帰還

Tro

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#17 魔法少女の涙

第4.1話 10年と1時間前

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地中から吹き出る魔力は光柱となって夜空を艶やかに照らしています。それは月か何かの光を反射してる、のではなく、噴出する魔力自体が発光しているのです。それは見事で綺麗な、そして神秘的な光景となって夜空を賑やかせています。これを目撃した人々は——冬の寒い時期でもあり、そう多くはありませんでしたが、チラチラと輝く光柱を遠くから眺めた、——いえ、その光景に目を疑った女性が居ました、それが新米記者の美津子です。ある専門家の元へ原稿を受け取りに車のハンドルを握っていたちょうどその時、山向こうにニョキッと聳える光柱を目撃、「なにっ! なになに? なんなのよぉぉぉ」と危うくあらぬ方向にハンドルを切りそうになり冷静さが吹き飛んでしまった美津子、あぁ、これまでか。

しかし、そこは防衛本能が働き急ブレーキ。これに後続車が巻き込まれ——る程の交通量ではなかったので何とか無事に停車。震える身体で車外に飛び出し、目と口を大きく解放、光柱に見とれてしまいました。因みに身体が震えていたのは武者震いです。

「あっ、あうぅぅぅ、あぁ」

美津子の口から飛び出した声は、言葉というよりも獣の叫び声、に近いもの。防衛本能の次に野生が目覚めたのかもしれません。そしてホゲー、と自然の脅威に圧倒されながら次第に我を取り戻した後(単に飽きてしまった)、条件反射的に携帯のカメラレンズを夜空に向けてパシャリ、そしてまたパシャリ。新米ながらも湧き出る記者魂がそうさせるのか、寒さも忘れて夢中になり心奪われた美津子、——でしたが、あくまで路上のこと、やって来た後続車の警笛で顔をしかめながらも現世に心を戻した、ようです。

そして幸運? はまだ続きます。美津子が撮影した光柱は翌朝の新聞、その片隅ではありますが、『夜空を騒がせた原因不明の発光』として掲載され、美津子は鼻を高くしたそうです。「これで私も一丁前」と胸を張った、かもしれません。



流出する魔力を抑えるべく神社の地下で汗を流したオジさんたち、そのリーダー的存在のオジさんが全ての処置を終えて帰宅したのは午前零時も迫ろうかという時刻になっていました。そこに、眠い目をこすりながらトコトコとやって来たケイコです。

「魔王、お帰りなさい。今日も労働に励んだか? うん、良い心がけじゃ」

「あっ、ああぁ」

魔王と呼ばれたオジさんはケイコの父親で一族を代表する人物、のようです。よって、魔王と言われればそうかもしれません。ですが娘から魔王呼ばわりされることには、ちょっと抵抗があるようで、出来れば家庭内では魔法なんたらには触れたくない、普通の暮らしがしたいだけなんだ、だからあまり世間には知られたくない、と考えています。しかし今は気を使いすぎたせいか、どっと疲れが体を揺らしています。ですからもう、何かを言う気力もトボトボ状態、ササッと横になりたい年頃なので、適当に返事をしました。

「あらら、起きちゃったのね。もう寝る時間はとっくに過ぎてるから、さあ、寝ましょうね」

ケイコの背後から現れた母親は帰宅直後でグッタリとしている夫にチラッと視線を送っただけで、すぐにケイコの手を引いてベッドのある部屋へと歩いて行きます。その二人の後ろ姿を見送りながら、「俺に、お帰りの一言もないのかよぉぉぉ」と声にならないような声で呟く父親です。すると、それが聞こえたのでしょうか、歩みを止めずに横を向いたまま、

「後で、話があるんだけど」

と妻の声が。それに一瞬ドキッとした夫は思わず下を向いてしまいました。「出来ることなら付き合いたいところだが、今の俺は精も根も尽き果てようとしている。だから今は、今だけは勘弁してください」と言うか言うまいか途方に暮れる夫です。すると、それが伝わったのかそれとも漏洩したのでしょうか、

「魔王様は……お疲れのようね。まあいいわ、明日にでも・・しましょうか」

と妻の声が。それにホッとした夫は急に力が湧いかのようにサクッと寝室へと移動し就寝、はやきこと風の如しです。



それは、月が綺麗な円を描く、この世ともあの世とも言えぬたたずまいに満ちた、または支配された夜、だったと記憶しております。穏やかに吹く風に乗って月の光をたたえた雲は、優雅でありながら儚さを人の心の中に置いて行かれました。そうして瞬く星の空にあお色が染み出す頃、静寂の内に力強さを秘めた光が訪れ、告げるのです、そう、新しい一日が始まると。

「ケイコぉぉぉ、お父さん、起こしてくれる?」

ケイコの母親が台所でトンタン・ガッタンしているところに、目覚めたばかりのケイコがフラッと顔を見せてきました。それは、如何にも通り掛かっただけ、と言いたげな表情でしたが、

「まかせてぇぇぇ」

と、大役を与えられた使命に体をシャキッとさせたケイコです。そしてトコトコ・スコトコと父親の眠る寝室へ、と向かいましたが、浮かない顔で戻ってきてしまいました。

「おきたぁ?」と尋ねる母親の声に、

「うぅうん、ピクともしない。あれはダメだよ」

と作戦の失敗を報告するケイコです。それに、

「仕方ないわねぇ、昨夜ゆうべは遅かったからねぇ」と母親が言ったとこで、

「ハクショぉぉぉぉぉン」

が、どこからともなく聞こえて参りました。それに、「ムムムッ」と反応した母親です。視線と両耳をピクッと動かし、発生源を捜索・検索・追跡すると——分かりました。飽くまで推測ですが、すこぶる冷える外から聞こえる・聞こえたようです。更に、聞き覚えるのある声質でもある、という残念な結果も付いてきました。

その正体とは、青天井のもと、何故か乱れきった姿で寝ている、魔王と呼ばれる父親がベッドの上で大きなクシャミをしたところです。当然、真冬の朝、それも外で寝ていれば当然の結果でしょう。誰もが何故と首を傾げるところですが、そのような性癖なのかもしれません。

◇◇
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