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偽善でもいい
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「さ、最初は映画館向かうんだよね?」
静寂を破ったのは結華のその確認だった。些細なことだが積極的に会話を始めてくれるのは本当にありがたい。
「そうだね。チケットも予約したし時間的に先に映画かな」
「お、ちゃっかり予約してくれてるのポイント高いねぇ~」
「満席で見れないのは最悪だからね。世間知らずの僕でもそれくらいのことはわかるよ」
「意外と頼りになるね、優晴くん!」
「……意外とは余計だよ」
あまり褒められ慣れてない僕は結華の怒涛の褒め言葉に頬が緩み切ってしまいそうだったのでちょっとだけそっけない返しになってしまった。
(やっぱりまだ人と話すのは慣れないな……)
まあ数日前まで人に話しかけられたら即座にテンパってたから結華とこれだけ自然に会話ができていることだけでも奇跡なのだが。
……いや、これだけ楽に会話ができるのは結華の性格あってのものか。
未だに彼女以外の人とはまともに話せる自信はなかった。
「……近頃の映画ってどうなんだろ、いろんな人から面白いって聞くけど」
結華は自分のチケットを眺めながらつぶやく。
僕らが観る映画のタイトルは『君が残した希望』。かなりありきたりな感動系の映画のタイトルだ。
「私最近映画とか全然観てなかったから雰囲気とか忘れちゃったな」
「……意外だね、君は友達とかと良く観るんだと思ってたけど」
言ってからはっと気づいた。彼女のその持ち前の明るさのせいだろうか、彼女が病気を患っていることを忘れてしまっていた。病気で休みがちな彼女にはおそらく一緒に映画を観に行く友達は少ないのかもしれない。しかも、今は僕のせいで学校ではいじめを受けている。それに気づいた時、僕は自分の発言を後悔した。
「……どうしたの?そんな思い詰めた顔して」
「……あ、いや、何でもないよ」
気づいていないふりをしてるのか、はたまた本当に気づいていないのかわからないが、何とか自然な会話に戻ったので少し安堵した。
……ふむ。
映画を観終わった後、僕はとても満足しているとは思えなかった。
迫力などは、映画でしか味わえないものがあったが、内容はタイトル通りシンプルでありきたりなボーイミーツガールだった。
何にも無関心だった男子が美少女の言葉に心を動かされ、美少女が事故に遭いそうになった時に主人公がその子を庇って死んでしまうという、正直次の展開が読めすぎてしまうようなもの。
内容だけなら、僕でも思いつくことができそうな、興醒めなものだった。というのに……
「うう……緋赤くん~」
俺の隣で映画館のロビーを歩いている結華は映画に出てきた主人公の名前を口にしながら、目を潤ませていた。それはそれは、今にも泣き出してしまいそうなほど。
「……そんなに感動したの?」
「するでしょー!アカデミー賞もんだよこの映画!」
それは、少々言い過ぎではないだろうか。確かに感動的なBGMなどでそれっぽい雰囲気は醸し出されていたが……
この映画をバカにする気は全くないが、これがそんな偉大な賞を取ったらアカデミー賞に失礼というものだと、僕は感じた。
「特に泣きじゃくる女の子に男の子が最期の言葉を言う時!あの時は涙が出たよ~」
確か、『俺の分まで幸せに生きてくれ』、だっただろうか。実にありきたりな最期の言葉である。うるうると目を輝かせている結華とは対照的に、あまり感情が感じられない僕の目を見て結華は言う。
「優晴くんはあんまりお気に召さなかったの?」
「い、いや、そういうわけじゃないしもちろん面白かったよ。ただちょっとありきたりだったかな~って思って」
「なるほどね~。確かにストーリー構成は結構王道だったかもね。でも私ああいう献身的な愛好きだな。キュンっとくるよ!」
結華は身振り手振りで大きく語る。なるほど彼女にとってはこの映画は本当に感動的で面白かったらしい。
それについてとやかく言うつもりもないし言ってもそれは全く生産性のないものだろう。僕らがその映画の登場人物について言い合っても映画の内容が変わるわけでもないし。
……そう、思っていたのに。
「……あんなのただの偽善だよ」
僕の口からは、僕の意思とは反してそんな言葉がぼそっとでてきた。言ってから、ハッと気づく。が、もう遅かった。
結華は驚きと困惑が入り混じった顔で僕の目を見つめていた。
「あ……ご、ごめん、何でもない……」
かなり気まずい空気が僕らの間を流れる。何であんなことを言ってしまったんだと、過去の自分に問い正したくなる。
チラッと彼女の顔を伺うと、何を言ったらいいかわからないと言うような困惑に満ちた表情をしていた。
「……私はそれでもいいと思う」
結華はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「偽善だって、いいじゃん。私は偽善でも行動してくれたことを不快に思ったりしないよ」
「……」
何も言い返せなかった。今でも僕の意見は変わらないが、彼女の弱気ではありつつもまっすぐな眼を見たら反論なんて出来なかった。
僕は結局それから何も言えず、とりあえず外の空気が吸いたくて映画館を出るのだった。
静寂を破ったのは結華のその確認だった。些細なことだが積極的に会話を始めてくれるのは本当にありがたい。
「そうだね。チケットも予約したし時間的に先に映画かな」
「お、ちゃっかり予約してくれてるのポイント高いねぇ~」
「満席で見れないのは最悪だからね。世間知らずの僕でもそれくらいのことはわかるよ」
「意外と頼りになるね、優晴くん!」
「……意外とは余計だよ」
あまり褒められ慣れてない僕は結華の怒涛の褒め言葉に頬が緩み切ってしまいそうだったのでちょっとだけそっけない返しになってしまった。
(やっぱりまだ人と話すのは慣れないな……)
まあ数日前まで人に話しかけられたら即座にテンパってたから結華とこれだけ自然に会話ができていることだけでも奇跡なのだが。
……いや、これだけ楽に会話ができるのは結華の性格あってのものか。
未だに彼女以外の人とはまともに話せる自信はなかった。
「……近頃の映画ってどうなんだろ、いろんな人から面白いって聞くけど」
結華は自分のチケットを眺めながらつぶやく。
僕らが観る映画のタイトルは『君が残した希望』。かなりありきたりな感動系の映画のタイトルだ。
「私最近映画とか全然観てなかったから雰囲気とか忘れちゃったな」
「……意外だね、君は友達とかと良く観るんだと思ってたけど」
言ってからはっと気づいた。彼女のその持ち前の明るさのせいだろうか、彼女が病気を患っていることを忘れてしまっていた。病気で休みがちな彼女にはおそらく一緒に映画を観に行く友達は少ないのかもしれない。しかも、今は僕のせいで学校ではいじめを受けている。それに気づいた時、僕は自分の発言を後悔した。
「……どうしたの?そんな思い詰めた顔して」
「……あ、いや、何でもないよ」
気づいていないふりをしてるのか、はたまた本当に気づいていないのかわからないが、何とか自然な会話に戻ったので少し安堵した。
……ふむ。
映画を観終わった後、僕はとても満足しているとは思えなかった。
迫力などは、映画でしか味わえないものがあったが、内容はタイトル通りシンプルでありきたりなボーイミーツガールだった。
何にも無関心だった男子が美少女の言葉に心を動かされ、美少女が事故に遭いそうになった時に主人公がその子を庇って死んでしまうという、正直次の展開が読めすぎてしまうようなもの。
内容だけなら、僕でも思いつくことができそうな、興醒めなものだった。というのに……
「うう……緋赤くん~」
俺の隣で映画館のロビーを歩いている結華は映画に出てきた主人公の名前を口にしながら、目を潤ませていた。それはそれは、今にも泣き出してしまいそうなほど。
「……そんなに感動したの?」
「するでしょー!アカデミー賞もんだよこの映画!」
それは、少々言い過ぎではないだろうか。確かに感動的なBGMなどでそれっぽい雰囲気は醸し出されていたが……
この映画をバカにする気は全くないが、これがそんな偉大な賞を取ったらアカデミー賞に失礼というものだと、僕は感じた。
「特に泣きじゃくる女の子に男の子が最期の言葉を言う時!あの時は涙が出たよ~」
確か、『俺の分まで幸せに生きてくれ』、だっただろうか。実にありきたりな最期の言葉である。うるうると目を輝かせている結華とは対照的に、あまり感情が感じられない僕の目を見て結華は言う。
「優晴くんはあんまりお気に召さなかったの?」
「い、いや、そういうわけじゃないしもちろん面白かったよ。ただちょっとありきたりだったかな~って思って」
「なるほどね~。確かにストーリー構成は結構王道だったかもね。でも私ああいう献身的な愛好きだな。キュンっとくるよ!」
結華は身振り手振りで大きく語る。なるほど彼女にとってはこの映画は本当に感動的で面白かったらしい。
それについてとやかく言うつもりもないし言ってもそれは全く生産性のないものだろう。僕らがその映画の登場人物について言い合っても映画の内容が変わるわけでもないし。
……そう、思っていたのに。
「……あんなのただの偽善だよ」
僕の口からは、僕の意思とは反してそんな言葉がぼそっとでてきた。言ってから、ハッと気づく。が、もう遅かった。
結華は驚きと困惑が入り混じった顔で僕の目を見つめていた。
「あ……ご、ごめん、何でもない……」
かなり気まずい空気が僕らの間を流れる。何であんなことを言ってしまったんだと、過去の自分に問い正したくなる。
チラッと彼女の顔を伺うと、何を言ったらいいかわからないと言うような困惑に満ちた表情をしていた。
「……私はそれでもいいと思う」
結華はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「偽善だって、いいじゃん。私は偽善でも行動してくれたことを不快に思ったりしないよ」
「……」
何も言い返せなかった。今でも僕の意見は変わらないが、彼女の弱気ではありつつもまっすぐな眼を見たら反論なんて出来なかった。
僕は結局それから何も言えず、とりあえず外の空気が吸いたくて映画館を出るのだった。
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