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第5章 慈愛の聖女、クラリス

41,手紙

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 結局、クラリスはタツシの近くでこっそり(と本人は思っている)オナニーするのにハマってしまい、すでにあれから2回ほどやらかした。





 数日後。

 タツシは通常通りスライム・リフレ本店で業務に励んでいた。

 そんななか、スライムからニュっと手紙が差し出された。

「あ、ありがとうスラ介。 ん? 勇者様へ? あれ、なんだろうか、また王様から何か依頼でもあるのかな? ってか、やべえ、まだ魔王を倒したっていう報告していねえじゃん!!」

 そう、魔王を倒してから一週間以上経ったもののタツシは面倒くs……あまりに早く倒してきてしまってはおかしいからと、こっそり転移で帰ってきてマッサージ店長として働いているのだ。

 つまり、勇者はまだ魔王戦に挑んでいる、というのが世間の認識だ。

(やっべ、そのことについて説教でもくらうのかな……?)

 報告をサボったのがまずかったか、と思いつつ外側の大きい封筒を開けると案の定、王族の紋章が描かれた大きな、そして絢爛な用紙の手紙が出てきた。

 恐る恐る開くタツシ。



 しかし、書いてあった文章は、全く予想もしていなかった、短い文章であった。



『勇者タツシ様。

 私、最近あなたの話を耳にして、とても興味をもってしまって、是非お会いしたいと思いましたの。今、すでにこちらに戻っているのでしょう? 私も偶然所用で一旦王都に戻ります。 是非、3日後に、王城にいらしてください。

 アルガレナ家 長女』



「アルガレナ家……? って、ああ!! 王家じゃん!」

 王家ももちろん貴族であるためしっかり家名は存在するのだが、普段人々は王家としか呼ばないし、タツシもこの世界に来た時から王家とか王様としか呼んでいなかったせいでいまいちピンとこなかった。

 と言っても、封筒にある紋章が王家のそれだったし、そもそも今タツシがいる国の名前がアルガレナ王国だったおかげですぐに思い出せたのだが。


「うーん、にしても、なんだこの『長女』って。普通名前を書くだろ手紙には……。どれだけ正体を見せないつもりなんだ……?」


 貴族の出す手紙にしてはあり得ないほど短いし、書式も雑。

 普通の貴族に王族がこんなものを出したら信用が落ちること間違いない。ただ、非常にテキトーな性格をしているタツシ相手であれば話は別だ。

(あれ、ひょっとして相手は俺のこと知っているのかなぁ……? まあ、性格くらい家族に聞けば分かるか。

 ん? ってかまてよ、文面からしてこれ、王女様に俺がすでに魔王を倒して帰ったことバレてるな……?)

 
 そのことに気づいた途端、タツシに悪寒が走った。


 第一王女は、正真正銘の化け物なのではないか。

 魔王討伐から帰ってきても一切勇者としては顔を出さず、スライム・リフレ店長としても裏方でこっそり作業しているだけで人前には一切出ていない。

 にもかかわらず、彼女はタツシがすでに店にいることを知っているのだ。


(どうやって調べたんだ……? スラ介みたいに監視をする術を持っているとか……? なんにせよ、相当ヤバイ相手なんだろうってことは間違いないな。うーん……)


 タツシは頭を悩ませ始めた。

 一体、なぜこんなにも突然王女から手紙が来たのか。

 そして、タツシの帰還を知っているのであれば当然王女はタツシが既にクラリスとくっつこうとしていることも知っているはずだ。


(興味がある、ってのがそういう意味じゃなくって戦力として、とかスライムへの、とかそういうのであれば別にいいんだけど……)

 とにかく、もし男として興味があるとでも言われたらすぐさまクラリスのことを話して引き下がらなければならない。

 ただ、さらにもう一つタツシには不安があった。

(第一王女様なぁ……千年に一度の奇跡とか言われているしなぁ……。俺が一目惚れしたりしないよな……?)

 そう、写真や肖像画などは一切ないため分からないが、第一王女は相当な美人だという噂があるのだ。クラリスもかなりの美人だが、しかしいまいち絶世の美女を目の前にして正気でいられる自身もない。


「なあスラ介、もし俺が王女様を前にして少しでも気が変になりそうになったら、すぐに気絶させてくれないか? 俺、クラリス以外は愛したくないからさー。マッサージは他の人にもするけど。」


 ぷるん。

 スライムはただちょっと真剣に悩んでいるタツシを見ながら頷いた。
 
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