帰還

Tro

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#17 魔法少女の涙

第6話 魔界

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「あっ! うぅぅぅ」

 翌日、自宅で電気料金の請求書を見ながら唸る美津子です。その理由は電気料金の『電気』が『魔力』に書き換えられていたからです。これはきっと誰かのイタズラと断定、よって文字だけではなくこの請求書自体が信用できません。そして、この私からお金を騙し盗ろうなどふてえ・・・野郎だ、どこのどいつだ! と怒りを露わにする美津子、お肌が曲がっています。

 因みに、公共料金を含め、ほぼ全ての支払いをニコニコ現金払いする美津子です。それは、現金を唯一信用している、からではなく、銀行の口座から勝手に? 引き落とされると困るからなのです。もし残高不足になったらいざ・・というとき困るでしょう、だからそんな事態に陥った場合、暫く旅に出るのです。そうして別人となって第二か第三の人生を生きて行く、そんな決意の美津子なのです。

 しかし、請求書が届く頃なので、偽物だと言って放置しておく訳にいきません。払えるなら払う、それが美津子の方針です。そこで早速、電力会社に本物の請求書を送ってもらおうと電話をすると、自動音声が聞こえてきました。そこで用向きに応じて番号を選ぶという段階で、おかしな? 奇妙と言っても良いでしょう、音声のいたるところで『電気』ではなく『魔力』と言っている、ような気がしてきます。——いいえ、それは聞き間違い、または聞き取れないということにしたい美津子の心理がそうさせているようです。それは動悸を呼び、頭がボーっとしてきたところで電話を切ってしまいました。

 自分がおかしくなったのか、それとも世間がおかしくなったのか。その世間にネットで問い合わせると、まず初っ端から「電力? 電気? なにそれ」というお言葉が返ってきました。その代わり『魔力』という言葉のオンパレードです。——となると、ちょっと横道にれて異世界ファンタジーを覗いてみるとそこには……ありました、電気と剣が支配する世界観が、です。そこでは電気という摩訶不思議なものが存在し、重宝されているようですが、誰もそれで明かりを点けたりお湯を沸かしたりしていません。更にれて行くと……ありました、電気自動車の出現です、と思ったら、それは不思議な力で動く電気馬車のことであり、電気が原動力として使われてはいないようです。

 さて、ここでネットの世界を離れ、まだ半信半疑の美津子はテレビをつけて見ました。それに明確な目的があったわけではありませんが、まあ、気晴らしというか気を逸らそうとした、というところでしょうか。そうしてテレビを何となく見ているとニュースの時間になりました。そこでは魔力発魔所の新設について賛否両論だとかなんとか。魔力は環境に悪いとか、いや、今こそ必要なのだという意見が飛び交っている、そうですが、話は逸れてこの発魔所をどう読むのかというと「はつましょ」となります。しかし言い難いので「はましょ」と言うらしいです。

 そんな知識を得た美津子は電話ではなくネットで電気料金を調べました。すると手元の請求書はどうやら正しい金額であることが分かり、その請求書が正しいことが確認できました。ただしそれが『魔力』であること以外は……、です。そこで、フッと名案が浮かんだ美津子です。過去の請求書を見れば一目瞭然、今回のはやはり何かのイタズラと考え、早速先月の請求書を——ありません。そんな支払い済みの請求書を残して置くような美津子ではないのです、綺麗さっぱり処分してしまっていました。

 でも、このくらいでヘコタレルような美津子ではありません。電気がダメなら水道、若しくはガス料金があるではありませんか。それらはまだ未払いのため手元に……どこかに有るはずです。その記憶を手繰り寄せながら——ありました。フフッ、これで真実は明らかになったぁぁぁ、と水道料金の請求書を見ると……これも魔力料金とな。さればガスはどうじゃと見てみると、ムムッ、これも魔力料金とな、という具合でした。

 こんなことがあって良いものでしょうか、これでは——で、考えた美津子です。もしかしたら自分の頭が変になってしまったのか、それとも世間が、世界が改変されたとでもいうのか。そのどちらでもない事で困る美津子です。これでは電気も水道も、序でにガスも区別がつかないじゃないのよぉぉぉ、と心で叫びました。すると、あることに気が付いたのです。それは、そう、だからと言って困る程ではない、ということです。少々間際らしいことですが、それが日常をひっくり返す程ではない、よって忘れてしまおう、という判決が出てまいりました、これにて一件落着です。

◇◇

 コンビニに向かう美津子です。取り敢えず、世界がどうであれ請求書から逃れられるという奇跡ではないので、細かいことは無視して、支払うべきものは払っておこう——というのは建前で、何がしらの用事の序でに、無意識または心が抜けた状態で体が勝手に支払う、という風に自分で自分を躾けていました。

 そうしてコンビニに近付くと、何やら入り口付近でオジさんが三人、「あーでもない、こーでもない」と会話しているのが耳に入ってきました。しかし入口付近に立っているため邪魔で仕方ありません。そんなオジさんたちを横目で見ながら「よっこらしょ」と側を通り過ぎると、何やら真剣な顔をしたオジさんたちです。ですが、そのオジさんたち、美津子とそう歳に違いはないと思います。ということは、あちらからすれば美津子はオバさんということに……。

「そろそろ魔力が尽きそうだな。そろそろ、またあそこに行くか。そろそろ、そんな時期だろう」

「そんな時期って、あした行かないとまた怒られる。あのおっさん、家族には優しいけど、外の者にはキツイからな」

「ちょっと、まずいよ。ここで魔力とか魔法なんて喋ったらまずいよ」

 オジさんたちの会話を耳にしながら、「ここでも魔力、恐るべき感染力だわ。でも、本当なのかしら」と思いつつお店の中に入って行きます。それから商品棚をクルクルと回りながら、やっぱりお買い物は次にしよう、という顔を作ってからレジカウンターに向かう美津子、一種の儀式のようなものです。そうして無言で電気料金の……魔力料金の請求書を店員に見せると目を逸らす美津子です。——そう、心のどこかで現金払いは恥ずかしいと思っているふしがあるのです。ですから心の中で、これは私の主義主張なのよぉぉぉ、と言い訳しながらそれでも目を逸らさずにはいられないのは、ここに居るのは私であって私ではない、と思いたいからのようです。

 さて、支払いは瞬時に終わり、あとは何事もなかったようにお店を出るだけとなった時、その一歩が踏み出せない美津子です。お店の入り口で小耳に挟んだものの直接聞いたことないアレを確かめたくてウズウズしてきたようです。

「これ、電気……魔力料金、ですよね」

 そう店員に尋ねると、「はあ、そうです」と興味なさそうに返事をしてきました。それで「やはり」と思いたいところでしたが、興味が無いという点で適当に返事だけしたのではないか、という疑念が湧いたようです。ですが、「本当?」と聞き返す訳にもいかず、そのままお店を後にした美津子です。

◇◇

 自宅に戻った美津子は一息ついた後、魔力のことは忘れてしまおうと努めました。何はともあれ、電気や水道などの呼称が魔力になったところで、「それがどうした、私にはちっとも痛くも痒くもないぞ」と、慣れるか無視するに限るとの思いに至ったようです。

 そうして日が暮れるまで仕事のことをウンウンと考えた末、やっぱり、あのコスプレ少女店員と出会ってから世界がおかしくなったんだぁぁぁ、元凶はあの子なり、という結論に達したようです。ということは……仕事のことは全く考えていなかったということでしょう。それにしても何かを思い立って出掛けたのが、ちょうど24時間前のこと。まさしく「魔が差した」瞬間です。夕暮れ時に何かに閃く、それが美津子のようです。ということで早速、世界を狂わせた魔王の娘ことコスプレ少女店員の元へブロロ~ン、と車を飛ばして参ります。

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