世に家神との誓いを無効にする方法を聴いたとき玄は拒んだ。
あれは、本当に玄の意志なのか不明だ。
でも、旅人は心底ホッとしている。
あの場で玄が呪いを解こうとすれば確実に玄は死んでいた。
久世は化け物だが家を支配する神の恐ろしさを理解してない。
桐箪笥と牡丹の着物を燃やして誓いを無効にしても佳代神を怒らせるだけだ。
旅人は自分はどうなってもいいが玄に神罰が下るのだけは避けたいと思っていた。
佳代神を祓うのは不可能だ。
久世の力でも恐らく佳代神は祓えない。
だって、彼女は白珠家への怨霊から生まれている。
御利益と良縁を授ける家神という姿は表向きで本当は白珠の家の者を苦しめるのが本来の目的なのだ。
設楽の家の子供など彼女には殺してもいい存在だ。
何故なら、佳代神は元は旅人と同じく白珠家の出身で本家と設楽家両方に怨みがある。
いわゆる、祟り神であった。
設楽家の男に惚れたが白珠家の跡継ぎ娘に男を取られた妹娘が佳代神である。
つまり、本家の娘だが姉に男を奪われ、憤死した妹が佳代である。
旅人は佳代神から設楽の男を奪った憎い姉に瓜二つらしい。
そして、玄も佳代神が惚れた設楽の男の生き写しだ。
「女の怨みだか知らねーが佳代さんもねちっこい!」
旅人の独り言に玄は静かに言った。
「旅人……帯がずれてるから直すよ」
玄が旅人の着物の帯を整えているのを凛は離れた座席から見ていた。
「十六夜さん、白珠は家神の呪いが届かない方法で設楽を守る手段を探しに墓地に行くんですか?」
ペットボトルの水を飲みながら尋ねる凛に十六夜は小さく頷いた。
「白珠君の目的は設楽君を呪詛から解放すること。そのヒントが墓地にある」
「墓地に?お墓の幽霊にでも質問するとか?」
いくら、有名人が集う墓地でもそれはないと凛は冗談で言ってみたらビンゴであった。
フランスは幽霊概念は薄い国民性だが白珠は無理やり、彼らを召喚させるつもりだ。
キリスト教の概念なら彼らはとうの昔に天国or地獄である。
幽霊としてフラフラしてるなんて絶対にあり得ない。
でも、十六夜いわく可能性はあるらしかった。
「白珠君は音の生歌を聴いても壊れない。簡単に言うと、白珠君は既に壊れてるから多少の無茶もできるよ」
「まあ……正常石井ではないけど」
そうこう話してるうちにペール・ラシェーズ墓地に到着した。
久世は常磐とリュクサンブール公園で仲良く話していた。
設楽と白珠の後を恐らくは凛と十六夜が追っている。
予定通りだ。
久世は何度か白珠の家にとりつく佳代神を脅したが効果がない。
自分の勝手な妄想のみで何を言っても無駄な女神だった。
根本が家憑きの祟り神なので下手に脅迫すれば白珠と設楽の身が危険だ。
そして、佳代神が好き勝手してる元凶は白珠が設楽を疑うからである。
設楽が自我で白珠を愛しても白珠はそれが設楽の意志か呪いか迷っている。
そして、呪いが解けて、設楽が自由に白珠以外の人間を愛するのを恐れている。
でも、設楽を白珠家の呪縛から解放してやりたいと行動したのだ。
「白珠って本当に純粋だよな。でも、そんな行動しても設楽が傷つくだけだ」
久世は確信していた。
設楽は100%自我で白珠が好きだ。
ちゃちな家神もどきの力など問題ではない。
それが分からないと白珠は延々と佳代神の企み通りに苦しむ。
「辰希!指輪、買いに行こうか!」
唐突な久世の申し出に常磐辰希はメガネを整えた。
「いいけど。どこで買うの?」
「父さんから聞いた店!!きっと、ピッタリなのがある!」
お金は覚悟を決めたときは惜しみなく使え。
これは久世の父親の教えである。
久世は常磐を連れて、パリ右岸へと移動した。
場所はペール・ラシェーズ墓地に移る。
白珠が墓地の皆様に大迷惑をかけてる。
オスカー・ワイルドの墓場で設楽と別れると絶叫している。
墓地だが観光客もいて気が狂った東洋系の少年を皆が見ている。
警察を呼ばれる恐れもある。
凛は隠れていたが白珠を黙らせようと出ていきかけて十六夜に阻止された。
「ここで止めたら無意味だ。フランスで痴話喧嘩なんてインヌのフンなみにあるから警察もこない」
「でも!誰かが動画とか撮影してたら学園にバレますよ!」
「凛、それで退学になるなら白珠君はとっくに退学してる」
白珠は本気で泣きながらオスカー・ワイルドの墓の前で設楽を罵っている。
「お前なんて昔から大嫌いだ!!気持ち悪い!!オスカーもそう思うだろ!?」
いや、関係ないオスカー・ワイルドに共感を求めるな!
オスカーとか気軽に呼ぶな!!
さんを付けろよデコやろう!!
凛は霊感とか皆無だと思うがオスカーさんの墓がそう言ってる気がする。
だが、オスカーさんはわりと痴話喧嘩の仲裁が好きな御仁だった。
見るとオスカー・ワイルドの墓場からオスカーさん(本物)が出てきた。
写真と同じ感じのお顔で白珠をなだめている。
「可愛い坊や!心にもない発言はやめなさい。何か事情があるのかい?」
オスカーさん!!
普通に恋愛相談してくれてる!?
白珠は設楽は悪魔にとりつかれていると訴えた。
だから、なんとも想ってない自分に付きまとう変質者だと泣いている。
凛に言わせれば、これは、設楽が号泣したい状況である。
オスカーさん、ひとつ白珠に神アドバイスを!
凛がそう願っているとオスカー・ワイルドは白珠に優しく問いかけた。
「君は彼を愛してないの?」
「愛してない!!」
白珠が断言するとオスカー・ワイルドは笑顔で納得して宣った。
「なら、私の愛人になりなさい!ウェルカム!!」
まて、まて、まて!?
オスカーさん!!
死んでも可愛い男子が好物かよ~!!
凛は十六夜が止めても今度こそ白珠の元へ走るつもりだった。
亡霊でも墓場で泣き叫ぶ美少年をゲットはダメ、絶対!!
でも、設楽の動きの方が速かった。
設楽は渾身の力で白珠をぶん殴った。
その時、気が付いた。
設楽にはオスカー・ワイルドらしき亡霊が見えていない。
バランスを崩して倒れる白珠だけを見つめている。
「旅人……そんなにオスカー・ワイルドの墓が好きなら、サロメみたく手段を選ばず、お前を俺のものにするから」
設楽は怒っているが目は冷静であった。
サロメのようにとは、殺してでも白珠を自分のものにすると言う意味だ。
ハラハラ見守っていた凛がゾッとしたのは設楽がナイフを隠し持ってたからである。
刃傷沙汰になると慌てたが十六夜は落ち着いている。
「平気だよ。これから設楽君が白珠君を刺すけど軽傷だから見てて」
「軽傷でも無理です!わっ!十六夜さん、離して!」
十六夜に押さえ付けられて凛は身動きが取れなくなった。
設楽は呆然とする白珠の喉元めがけてナイフを突き立てた。
万事休すかと凛は反射的に目をそむけかけたが血の匂いや断末魔はしなかった。
「終わったよ」
十六夜が凛を支え起こすと設楽は白珠の首筋の牡丹の痣を浅く斬っていた。
白珠の白い着物に血が滴っているが致命傷ではない。
言葉を失ったようにへたりこむ白珠にオスカー・ワイルドの亡霊は声をかけた。
「彼に悪魔は憑いてない。憑かれてたのは君だ」
佳代神の誓約では設楽は白珠を護り、害を与えない。
なので、白珠の言葉にキレてナイフで斬りかかったということは設楽は佳代神の力に影響なんて受けてない。
自我で白珠のことを刺殺したいくらい好きなのだ。
ようやく、我に返った白珠が瞳に涙をためてワッと泣き出した。
オスカーさんはいつの間にか消えていた。
「玄!!ごめん!怖かった!殺そうとしてくれてありがとう!!」
「ずっと、悔しかった。旅人が俺を信じてくれなくて」
家の神だろうが呪いだろうが関係ない。
玄には旅人しかいなかった。
偉人の墓場で心にもない罵詈雑言を吐く破綻者でも殺したいくらい大好きだ。
2人が抱き合っているのを凛は心底安堵して見ていた。
物騒な愛情だが白珠は幸せそうだ。
「先に帰りますか?」
「そうだね。もう、安心だ」
十六夜は黙っていた。
設楽の秘めた愛憎を故意的に操った。
愛憎を秘めてる時点で設楽は自我を保っている。
それは最悪、白珠を殺すほどの執着愛だが、家神風情の神通力より強くてタチが悪い。
今回のペール・ラシェーズ墓地での痴話喧嘩は白珠の狂言である。
家神の縄張り外で墓地を選び、更にオスカー・ワイルドの墓場で泣き叫ぶ。
嫌いだと罵り、設楽を試した。
家神の力の影響があれば設楽は怒らない。
でも、本当に自分の意志がすべてなら!
流石に設楽が殺意を抱くほど自分を愛していたとは白珠も想定外だったのだ。
「今日1日、墓場で友達の修羅場みて終わりましたね」
凛が十六夜の手を握って笑った。
せめて帰りにカフェによろうと言い合って凛と十六夜は手を繋いでペール・ラシェーズ墓地から離れて歩きだした。
修学旅行も残りわずかだ。
旅人は玄の頭を小突いた。
「お前、俺にDVしないって約束したのに」
「そんな、小さい時の記憶、忘れた」
傷の手当てをして墓地を去る旅人と玄を見守るオスカー・ワイルドおよび今はなき著名人は息を吐いた。
「やっと、静かになった。なんて、恐ろしい子供たち。ジャポンも怖いな!」
とりあえず、オスカー・ワイルドは色白で綺麗だが狂気人形のような美少年と同じくナイフ持った狂気の沙汰の少年の痴話喧嘩から解放された。
なんか、花でも供えたまえよ、と言いたい。
end
凛と十六夜はモンマルトルに行くが、久世と常磐はリュクサンブール公園でのんびりデートする。
設楽と白珠は外にも出ずアパルトマンに引きこもる。
「設楽と白珠、せっかくの海外なのに観光しないのか?」
凛の言葉に白珠がダルそうに返答をよこした。
「外でると犬のフンばっかでイヤだ。ドブ臭い。根津の方がいい」
白珠と設楽は同じ家で暮らしていて、所在地は文京区根津だ。
久世が住む団子坂と凄く近いが小学校は異なる。
設楽&白珠はメトロ根津駅付近の学校だが久世はK成学園入学まで松濤で暮らしていた。
生粋東京下町育ちの設楽と白珠にとってパリは無駄にインヌのフンがあり面倒らしい。
まあ、コイツらに下手に動かれても厄介だなと凛が思っていたら十六夜が提案した。
「それなら、2人はペール・ラシェーズ墓地にいけば?」
ペール・ラシェーズ墓地は歴史的著名人が眠る場所だ。
たしか、画家のドラクロワ、イギリス詩人のオスカー・ワイルドあたりも眠っている。
架空だがレ・ミゼラブルの主人公も埋葬されてる有名な墓地だ。
だが、場所がパリの東側で微妙に遠いい。
ご近所に谷中の墓地がある設楽と白珠がそんな墓場に魂レボリューションするとは思えない。
だが、白珠は興味を持ったらしく墓場に行く気になっている。
誰か興味ある著名人でもいるのか謎だ。
設楽も白珠がその気ならどこまでも付いていく。
「ありがと、近衛先輩。そこに行ってみる」
「旅人、着替えて行こう」
こうして、設楽と白珠はペール・ラシェーズ墓地に向かった。
白珠は出かける時に雪女のような白装束であった。
純白の着物だ。
女物で帯も半襟も足袋も草履も全てが白い。
唯一艶やかな黒髪だけがアクセントだ。
肌の白さが神々しく美しいが凛には魔物のようでゾッとした。
設楽は黒いカットソーにジーンズだが、濃い血液のようなワインレッドの縦襟マントを羽織っている。
コイツら……ハロウィンでもするつもりか?
オスカー・ワイルドもショパンもビックリするぞ!?
いやビックリでなく、確実にドン引く!!
そのまんま2人は出掛けてしまった。
凛はなんだが凄くイヤな予感がした。
設楽と白珠が何かしでかすとかでなく2人の存在が消えてしまうような漠然とした不安感に襲われる。
引き留めようとしたら久世に制された。
「心配ない。白珠も設楽も戻ってくる。あれは、儀式の礼服だ」
「儀式?フランスって墓地でコスプレするの?」
訳が分からない凛に久世は十六夜に説明するよう促して常磐と出ていってしまった。
久世が言うなら心配はないと安心したいが凛は不安感でいっぱいだ。
そんな凛の様子を見ていた十六夜が微笑んで囁いた。
「モンマルトルは中止して後を追いかける?」
憑かれたような白珠の表情が頭から離れず、凛はモンマルトル観光を中止して十六夜とペール・ラシェーズ墓地に行くことにした。
白珠旅人は幼い頃の記憶を電車で回想していた。
幼児期に家の奥座敷で幼馴染みの設楽玄と遊んでいたら神様が現れた。
佳代神は旅人の伴侶に玄を選んだ。
幼い2人は無邪気に受け入れて、佳代神の思し召しの元で生きる運命となった。
旅人は家の掟で幼児期は女の子の姿で生活していた。
だから、自分が男の子なのか女の子かの境目が曖昧であった。
代々、設楽家は旅人の家に仕えている。
そこの息子の玄のことが旅人は大好きだった。
この子とずっと一緒だったらいいな。
幼い旅人はそう考えていた。
それを家神である佳代が叶えてくれた。
様々な誓約を背負うことで。
玄は心から旅人を愛してくれるが果たして、それは本人の意思なのか佳代神の力か分からない。
嫌われるようなことを散々しても玄は旅人から離れない。
久世に家神との誓いを無効にする方法を聴いたとき玄は拒んだ。
あれは、本当に玄の意志なのか不明だ。
でも、旅人は心底ホッとしている。
あの場で玄が呪いを解こうとすれば確実に玄は死んでいた。
久世は化け物だが家を支配する神の恐ろしさを理解してない。
桐箪笥と牡丹の着物を燃やして誓いを無効にしても佳代神を怒らせるだけだ。
旅人は自分はどうなってもいいが玄に神罰が下るのだけは避けたいと思っていた。
佳代神を祓うのは不可能だ。
久世の力でも恐らく佳代神は祓えない。
だって、彼女は白珠家への怨霊から生まれている。
御利益と良縁を授ける家神という姿は表向きで本当は白珠の家の者を苦しめるのが本来の目的なのだ。
設楽の家の子供など彼女には殺してもいい存在だ。
何故なら、佳代神は元は旅人と同じく白珠家の出身で本家と設楽家両方に怨みがある。
いわゆる、祟り神であった。
設楽家の男に惚れたが白珠家の跡継ぎ娘に男を取られた妹娘が佳代神である。
つまり、本家の娘だが姉に男を奪われ、憤死した妹が佳代である。
旅人は佳代神から設楽の男を奪った憎い姉に瓜二つらしい。
そして、玄も佳代神が惚れた設楽の男の生き写しだ。
「女の怨みだか知らねーが佳代さんもねちっこい!」
旅人の独り言に玄は静かに言った。
「旅人……帯がずれてるから直すよ」
玄が旅人の着物の帯を整えているのを凛は離れた座席から見ていた。
「十六夜さん、白珠は家神の呪いが届かない方法で設楽を守る手段を探しに墓地に行くんですか?」
ペットボトルの水を飲みながら尋ねる凛に十六夜は小さく頷いた。
「白珠君の目的は設楽君を呪詛から解放すること。そのヒントが墓地にある」
「墓地に?お墓の幽霊にでも質問するとか?」
いくら、有名人が集う墓地でもそれはないと凛は冗談で言ってみたらビンゴであった。
フランスは幽霊概念は薄い国民性だが白珠は無理やり、彼らを召喚させるつもりだ。
キリスト教の概念なら彼らはとうの昔に天国or地獄である。
幽霊としてフラフラしてるなんて絶対にあり得ない。
でも、十六夜いわく可能性はあるらしかった。
「白珠君は音の生歌を聴いても壊れない。簡単に言うと、白珠君は既に壊れてるから多少の無茶もできるよ」
「まあ……正常石井ではないけど」
そうこう話してるうちにペール・ラシェーズ墓地に到着した。
久世は常磐とリュクサンブール公園で仲良く話していた。
設楽と白珠の後を恐らくは凛と十六夜が追っている。
予定通りだ。
久世は何度か白珠の家にとりつく佳代神を脅したが効果がない。
自分の勝手な妄想のみで何を言っても無駄な女神だった。
根本が家憑きの祟り神なので下手に脅迫すれば白珠と設楽の身が危険だ。
そして、佳代神が好き勝手してる元凶は白珠が設楽を疑うからである。
設楽が自我で白珠を愛しても白珠はそれが設楽の意志か呪いか迷っている。
そして、呪いが解けて、設楽が自由に白珠以外の人間を愛するのを恐れている。
でも、設楽を白珠家の呪縛から解放してやりたいと行動したのだ。
「白珠って本当に純粋だよな。でも、そんな行動しても設楽が傷つくだけだ」
久世は確信していた。
設楽は100%自我で白珠が好きだ。
ちゃちな家神もどきの力など問題ではない。
それが分からないと白珠は延々と佳代神の企み通りに苦しむ。
「辰希!指輪、買いに行こうか!」
唐突な久世の申し出に常磐辰希はメガネを整えた。
「いいけど。どこで買うの?」
「父さんから聞いた店!!きっと、ピッタリなのがある!」
お金は覚悟を決めたときは惜しみなく使え。
これは久世の父親の教えである。
久世は常磐を連れて、パリ右岸へと移動した。
場所はペール・ラシェーズ墓地に移る。
白珠が墓地の皆様に大迷惑をかけてる。
オスカー・ワイルドの墓場で設楽と別れると絶叫している。
墓地だが観光客もいて気が狂った東洋系の少年を皆が見ている。
警察を呼ばれる恐れもある。
凛は隠れていたが白珠を黙らせようと出ていきかけて十六夜に阻止された。
「ここで止めたら無意味だ。フランスで痴話喧嘩なんてインヌのフンなみにあるから警察もこない」
「でも!誰かが動画とか撮影してたら学園にバレますよ!」
「凛、それで退学になるなら白珠君はとっくに退学してる」
白珠は本気で泣きながらオスカー・ワイルドの墓の前で設楽を罵っている。
「お前なんて昔から大嫌いだ!!気持ち悪い!!オスカーもそう思うだろ!?」
いや、関係ないオスカー・ワイルドに共感を求めるな!
オスカーとか気軽に呼ぶな!!
さんを付けろよデコやろう!!
凛は霊感とか皆無だと思うがオスカーさんの墓がそう言ってる気がする。
だが、オスカーさんはわりと痴話喧嘩の仲裁が好きな御仁だった。
見るとオスカー・ワイルドの墓場からオスカーさん(本物)が出てきた。
写真と同じ感じのお顔で白珠をなだめている。
「可愛い坊や!心にもない発言はやめなさい。何か事情があるのかい?」
オスカーさん!!
普通に恋愛相談してくれてる!?
白珠は設楽は悪魔にとりつかれていると訴えた。
だから、なんとも想ってない自分に付きまとう変質者だと泣いている。
凛に言わせれば、これは、設楽が号泣したい状況である。
オスカーさん、ひとつ白珠に神アドバイスを!
凛がそう願っているとオスカー・ワイルドは白珠に優しく問いかけた。
「君は彼を愛してないの?」
「愛してない!!」
白珠が断言するとオスカー・ワイルドは笑顔で納得して宣った。
「なら、私の愛人になりなさい!ウェルカム!!」
まて、まて、まて!?
オスカーさん!!
死んでも可愛い男子が好物かよ~!!
凛は十六夜が止めても今度こそ白珠の元へ走るつもりだった。
亡霊でも墓場で泣き叫ぶ美少年をゲットはダメ、絶対!!
でも、設楽の動きの方が速かった。
設楽は渾身の力で白珠をぶん殴った。
その時、気が付いた。
設楽にはオスカー・ワイルドらしき亡霊が見えていない。
バランスを崩して倒れる白珠だけを見つめている。
「旅人……そんなにオスカー・ワイルドの墓が好きなら、サロメみたく手段を選ばず、お前を俺のものにするから」
設楽は怒っているが目は冷静であった。
サロメのようにとは、殺してでも白珠を自分のものにすると言う意味だ。
ハラハラ見守っていた凛がゾッとしたのは設楽がナイフを隠し持ってたからである。
刃傷沙汰になると慌てたが十六夜は落ち着いている。
「平気だよ。これから設楽君が白珠君を刺すけど軽傷だから見てて」
「軽傷でも無理です!わっ!十六夜さん、離して!」
十六夜に押さえ付けられて凛は身動きが取れなくなった。
設楽は呆然とする白珠の喉元めがけてナイフを突き立てた。
万事休すかと凛は反射的に目をそむけかけたが血の匂いや断末魔はしなかった。
「終わったよ」
十六夜が凛を支え起こすと設楽は白珠の首筋の牡丹の痣を浅く斬っていた。
白珠の白い着物に血が滴っているが致命傷ではない。
言葉を失ったようにへたりこむ白珠にオスカー・ワイルドの亡霊は声をかけた。
「彼に悪魔は憑いてない。憑かれてたのは君だ」
佳代神の誓約では設楽は白珠を護り、害を与えない。
なので、白珠の言葉にキレてナイフで斬りかかったということは設楽は佳代神の力に影響なんて受けてない。
自我で白珠のことを刺殺したいくらい好きなのだ。
ようやく、我に返った白珠が瞳に涙をためてワッと泣き出した。
オスカーさんはいつの間にか消えていた。
「玄!!ごめん!怖かった!殺そうとしてくれてありがとう!!」
「ずっと、悔しかった。旅人が俺を信じてくれなくて」
家の神だろうが呪いだろうが関係ない。
玄には旅人しかいなかった。
偉人の墓場で心にもない罵詈雑言を吐く破綻者でも殺したいくらい大好きだ。
2人が抱き合っているのを凛は心底安堵して見ていた。
物騒な愛情だが白珠は幸せそうだ。
「先に帰りますか?」
「そうだね。もう、安心だ」
十六夜は黙っていた。
設楽の秘めた愛憎を故意的に操った。
愛憎を秘めてる時点で設楽は自我を保っている。
それは最悪、白珠を殺すほどの執着愛だが、家神風情の神通力より強くてタチが悪い。
今回のペール・ラシェーズ墓地での痴話喧嘩は白珠の狂言である。
家神の縄張り外で墓地を選び、更にオスカー・ワイルドの墓場で泣き叫ぶ。
嫌いだと罵り、設楽を試した。
家神の力の影響があれば設楽は怒らない。
でも、本当に自分の意志がすべてなら!
流石に設楽が殺意を抱くほど自分を愛していたとは白珠も想定外だったのだ。
「今日1日、墓場で友達の修羅場みて終わりましたね」
凛が十六夜の手を握って笑った。
せめて帰りにカフェによろうと言い合って凛と十六夜は手を繋いでペール・ラシェーズ墓地から離れて歩きだした。
修学旅行も残りわずかだ。
旅人は玄の頭を小突いた。
「お前、俺にDVしないって約束したのに」
「そんな、小さい時の記憶、忘れた」
傷の手当てをして墓地を去る旅人と玄を見守るオスカー・ワイルドおよび今はなき著名人は息を吐いた。
「やっと、静かになった。なんて、恐ろしい子供たち。ジャポンも怖いな!」
とりあえず、オスカー・ワイルドは色白で綺麗だが狂気人形のような美少年と同じくナイフ持った狂気の沙汰の少年の痴話喧嘩から解放された。
なんか、花でも供えたまえよ、と言いたい。
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成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
【花言葉】
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。
◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス
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