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#17 魔法少女の涙

第5.3話 魔王の娘

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こうして全力で注がれる魔力を横目で見ながら、鼻歌交じりにウキウキで給油するコスプレ少女店員を観察する美津子です。もちろん、疑問と不思議が頭の中で相撲をとっています。そうなると居ても立っても欠伸も出来ない性分、それとも職業柄、血液の循環が速まるのでしょうか。

「ねえ、ちょっと聞いていいかな。あなた、バイトさん……だよね。その、それって制服なの? 嫌? じゃない?」

コスプレ少女店員のフリフリ・キラキラの衣装をじっと見つめながら、もし強制されているなら私がガツーンと、……ガツーンと世間に広めて経営者にガツーンと反省させる必要がある、と正義感がメラメラと燃えるのでした。この世は冷たい風ばかり吹くけれど、暖かい手を差し伸べる、そんな、そんな? 勇気が? 心があるってことを、この子に伝えたい、それが私の仕事、使命、運命、なすべきごとと心得よ、と、きっと私の言葉に、善意に涙しているはず、と思いきや、口をへの字にしていたフリフリ・キラキラのコスプレ少女店員です。そして、美津子の心を折るように、

「なんで?」

と返ってきました。もちろんこれでメラメラの炎は鎮火し、関わらないという掟を破ってしまった愚かな自分が恥ずかしくなった、なってしまえの美津子です。そして敗北者がとる行為として視線をオヨヨと泳がせるのでした。そこで、

「あっ、なんでもないの、気にしないで」

と白旗をフリフリすると、暫し考え込むような表情で首を少し傾げたフリフリ・キラキラのコスプレ少女店員です。そして、

「魔王の娘だから」

と話し始めたではありませんか。これに、何故か救われた思いがした美津子です。しかしそれと同時に「魔王?」というのが引っかかります。またしても聞き間違いではないかと耳を一層研ぎ澄まし次の言葉を待ちます。すると——

「魔王がやってるの。それを手伝ってるの」

短い言葉の中に真相を探ろうと、何度もコスプレ少女店員の言葉を頭の中で繰り返す美津子です。まず、「魔王が」ということは魔王=経営者ということであり、「魔王の娘」となれば父親が経営するスタンド、つまり家業を手伝っている、ということが分かります。しかし何故、父親を魔王と呼ぶのか、そして何故、というか、その娘の格好は何故なのか、それともあれ、家族揃ってアレなのか、と疑問が疑問を呼んで参ります。これはまさしく「深入り禁止」の兆候、これ以上踏み込んだら深淵がぁぁぁに飲み込まれてしまう、引き返せ美津子です。

「そうなんだぁ、ふ~ん、魔王、ねえぇ。……ということは、魔法が使えたりする? のかな」

「ふ~ん」と言って終わりにしようと思っていた美津子です。が、思わず、つい、というか、まさしく魔が差したようです。自分でも「なんで?」と慌てて口を塞いだものの、時すでに遅しのようです。

「……魔王はね、使えるの。だけど私は使えないの、魔力が無くなったの」

そう言い終わると今にも泣き出しそうなくらい悲しい表情を浮かべる魔王の娘店員です。これには言っている内容云々関係なくマズイことを聞いてしまったと後悔する美津子です。でも、もし魔法が使えると言っていたら「見せて見せて」とせがんだことでしょう。それはともかくソッポを向いて話をどこかに飛ばして、これで終わりにしようと画策、……しましたが、

「でもね、これ、秘密なの。知らない人に話したらダメなの」

と続けてきました。その顔は何かを企む秘密結社特有の、ニヤリなのか秘密を知った以上タダで返すわけには行かないよ、ということを示唆しているのではないか、と震える美津子です。もしかしたら私は始末される? 始末ってなに? 私は何も聞いていないわよ、あの子が勝手に話したんじゃないの、濡れ衣よ、無実よ、関係無いわよぉぉぉ、と心の中で葛藤し思わず喉をゴックンコさせる美津子です。そして魔の手はまだ続きます。

「でも言っちゃったもん。……うん、仕方ないもんね。もう隠してもバレたから、仕方ないよね、……うん、仕方ない……よ、だからオバさん……」

心の整理が折り目正しくついた様子のコスプレ秘密結社(店員は仮の姿)は、およそ人の目とは思えないような目付きでオバさんを、美津子を見つめたのでした。これに、オヨヨの美津子、

(仕方ない? えっ! 何が、何が仕方ないって言うのよぉぉぉ。でも、オバさんじゃないから、ないからねぇぇぇ)と心の中で叫んだのでした。しかし——

「オバさんが仲間なら……バレても平気なの。だって私が知らなかっただけだから。どうかな、オバさん?」

これに慌てて調子を合わせようと試みる美津子です。しかし、返答次第では——

「仲間? そうそう、そうなのよ。随分久しぶりだけど……大きくなったわよね。お姉さん、最初は分からなかったけど、うん、小さい時の面影が残ってるものね。お姉さんもびっくりよ、よっ、よぉ?」

「そうなんだ、なら良かったの」

そう言い終わると魔力の注入に精を出すコスプレ少女店員です。といってもすぐに入れ終わったらしく、

「オバさん、満タン、入ったの」

と同時に、出会った頃の表情に戻ったようです。これでこの場から離れれると安堵した美津子は急いでエンジンをブロローン、満タンにした出費は痛いけれど全ての不運を避けられるわけじゃないから、と自分を説得し納得させるのでした。すると、

「100万円なの、仲間だから安くしたの」

と、さも当然のように請求する強欲・ぼったくり少女店員です。これには怒りよりも呆れてしまった美津子です。どこの世界にガソリン満タンで100万円だなんて、あるのよぉぉぉ、と口を開けて叫びそうになりましたが、強欲・ぼったくり少女店員が人差し指を立てているのを発見、これは田舎あるあるジョークと見抜き、「はい、これね」と一万円札を渡しました。もちろんそれで追加を要求されることはなく、コスプレ少女店員も納得です。でも、レシートはくれそうにありませんが。

とにもかくにも満タンで一万円なら美津子にとってはお得だったようです。お釣りのやり取りも無いので、これにてサラバと車を発車させ、二度とここには来ないぞと心に誓いながら、何かを忘れているような気がしたようです。ですが、それが何だったのか思い出せない美津子は満腹になった車に、「ちょっと重くなった?」と呟きました。

夜の闇に消えて行く車を見送りながら、コスプレ少女店員ことケイコはポツリ、

「嘘ばっかり。オバさんのこと、知らないの」

と呟きました。

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