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第182話 魔王のモノマネふたたび
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フランスは、ひとしきり笑って、ちょっと疲れて椅子に沈み込んだ。
ブールジュはちっとも疲れていない様子で、さらにイギリスに質問をする。
「ところで、なんだって処罰しなかったんですか? 陛下が赤い竜を打ち倒して帰って来たのに、隣国のお姫様と弟君は、しれっと結婚したんですよね?」
「わたしが赤い竜を倒した後、一年ほど眠ったままだったからな」
フランスは、思わず姿勢を正して聞いた。
「えっ、そうだったの?」
「ああ。息はあっても目覚めないわたしを待つ者もいたが、絶望的だろうと思う者がほとんどだったらしい。それで、弟が次期公王となって、隣国の姫を娶った。わたしが目覚めたのは、その結婚式の三日前だ」
ブールジュがためらいなく聞いた。
「見たんですか、結婚式?」
イギリスは、落ち着いた声で答える。
「こっそり見に行った。豪華な式だったよ」
「……」
「……」
ブールジュが、ぶどう酒を勢いよく飲んでから言った。
「その後、その隣国のお姫様と会うようなことは、あったんですか?」
「二度、あったな」
「二度も! 何の用で来たのよ、モップ女!」
「一度目は、公王の座が、弟からわたしに戻された時だ。赤い竜の力で、強い戦力となったわたしを、王たるべきだと言い始めるものたちがいた。これも、権力争いのうちだが、実際のところ、あまりに強すぎる力は、その力におよばないものが治めるには、無理があった」
ブールジュが、嫌悪感をにじませた顔で言った。
「まさか、王妃でいたいがために、陛下のところに来たとか……」
「そうだ。自分は王妃たるにふさわしいものだから、わたしが王となったならば、妃に自分をすえるべきだと言っていた。弟との結婚は、自分が望んだものではないとも」
「自分が望んだものじゃないという言葉は、信じたんですか?」
「いいや。そのころには、彼女と弟が率先して、わたしが眠っている間に、婚姻と公王の座につくことを急がせていたのも知っていたし、彼女が裏でわたしをどう言っているのかも知っていた」
フランスは、辛い気持ちで聞いた。
「裏で?」
「ああ、融通の利かない、面白味のかけらもない男だそうだ。他にも、色々言っていたな……」
こんなに面白いのに?
ブールジュがさらに聞く。
「二度目はいつですか?」
「二度目は、ずいぶん年月が経ってからだった。二十年ほどはたっていたと思う。今でも、まだ愛しているかと聞かれた」
ブールジュが本気で吐きそうな声を出した。
「その時には、彼女の中でどうやら、自分がわたしの弟と結託していたことは記憶から消え去っていたようだった。弟の計略で、わたしと引き離され、結ばれなかっただけで、あの時の思いは変わらない。そう言って泣いたあと、わたしが答えないと、彼女は怒りはじめた。自分が年をとって、若い女でなくなったから、愛想をつかしたんだと、わたしを責めていた」
イギリスは淡々と続けて言った。
「正直なところ、よく分からないんだ。あの頃は、ずっと混乱の中にいるようだった。弟が主張することも、その妻となった女が主張することも、まわりの色んな人間が言うことも、日々変わった。わたしから見れば、いま説明した通りだが、彼らからすれば反論したくなるようなものかもしれない」
フランスは、思わず言った。
「あなたって、人が良すぎると思う」
「きみに言われたくない」
ブールジュが、これみよがしに大きなため息をついて、背もたれに背をあずけ、天井を見上げて言った。
「なんか、あれね~。帝国の皇帝なんて、もっと嫌な奴だと思ってたのにな~……。シャルトルくらい」
フランスは、声を大きくして言い返した。
「聖下は、嫌なやつじゃないわ!」
「え~、嫌なやつだと思うんだけどな~。なんか嘘ついてそうじゃん。わたしの本能がそう言ってる」
「言いがかりはやめて! 聖下は、天使よ! もう、完全に天使! 大・大・大! 大・天・使・様‼」
ブールジュとイギリスが同じように嫌そうな顔をした。
「ちょっと、同じ顔しないで。その顔、そっくりよ」
「この件については、ブールジュ聖女と気があうようだ」
「ええ、ほんと、そうですね」
ブールジュがふと、思い出した、という感じで言った。
「そういえば、あの広場で陛下とシャルトル教皇は、一体何の話をされていたんです? あの、フランスに手を振ってた時のやつです」
「ああ、あれか」
気になる。
そう言えば聞いてなかった。
「きみたちの国の教皇は、なかなか食えない上に、ずうずうしいほどしたたかなようだ」
それは、誉め言葉ね。
さすが、聖下。
イギリスが、ひとつため息をついてから言う。
「突然笑顔で近寄って来たと思ったら、尋問は得意かと聞くんだ」
ブールジュが驚いた様子で聞いた。
「尋問は得意か? まさか、陛下にあの尋問をするよう仕向けたんですか?」
「そうだ」
そうだったのね。
イギリスが急に、シャルトル教皇みたいな微笑み顔に切り替え、背筋をぴんとのばし、すました感じで言った。
「フランスの後ろ盾となるつもりがおありならば、その働きを示すべきではありませんか」
ブールジュが「似てる」と言って笑った。
イギリスが気分を良くしたのか、そのまま聖下モノマネをつづけた。
「このままでは、あなたがフランスに近づくことを教国としては許容できなくなる。しかし、わたしはそれを望んではいません。彼女は教国の東西に後ろ盾を持たない」
そこまで言って、イギリスが意味ありげににっこりとした。
ブールジュがさらに吹き出して笑いながら言う。
「その意味深にっこり、超似てる!」
フランスはブールジュをにらんだ。
聖下は! もっと! かっこいいわ‼
イギリスがさらにモノマネを続ける。
「あの罪人は帝国製の武器を持っていましたから、帝国の人間である可能性もあります。わたしは、陛下がお望みであれば、陛下にも尋問する権利はあると考えております」
イギリスがそこまで言って、長い髪を肩先ではらうような仕草をした。かなり、なよっとした感じで。
ブールジュが、手を叩きながら笑い転げる。
フランスは立ち上がってイギリスをにらみつけた。
よくも‼ 馬鹿にしたわね‼
フランスは、大きな声で抗議した。
「聖下は、そんな、わざとらしくなよっとした動きはしないわよ‼」
イギリスがふんと小ばかにした顔で笑ったあと、また髪をはらう仕草をした。
こんの……‼
喧嘩したり笑ったりの夜になった。
ブールジュはちっとも疲れていない様子で、さらにイギリスに質問をする。
「ところで、なんだって処罰しなかったんですか? 陛下が赤い竜を打ち倒して帰って来たのに、隣国のお姫様と弟君は、しれっと結婚したんですよね?」
「わたしが赤い竜を倒した後、一年ほど眠ったままだったからな」
フランスは、思わず姿勢を正して聞いた。
「えっ、そうだったの?」
「ああ。息はあっても目覚めないわたしを待つ者もいたが、絶望的だろうと思う者がほとんどだったらしい。それで、弟が次期公王となって、隣国の姫を娶った。わたしが目覚めたのは、その結婚式の三日前だ」
ブールジュがためらいなく聞いた。
「見たんですか、結婚式?」
イギリスは、落ち着いた声で答える。
「こっそり見に行った。豪華な式だったよ」
「……」
「……」
ブールジュが、ぶどう酒を勢いよく飲んでから言った。
「その後、その隣国のお姫様と会うようなことは、あったんですか?」
「二度、あったな」
「二度も! 何の用で来たのよ、モップ女!」
「一度目は、公王の座が、弟からわたしに戻された時だ。赤い竜の力で、強い戦力となったわたしを、王たるべきだと言い始めるものたちがいた。これも、権力争いのうちだが、実際のところ、あまりに強すぎる力は、その力におよばないものが治めるには、無理があった」
ブールジュが、嫌悪感をにじませた顔で言った。
「まさか、王妃でいたいがために、陛下のところに来たとか……」
「そうだ。自分は王妃たるにふさわしいものだから、わたしが王となったならば、妃に自分をすえるべきだと言っていた。弟との結婚は、自分が望んだものではないとも」
「自分が望んだものじゃないという言葉は、信じたんですか?」
「いいや。そのころには、彼女と弟が率先して、わたしが眠っている間に、婚姻と公王の座につくことを急がせていたのも知っていたし、彼女が裏でわたしをどう言っているのかも知っていた」
フランスは、辛い気持ちで聞いた。
「裏で?」
「ああ、融通の利かない、面白味のかけらもない男だそうだ。他にも、色々言っていたな……」
こんなに面白いのに?
ブールジュがさらに聞く。
「二度目はいつですか?」
「二度目は、ずいぶん年月が経ってからだった。二十年ほどはたっていたと思う。今でも、まだ愛しているかと聞かれた」
ブールジュが本気で吐きそうな声を出した。
「その時には、彼女の中でどうやら、自分がわたしの弟と結託していたことは記憶から消え去っていたようだった。弟の計略で、わたしと引き離され、結ばれなかっただけで、あの時の思いは変わらない。そう言って泣いたあと、わたしが答えないと、彼女は怒りはじめた。自分が年をとって、若い女でなくなったから、愛想をつかしたんだと、わたしを責めていた」
イギリスは淡々と続けて言った。
「正直なところ、よく分からないんだ。あの頃は、ずっと混乱の中にいるようだった。弟が主張することも、その妻となった女が主張することも、まわりの色んな人間が言うことも、日々変わった。わたしから見れば、いま説明した通りだが、彼らからすれば反論したくなるようなものかもしれない」
フランスは、思わず言った。
「あなたって、人が良すぎると思う」
「きみに言われたくない」
ブールジュが、これみよがしに大きなため息をついて、背もたれに背をあずけ、天井を見上げて言った。
「なんか、あれね~。帝国の皇帝なんて、もっと嫌な奴だと思ってたのにな~……。シャルトルくらい」
フランスは、声を大きくして言い返した。
「聖下は、嫌なやつじゃないわ!」
「え~、嫌なやつだと思うんだけどな~。なんか嘘ついてそうじゃん。わたしの本能がそう言ってる」
「言いがかりはやめて! 聖下は、天使よ! もう、完全に天使! 大・大・大! 大・天・使・様‼」
ブールジュとイギリスが同じように嫌そうな顔をした。
「ちょっと、同じ顔しないで。その顔、そっくりよ」
「この件については、ブールジュ聖女と気があうようだ」
「ええ、ほんと、そうですね」
ブールジュがふと、思い出した、という感じで言った。
「そういえば、あの広場で陛下とシャルトル教皇は、一体何の話をされていたんです? あの、フランスに手を振ってた時のやつです」
「ああ、あれか」
気になる。
そう言えば聞いてなかった。
「きみたちの国の教皇は、なかなか食えない上に、ずうずうしいほどしたたかなようだ」
それは、誉め言葉ね。
さすが、聖下。
イギリスが、ひとつため息をついてから言う。
「突然笑顔で近寄って来たと思ったら、尋問は得意かと聞くんだ」
ブールジュが驚いた様子で聞いた。
「尋問は得意か? まさか、陛下にあの尋問をするよう仕向けたんですか?」
「そうだ」
そうだったのね。
イギリスが急に、シャルトル教皇みたいな微笑み顔に切り替え、背筋をぴんとのばし、すました感じで言った。
「フランスの後ろ盾となるつもりがおありならば、その働きを示すべきではありませんか」
ブールジュが「似てる」と言って笑った。
イギリスが気分を良くしたのか、そのまま聖下モノマネをつづけた。
「このままでは、あなたがフランスに近づくことを教国としては許容できなくなる。しかし、わたしはそれを望んではいません。彼女は教国の東西に後ろ盾を持たない」
そこまで言って、イギリスが意味ありげににっこりとした。
ブールジュがさらに吹き出して笑いながら言う。
「その意味深にっこり、超似てる!」
フランスはブールジュをにらんだ。
聖下は! もっと! かっこいいわ‼
イギリスがさらにモノマネを続ける。
「あの罪人は帝国製の武器を持っていましたから、帝国の人間である可能性もあります。わたしは、陛下がお望みであれば、陛下にも尋問する権利はあると考えております」
イギリスがそこまで言って、長い髪を肩先ではらうような仕草をした。かなり、なよっとした感じで。
ブールジュが、手を叩きながら笑い転げる。
フランスは立ち上がってイギリスをにらみつけた。
よくも‼ 馬鹿にしたわね‼
フランスは、大きな声で抗議した。
「聖下は、そんな、わざとらしくなよっとした動きはしないわよ‼」
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