この醜悪な世界に咲いた、一筋の光を。

蒼紅

文字の大きさ
11 / 12

間接キス!?

しおりを挟む
 少々コンビニで時間を潰し、いい時間になったので集合場所に向かう。暑すぎる外気に抵抗するように買ったばかりの水を喉に流し込んだ。
 集合場所に到着すると、すでに結華が待っていた。
 彼女はこちらに気づいていない様子で、キョロキョロと辺りを見渡している。小動物みたいで可愛い。
 彼女はとてもおしゃれな格好をしていて、ジョブズスタイルの僕はちゃんとした服も揃えときゃよかったなと少しだけ後悔した。
 目の保養にしばらく彼女の様子を眺めていると、ふと彼女と目が合った。トコトコと僕の元までやってくると、
「女性を待たせちゃダメでしょ……っていうかなんでそっちから来たの?」
 と聞いてきた。コンビニは駅の改札とは反対方向にあったから僕がいた場所を不思議に思ったのだろう。
「ごめん、コンビニに行ってたんだ。ていうか来るの早いね、まだ10分前だよ?」
「だって楽しみだったんだもん!」
 そう言うと、彼女は突然ニシシっと小悪魔っぽく笑った。この顔は、何かろくでもないことを思いついた時の顔だ。出会って数日しか経ってないがなんとなくそう思った。
「にしても、今日ホントに暑いね~。ちょっと喉が渇いてきちゃった」
「じゃあどこかカフェにでも寄ろうか」
「いや、それはちょっと面倒かな。ほんのちょっと喉が渇いただけだから」
「そう?じゃあ僕がさっき行ったコンビニで何か買おう」
「それも面倒。早く君と遊びに行きたいからコンビニなんかで時間潰したくないよ」
「君は結構わがままだね」
 しかもその発言はコンビニにかなり失礼な気がする。途方に暮れ、僕は尋ねる。
「じゃあ、どうしたいの?」
 すると、彼女は一瞬ためらって、口を開く。
「君の水、ちょっともらえないかな?」
「……え!?」
 予想外の申し出に素っ頓狂な声をあげてしまった。
「大丈夫、そんなにいっぱい飲まないよ。ちょっとだけ」
「いや、量の問題じゃなくてね」
「じゃあ何も問題ないじゃん!ああ、暑すぎて体調悪くなってきたな~。水が欲しいな~」
 白々しいにも程がある演技だった。でも確かに彼女の頬は少し赤く上気していた。もしかしたらホントに体調が悪いのかもしれない。
 ……いや、体調が悪いのなら少しの水でどうにかなるとはとても思えないが。
「で、でもそれって間接キ…」
「大丈夫、私は気にしないから!」
 僕が気にするんだっつーの。
 だが、彼女の目には強い意志があった。僕が折れないと退くつもりはない、という意志がひしひしと伝わってきた。
「……わかったよ、ちょっとだけだからね」
「やった、ありがと!」
 そういってペットボトルを受け取る結華。少し戸惑いながら、キャップを外す。
「……わ、私滝飲みあんま得意じゃないから、口つけていい??」
 遠慮がちにそう聞いてくる。全く、戸惑うくらいならやらなきゃいいのに……
「いいよ、気にしない」
 それを聞いて彼女はおずおずと飲み口に口をつけ、2口程度喉を潤した。
「あ、ありがと。助かったよ」
「どういたしまして」
 未だに彼女の頬は赤く染まっている。僕は鈍感系主人公でもなんでもないから、多少なりとも彼女が照れているのが読み取れた。
 そんな顔されたら僕の方まで恥ずかしくなってくるんだが。
 少し気まずいが、不快じゃない沈黙を感じながら、僕らは改札を背に歩き出すのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...