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#17 魔法少女の涙
第5.1話 あれから10年
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世界の喧騒が闇に飲み込まれ……そうな、夕闇迫る頃、机に向かいながら溜息をつく美津子の姿がありました。あれから10年、そう、新米記者だった美津子は、今では立派にフリーな記者になり、日々、輝く汗をかいている——はずでしたが、それは飽くまで理想、現実は泣かず飛ばずの自称「記者」として冷や汗をかいている毎日です。そうして机に向かったまま全く手が動いていないのは、「こんなはず……じゃないはず、よね」と心の中で繰り返し唱えていたからでしょう。しかし、その呪文は全く効果を発揮せず、悪戯に時が過ぎて行くばかりです。それはつまり世界中の誰よりも早く歳を取りお腹が空き、あらゆる請求書が一番に舞い込んで来る、ということを暗示しています。万事休す、という程ではありませんが、策が尽きた、または良い案が思い浮かばない、または運に見放された空っぽの私、という程度でしょうか。
「負けてたまるか! ここが踏ん張り時でしょう。その先にはきっと、きっと、きっと、……なんだろう」
声に出して、挫けそうな自分を励ますつもりでしたが、どうやら世間の重さ? それを「重圧」と例えるなら、その重みで身動きが取れない感覚に襲われる美津子です。ですが、なんとかそれを跳ね返したい、私の運は、運は、運は、これまでかぁぁぁ、と余計に気分が滅入ってしまったようです。
そうして挫けそうな……いいえ、挫けてしまい涙目になったその目が見たものとは、偶然かそれとも……偶然目にした過去の栄光、そう、夜空に燦然と輝く光柱を写した写真と、人生で一度だけ新聞に掲載された記事の紙片が収まる写真立てです。まさしく美津子にとって今までの人生で一番輝いた過去と言ってもよいでしょう。その輝きは花火のようにドカーンと打ち上がり、パッと花開いて……真っ暗な夜空に消えてしまいました。それを、瞼を閉じるたび思い出す美津子、ああぁ、人生は、楽しい人生はこれっきり、もう二度とやってこない有頂天になれた私——と嘆いたところで、復活の呪文を思い付いたようです。それは、困った時の神頼み、原点回帰です。幸せだったあの頃、幸運が向こうから転がり込んで来たその昔その場所へ御利益を拾いに行こうと考えました。あの光柱を目撃した運命の分岐点、ちょうど時刻もだいたい今くらいだったはず、と車の鍵をジャラジャラ鳴らしながら出掛ける美津子、いざ出陣、ブロロロロ・ローンです。
◇
宵闇の中を車で疾走する美津子です。疎らな街灯と伸びた白線の向こうを切り裂くように照らすヘッドライトが美津子の意気込みを感じさせます。行き交う車も少なく、思わずグイッとアクセルを踏みたくなるような、そんな心を刺激しそうな真っ直ぐな道をヨタヨタと車を走らせる美津子は安全第一なのか、それとも……です。その美津子が操る車は、知っている人ならそれなりの高級車に見えることでしょう。しかし、そこに人どころか車も滅多に通らない、まるでどこかの異次元空間を彷徨っているかのようで、せっかくの高級車も見栄を張ることが出来ません。
ところで、美津子と高級車の組み合わせはどう見ても不釣り合いでしかありません。収入の細い美津子が無類の車好き、という訳でもなく、まだまだ返済の道半ば、家計の重しになっているのは明らかです。それでも……見栄っ張りというか、無計画に車を購入し、支払いは出世払いで楽勝と考えた、ようです。しかし、このままでは何《いず》れ手放すことになるでしょう。でも今はそんな些細な事は忘れ、突き進む先に在る(はずの)人生を変える何かに目が眩んでいる美津子です、ブロローン。
◇◇
「う~ん、この道で……間違いない、はず」
町から町へと駆け抜ける美津子の視界には10年前に通り掛かった「現場」が、つい昨日のように思い描かれる——微妙に異なる道筋に不安が募っているようです。しかもその「現場」を知っているのは自分だけ、自分を信じろ、……自分に間違いはない、……なんだかんだで運命が導いてくれるはず、と心細さを払拭する呪文を唱えながら突き進んで参ります、ブローン。
「たぶん、この辺り」
道路の端に車を止めて周囲を確認する美津子です。そういえば見覚えのある風景、いや、覚えているはず、思い出せ自分、と呪文を唱えますが、見覚えがあるどころか周囲は真っ暗、闇の中で過去の記憶と照合しようにもそれは無理というもの。まして10年前に通ったきりの、まさしく前人未到の領域となれば——
「間違いない、ここだわ」
と断定し車から降りた美津子です。そして適当に遠くを眺めますが、昼間であれば周囲を小高い山に囲まれた風景を見ることが出来たでしょう。しかしそれも今は闇に溶け込み、存在自体が怪しいものとなっています。もし、方角が正しければ、あの山の向こうか、それともその手前あたりで光の柱が見えた「現場」がここということになるでしょう。しかし仮にそうであったとしても今現在、特に何があるということもなく、おまけに行き交う車も人も昆虫も見当たりません。ただ、この場所に意味があるのか、それとも勝手に意味付けしていくのか、後は美津子次第ということになります。つまり、わざわざ出掛けて来たが、得るものは何も無く、空振りだったと認めるかどうか、それが試されいることでしょう。
「新鮮な空気を吸ったら、何もかも、悩みとか心配事とか明日の事とか全部全部、取るに足りない微細な事。そんな事くらいで動じる私ではなーい。……御利益はあった、謹んで賜ろうではないか、はっはぁぁぁ」
車外で体が冷えたのでしょうか、背中を丸めて車に戻る美津子です。そして車のエンジンをブロロンと掛け帰路につくため車を発進、そのまま真っ直ぐ進んで行きます。——えっ? Uターンしないでそのまま帰れるかって? その答えは「たぶん」です。何事も引き返すことを嫌う美津子、それは諦め、挫折、敗北を意味し、ただひたすら前進あるのみ、振り返ってはダメ、だって、心が挫けちゃうじゃないの、だから前へ、もっと前へ、前のめりになって進むのよ、の美津子なのです。しかし、人生を振り返ることは大好きなのでしょう。だって、何時もしていることですから、ブロローン。
◇◇
「負けてたまるか! ここが踏ん張り時でしょう。その先にはきっと、きっと、きっと、……なんだろう」
声に出して、挫けそうな自分を励ますつもりでしたが、どうやら世間の重さ? それを「重圧」と例えるなら、その重みで身動きが取れない感覚に襲われる美津子です。ですが、なんとかそれを跳ね返したい、私の運は、運は、運は、これまでかぁぁぁ、と余計に気分が滅入ってしまったようです。
そうして挫けそうな……いいえ、挫けてしまい涙目になったその目が見たものとは、偶然かそれとも……偶然目にした過去の栄光、そう、夜空に燦然と輝く光柱を写した写真と、人生で一度だけ新聞に掲載された記事の紙片が収まる写真立てです。まさしく美津子にとって今までの人生で一番輝いた過去と言ってもよいでしょう。その輝きは花火のようにドカーンと打ち上がり、パッと花開いて……真っ暗な夜空に消えてしまいました。それを、瞼を閉じるたび思い出す美津子、ああぁ、人生は、楽しい人生はこれっきり、もう二度とやってこない有頂天になれた私——と嘆いたところで、復活の呪文を思い付いたようです。それは、困った時の神頼み、原点回帰です。幸せだったあの頃、幸運が向こうから転がり込んで来たその昔その場所へ御利益を拾いに行こうと考えました。あの光柱を目撃した運命の分岐点、ちょうど時刻もだいたい今くらいだったはず、と車の鍵をジャラジャラ鳴らしながら出掛ける美津子、いざ出陣、ブロロロロ・ローンです。
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宵闇の中を車で疾走する美津子です。疎らな街灯と伸びた白線の向こうを切り裂くように照らすヘッドライトが美津子の意気込みを感じさせます。行き交う車も少なく、思わずグイッとアクセルを踏みたくなるような、そんな心を刺激しそうな真っ直ぐな道をヨタヨタと車を走らせる美津子は安全第一なのか、それとも……です。その美津子が操る車は、知っている人ならそれなりの高級車に見えることでしょう。しかし、そこに人どころか車も滅多に通らない、まるでどこかの異次元空間を彷徨っているかのようで、せっかくの高級車も見栄を張ることが出来ません。
ところで、美津子と高級車の組み合わせはどう見ても不釣り合いでしかありません。収入の細い美津子が無類の車好き、という訳でもなく、まだまだ返済の道半ば、家計の重しになっているのは明らかです。それでも……見栄っ張りというか、無計画に車を購入し、支払いは出世払いで楽勝と考えた、ようです。しかし、このままでは何《いず》れ手放すことになるでしょう。でも今はそんな些細な事は忘れ、突き進む先に在る(はずの)人生を変える何かに目が眩んでいる美津子です、ブロローン。
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「う~ん、この道で……間違いない、はず」
町から町へと駆け抜ける美津子の視界には10年前に通り掛かった「現場」が、つい昨日のように思い描かれる——微妙に異なる道筋に不安が募っているようです。しかもその「現場」を知っているのは自分だけ、自分を信じろ、……自分に間違いはない、……なんだかんだで運命が導いてくれるはず、と心細さを払拭する呪文を唱えながら突き進んで参ります、ブローン。
「たぶん、この辺り」
道路の端に車を止めて周囲を確認する美津子です。そういえば見覚えのある風景、いや、覚えているはず、思い出せ自分、と呪文を唱えますが、見覚えがあるどころか周囲は真っ暗、闇の中で過去の記憶と照合しようにもそれは無理というもの。まして10年前に通ったきりの、まさしく前人未到の領域となれば——
「間違いない、ここだわ」
と断定し車から降りた美津子です。そして適当に遠くを眺めますが、昼間であれば周囲を小高い山に囲まれた風景を見ることが出来たでしょう。しかしそれも今は闇に溶け込み、存在自体が怪しいものとなっています。もし、方角が正しければ、あの山の向こうか、それともその手前あたりで光の柱が見えた「現場」がここということになるでしょう。しかし仮にそうであったとしても今現在、特に何があるということもなく、おまけに行き交う車も人も昆虫も見当たりません。ただ、この場所に意味があるのか、それとも勝手に意味付けしていくのか、後は美津子次第ということになります。つまり、わざわざ出掛けて来たが、得るものは何も無く、空振りだったと認めるかどうか、それが試されいることでしょう。
「新鮮な空気を吸ったら、何もかも、悩みとか心配事とか明日の事とか全部全部、取るに足りない微細な事。そんな事くらいで動じる私ではなーい。……御利益はあった、謹んで賜ろうではないか、はっはぁぁぁ」
車外で体が冷えたのでしょうか、背中を丸めて車に戻る美津子です。そして車のエンジンをブロロンと掛け帰路につくため車を発進、そのまま真っ直ぐ進んで行きます。——えっ? Uターンしないでそのまま帰れるかって? その答えは「たぶん」です。何事も引き返すことを嫌う美津子、それは諦め、挫折、敗北を意味し、ただひたすら前進あるのみ、振り返ってはダメ、だって、心が挫けちゃうじゃないの、だから前へ、もっと前へ、前のめりになって進むのよ、の美津子なのです。しかし、人生を振り返ることは大好きなのでしょう。だって、何時もしていることですから、ブロローン。
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