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忘れていたこと。
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「じゃ、そろそろ行こうか」
僕は腕時計を見てホームルームの時間まであと10分になったのを見て、彼女にそう告げる。
「そうだね。これ以上ここにいたら遅刻しちゃいそうだし」
「体調は、本当に大丈夫?あんなことがあったんだし、今日は念の為休んでおいた方が……」
「いや、大丈夫!全然歩ける!ありがとね、心配してくれて」
屈託のない笑顔を浮かべる彼女。
彼女相手なら、目を見てもいいんじゃないかと思案する。
いや、これは僕の欲だ。彼女の目を、見つめてしまいたい。そんな、欲。
彼女の目を見たら、その笑顔がより一層輝きを増すのは確実だ。だからこそ、僕は視線を上げようとして……
やめた。せっかくいい感じに話せたのに、彼女の目を見てテンパってしまっては台無しだ。僕は半ば自分に言い聞かせるように、そんなことを考えた。
「……優晴くん?どうしたの、遠い目をして」
「……ぁあ、なんでもない。行こう」
そういって、僕らは歩き出した。
僕らがクラスに着くと何やらざわざわしていた。そして、一斉に僕らに視線が飛んできた。少し、嘲笑を含んだ視線。
その時、僕は思い出した。彼女に伝えなければいかなかったこと。忘れてしまっていた。
ありがとうは伝えたが、ごめんなさいを言ってなかった。
彼女を、こんな陰湿ないじめに巻き込んでしまったことに対する謝罪を。
クラスメイトが注目していたのは、教室の後ろに張り出された新聞のような何か。うちの学校には新聞部はなかったはずだから、誰かが手書きで作ったのだろう。
けど、何のために?
そう思ってよく見ると、新聞の右上に大きく写真が貼ってあった。
それを見て、僕の背中に嫌な汗が伝った。
その写真は、ベンチに倒れ込んでいる結華と、彼女の手を握りながら不安そうな表情を浮かべる僕が写っていた。
「……いつの間に」
横にいる結華も、僕と同じように固まってしまっていた。
未だにクラスはクスクスと、陰湿な空気が渦巻いていた。
そりゃあ、元いじめられっ子と現いじめられっ子が揃っている写真があれば、面白がる人は多いだろう。
笑われているこちらの気持ちを、欠片も考えない奴らだから。
僕はいたたまれなくなり、結華の手を掴んで、廊下まで連れ出した。
驚きを隠せない彼女に、告げる。
「前から言いたかったんだけど、ホントにごめん。こんなことに巻き込んでしまって」
「ううん、気にしないで。こうなる覚悟で君を助けたんだから」
彼女は、すぐに微笑を浮かべて言った。ただ、その笑顔はどこかぎこちなく、微笑というより苦笑だった。
「……結華がそんな思いする必要ないのに。何で僕なんかを助けちゃったの?」
「そんな卑屈な考えをしないで。優晴くんが悪いところなんて1つもないでしょ?」
彼女は、本当に優しい人だ。こんな僕を救ってくれて、話しかけてくれて。
いつか、恩返しがしたい。どんな形であれ、彼女のためになりたい。
そんなことを思った時、担任が教室に入って行き、未だに後ろで騒いでいる生徒に早く席につけと言葉を飛ばす。
僕たちは少しだけお互いの顔を見やって、おもむろに教室に入った。
僕は腕時計を見てホームルームの時間まであと10分になったのを見て、彼女にそう告げる。
「そうだね。これ以上ここにいたら遅刻しちゃいそうだし」
「体調は、本当に大丈夫?あんなことがあったんだし、今日は念の為休んでおいた方が……」
「いや、大丈夫!全然歩ける!ありがとね、心配してくれて」
屈託のない笑顔を浮かべる彼女。
彼女相手なら、目を見てもいいんじゃないかと思案する。
いや、これは僕の欲だ。彼女の目を、見つめてしまいたい。そんな、欲。
彼女の目を見たら、その笑顔がより一層輝きを増すのは確実だ。だからこそ、僕は視線を上げようとして……
やめた。せっかくいい感じに話せたのに、彼女の目を見てテンパってしまっては台無しだ。僕は半ば自分に言い聞かせるように、そんなことを考えた。
「……優晴くん?どうしたの、遠い目をして」
「……ぁあ、なんでもない。行こう」
そういって、僕らは歩き出した。
僕らがクラスに着くと何やらざわざわしていた。そして、一斉に僕らに視線が飛んできた。少し、嘲笑を含んだ視線。
その時、僕は思い出した。彼女に伝えなければいかなかったこと。忘れてしまっていた。
ありがとうは伝えたが、ごめんなさいを言ってなかった。
彼女を、こんな陰湿ないじめに巻き込んでしまったことに対する謝罪を。
クラスメイトが注目していたのは、教室の後ろに張り出された新聞のような何か。うちの学校には新聞部はなかったはずだから、誰かが手書きで作ったのだろう。
けど、何のために?
そう思ってよく見ると、新聞の右上に大きく写真が貼ってあった。
それを見て、僕の背中に嫌な汗が伝った。
その写真は、ベンチに倒れ込んでいる結華と、彼女の手を握りながら不安そうな表情を浮かべる僕が写っていた。
「……いつの間に」
横にいる結華も、僕と同じように固まってしまっていた。
未だにクラスはクスクスと、陰湿な空気が渦巻いていた。
そりゃあ、元いじめられっ子と現いじめられっ子が揃っている写真があれば、面白がる人は多いだろう。
笑われているこちらの気持ちを、欠片も考えない奴らだから。
僕はいたたまれなくなり、結華の手を掴んで、廊下まで連れ出した。
驚きを隠せない彼女に、告げる。
「前から言いたかったんだけど、ホントにごめん。こんなことに巻き込んでしまって」
「ううん、気にしないで。こうなる覚悟で君を助けたんだから」
彼女は、すぐに微笑を浮かべて言った。ただ、その笑顔はどこかぎこちなく、微笑というより苦笑だった。
「……結華がそんな思いする必要ないのに。何で僕なんかを助けちゃったの?」
「そんな卑屈な考えをしないで。優晴くんが悪いところなんて1つもないでしょ?」
彼女は、本当に優しい人だ。こんな僕を救ってくれて、話しかけてくれて。
いつか、恩返しがしたい。どんな形であれ、彼女のためになりたい。
そんなことを思った時、担任が教室に入って行き、未だに後ろで騒いでいる生徒に早く席につけと言葉を飛ばす。
僕たちは少しだけお互いの顔を見やって、おもむろに教室に入った。
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